
「Getty Images」より
サラリーマンにとって「定年退職」というのは人生における一大イベントと言って良いでしょう。今の時代は働いている人の大半がサラリーマンですから、多くの人にとって「定年」は無関心ではいられません。特にお金の面については、それまでの生活とはキャッシュフローが大きく変わります。
収入に関しては、毎月の給料がなくなります。あるいは再雇用で働くにしても大幅に減少することは避けられません。公的年金は通常は65歳からの支給です。企業年金がもらえるところもありますが、そういう会社はあまり多くありません。
したがって、多くのサラリーマンにとっては、定年後の収支計画を考えざるを得なくなるのは当然と言っていいでしょう。
定年後のマネープランについてアドバイスをする本や記事はたくさん出ています。それらのアドバイスを見てみると、大きく分けて2つの傾向が見られます。
ひとつは老後の支出の見直しです。これはファイナンシャルプランナーの人たちがよく提唱していることです。
そしてもうひとつは、資産運用によって“お金に働かせること”を考えるべきだ、という考え方で、こちらは金融機関や一部の評論家の人がよく言う意見です。
しかしながら、私は7年前に会社を定年退職しましたが、その後の生活実感から言えば、これら2つの意見についてはどちらもやや疑問に思っています。
節約しなくてもサイズダウンできる
まずは支出の見直しですが、見直し自体はとても重要なことです。ただ多くの場合、これを「節約」とイコールだと考えがちです。
でも長年会社勤めをして引退したのであれば、誰もが引退後の生活を楽しみたいと思うものです。そんな定年後の生活において、何でもかんでも節約するというのは実に気が滅入ります。
あえて節約を強く意識しなくても、私の経験では退職後の生活費は自然に2~3割程度は減少します。現役時代の習慣で何となくとっていた雑誌や新聞の購読をやめたり、ほとんど行ってないスポーツジムを退会したり、そして何よりも無駄な保険を解約することで収支はかなり改善します。
一方、「老後はお金に働かせましょう」といって投資を積極的に勧められることがありますが、投資の結果というのはあくまでも不確実であり、それをあてにするというのはやめたほうがいいでしょう。
もちろん投資が悪いということではありません。ただ余裕資金であればともかく、生活資金を投資に回してその成果に頼るのはあまりにも危険だからです。
では、老後のお金に関する基本スタンスはどう考えればいいか?
一カ月に5万円稼げればいい
私が考えるのは、報酬の多いか少ないかはともかく、可能な限り働き続けることです。“お金に働かせる”前に“自分で働く”ことを考えるべきだということです。
しかしながら、「働きたくても働く場がない」と考える人は多いでしょう。たしかに現役時代と同じぐらいの報酬を得ようとしても、それはなかなか難しいでしょう。ところが定年後は、月に数万円稼げれば十分なのです。
先般も話題になったいわゆる「2000万円問題」ですが、あの話のもとになったデータは総務省の「2017年家計調査報告」で、高齢夫婦無職世帯の家計収支がおよそ毎月5万4000円の赤字になっているという数字です。
この5万4000円を30年間続けたとしたら、その金額は1944万円になります。ここから2000万円不足という数字が出てきたのです。
実際は不足ではなく、高齢夫婦無職世帯の平均貯蓄額は2484万円あるので、年金で足らない分はそれを取り崩して生活をしているだけです。そこで2000万円を貯めておかないとダメだ、とか退職金を取り崩さなければならないという話になるわけです。
ところが発想を変えて、定年後も毎月5万円程度を何らかの形で働いて収入を得るのであれば、仮に年金収入を上回る支出があっても大丈夫だということになります。実際、月5万円ぐらいであればシニア層でもそれほど無理なく稼ぐことは可能でしょう。
もちろん90歳まで働くことは難しいかもしれませんが、毎月の支出は年齢が上がるごとに少なくなるのが普通です。それに毎月の不足額を働いて補うことができれば、退職金や自分の預金を取り崩すことなく、温存することもできます。
年をとって要介護の状態になったり、高齢者向けの施設に入居したりすることも可能性としては考えておくべきです。施設によってピンからキリまでありますが、入居時にまとまった費用が必要になるケースもあります。
そのためには、ある程度まとまったお金は、できれば温存しておきたいものです。投資をするにしても、このように確かな生活の経済的基盤を作った上で行うべきです。
“お金”君はいつでも機嫌よく働いてくれるとは限りません。やはり「お金に働かせる」前に「自分で働く」べきではないでしょうか。