保育士の賃金はなぜまだ低いのか 補助金が圧倒的に足りていない

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「Getty Images」より

 先月、保育経験が計7年目の保育士の手取り額が12万円であることを報じた沖縄タイムズの記事が話題を集めた。保育士の待遇の悪さは広く知られる問題となっているが、経験を積んでもワーキングプアに陥る可能性があるという。

 政府も保育士の凄惨な現状を把握しており、待遇改善のために動きを見せている。

<保育士の給与を2019年度は約1%改善(月額約3千円程度)します。>
<技能・経験に応じて月額5千円から4万円の給与改善を行っています。>

 しかし元々の賃金が低すぎるゆえ、月収が数千円~数万円上げる程度ではあまりに生ぬるい。本気で改善する気があるのなら、そもそも高給を提示すべきだ。

 なぜ保育士の待遇は一向に改善されないのか、その原因を知っておく必要がある。病児保育や障害児保育など様々な保育サービスを提供している認定NPO法人フローレンスで代表理事を務める駒崎弘樹氏に、保育士を取り巻く現状を伺った。

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駒崎弘樹
認定NPO法人フローレンス代表理事。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。08年「Newsweek」の“世界を変える100人の社会起業家”に選出。10年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」開始。のちに小規模認可保育所として政策化。14年、日本初の障害児保育園ヘレンを開園。15年には障害児訪問保育アニーを開始。内閣府「子ども・子育て会議」委員複数の公職を兼任。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 』(PHP新書)等。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。

補助金を増やす措置が必要

 保育園という組織は、一般企業とは全く違う方法で運用されている。まずはそのことを理解しなければならない。

駒崎氏「家庭の所得に関わらず平等に保育を提供するため、認可保育園では、保護者の払う保育料は家庭の所得に連動して決まっています。そこを補助金が補填する形で基礎収入が固定されているため、給与引き上げの原資となる利益も頭打ちとなり、給与の引き上げは構造的にしづらい状況が生まれています」

 また、保育士が1人でみる子どもの数は法的に決められており、かつ限界の人員配置となっている。

駒崎氏「人的コストは削減できません。個々の保育園の努力には限界があり、低賃金は制度的な問題によるものですので、早急に補助金を増やす措置が必要です」

 認可外の保育園の待遇は、認可保育園よりもさらに酷い。なぜかというと、「認可外には国からの補助が全くないから」だ。

駒崎氏「完全な認可外保育園は、保護者から受け取る保育料だけで切り盛りしなければならず、保育士に払える給与は必然的に少なくなってしまいます」

 給与面の問題ばかりではない。その他の待遇でも、不満や問題点は多くあるという。

駒崎氏「さまざまな問題がありますが、例えば先日東京・千葉を襲った台風では『保育園が休園できない問題』が露呈しました」

 9月9日、千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号。東京都内も電車が始発を遅らせ、出社時間を遅らせたりリモートワークに切り替えたりと多くの職場が柔軟に対応したが、それでも保育園は通常通りに開園し、子供たちを預かった。開園しなければいけなかったからだ。

駒崎氏「小学校では、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第63条又は学校保健安全法第20条の規定に基づき、臨時に『授業を行わないことができる』又は『学校の全部又は一部の休業を行うことができる』と定められています。

 しかし保育園には、臨時休園に関する国の法律や政令などが存在していません。休園の判断は自治体に委ねられ、『保育園は何があろうと開ける』という慣習が生まれてしまっています。そのため、保育士はまだ暴風雨が止まず危険な早朝に家を出たり、園の近くに前泊したりするなどの対応を迫られます。

 この話ひとつとっても、いかに保育士の働き方や働く環境についての議論が、社会的にないがしろにされ続けてきているかがわかりますよね」

保育現場の働き方改革にインセンティブを

 では政府が進めている保育士の待遇改善は、十分と言えるのだろうか。

駒崎氏「保育士不足の2つの理由である『給与が低い』『過酷な労働環境』のうち、前者については一定の効果をもたらすのではないかと思います。同時に、後者の働き方改革も進めていかなければなりません。

 保育園には、長時間労働、サービス残業、持ち帰り残業が蔓延しています。中には『壁面装飾等の制作物は持ち帰りで、材料も自腹』というブラック保育園もあります。こうしたブラック保育園を摘発していくと共に、働き方の改善が進む保育園を表彰する等、働き方改革へのインセンティブをつけていく必要があるでしょう。

 処遇改善と働き方改革。この両輪を、これからも機動的に回し続けていくことで、保育士不足を解消し、待機児童問題を解決していかねばなりません」

 10月から幼保無償化が本格的にスタートしたが、利用者増加に伴う保育士不足などの問題がかねてより予想されている。ただ、無償化如何にかかわらず保育士不足は慢性的な問題だ。

駒崎氏「保育士の処遇改善を行い、給与も全職種の平均給与額程度まで引き上げる必要があると考えます。加えて待機児童の解消、全入化も同時に進められるべきです。

 また、障害児保育や一時保育、夜間保育など、多様な保育が必要とされているにもかかわらず、そのインフラも整備されていません。このままでは需要と供給のミスマッチは激しさを増し、無償化の恩恵を受けられる人とそうでない人の格差はより大きく開いていくでしょう」

 つまるところ、政府がすべきことは「十分な給与を支払えるだけの補助金の上乗せ」と「過酷な労働環境の改善」、この二本柱を急ピッチで同時に進めることが求められる。

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