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障がい児を抱え離婚した女性が構築した、頼れるネットワーク

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「Getty Images」より

 シングルマザーの高橋のどかさん(仮名)は現在、保育士の仕事をしながら10歳と7歳の男児を育てている。長男には身体的な疾患と精神発達の遅延の両方がある。次男はこだわりが強く癇癪を起こしやすいタイプだという。

 長男は生まれてすぐ、上顎と唇が裂けている口唇顎裂と、鼻の軟骨がない鼻骨欠損であることが判明した。さらに大動脈と肺動脈をつなぐ管が開いた動脈管開存症という心臓疾患があることもわかった。生後5カ月で手術を行い、10歳になった今も、病院通いは終わらない。

障がい児を育てる専業主婦が、離婚を決意した理由

 これまでこの連載では、子育て世代に突如襲う病いの体験について取材をしてきた。自身が病いを抱えながらの子育ては本当に大変なことだ。だが、同時に、わが子の…

ウェジー 2019.10.19

 夫とは3年前に離婚。絶縁したわけではなく、現在も別れた夫とは頻繁に連絡を取っており親子関係は継続しているが、日々の生活をワンオペで回していくのは相当大変ではないか。だからこそ、シングル親として障がい児を育てるにあたり、のどかさんは複数のサポートを得ている。後編はそれを紹介していきたい。

病いと子供と私

同じ価値観の子育て仲間が第一のサポーター

 シングルマザーになって3年。元夫や実家の親には、距離や子育て方針の違いからそれほど多くは頼れないというのどかさん。頼れるのは「他人の手」だ。もちろん行政の福祉サービスも出来るだけ活用している。

「現在、長男に関しては、障がい者手帳を持っているので、障がい児のための学童のような『放課後等デイサービス』、家から連れ出してくれて買い物や外食、プール、カラオケなど余暇的なサポートとしても使うことができる『移動支援』を主に利用しています。少しでも、専門家の手に任せられると私も安心です。

 他には一般の学童も利用していて、土曜日に預けられるので助かっています。長男は地元の公立小学校の特別支援学級に在籍しているのですが、学校の先生も親目線で、個別の支援計画や教育支援計画を考えてくれるのでありがたいですね」

 公のサービスにも頼りながらも、のどかさんがもっとも頼りにしているのは「ママ友」の存在だという。

 のどかさんは、体が弱くアレルギー症状もある長男を、できるだけ健康な状態で育ててあげたいと、東日本大震災後のタイミングで住まいを東京郊外に移し、食材に気をつかい和食を提供する保育園に入れた。園の仲間とともに、親子で田植えや山登りを体験するようになると、長男も、3歳違いの次男の様子も劇的に変わっていった。

「長男は体は弱いけれどエネルギー過多。家にいるとなんでも触ってしまって物をすぐに壊したり、とにかく声が大きくてすぐ大声を出したりして、私は常に『ダメ、ダメ!』ばかり言ってしまう。それに長男に手がかかる分、次男は甘えたい気持ちが強く、すぐ癇癪をおこしてしまうんです。

 私もどうしてもイライラするのですが、山に行って体を動かすと、それがすごくいい具合に緩和される。自然の中で体を動かして発散すると、同時に元気が充電されていくんですね。私自身がおおらかな気持ちになれるんです」

 同じ育児方針を持つ親と子育ての悩みが共有できると気持ちも楽になる。保育園を卒園して数年経った今でも、この時に知り合ったママ友とは繋がっている。仕事や通院で困った時は子どもを預かってもらうこともあるし、逆に家で他の子を預かることもあるという。

「人数が多くても、子ども同士で遊んでくれるから楽。保育園は縦割り保育で、障がい者も健常の子も一緒に育つ園だったので、みんな上手に遊んでくれるんです」

 また、離婚を決意する少し前から、のどかさんは新たな勉強を始めていた。大学の教育学部の通信コースに通い、特別支援学校で教えるための教員免許を取ることにしたのだ。

 ここでの学びも、のどかさんの子育てを支えた。

特別支援を学んで仕事につながった

「最初は、長男のように“育てにくい子”へのヒントを得たいと思って、特別支援の勉強会に出かけました。特別支援学校で仕事を体験をする中学生をサポートするボランティアも同時に行って、自分は障がい児を育てる親として困っている当事者だけど、こんな私でも誰かの役に立てると知って。それで、本格的に大学で特別支援の勉強を深めて、教員資格を取ろうと思ったんです」

 2016年の10月に大学の通信教育をスタートし、児童の発達について学びを深めると、自身の子育てもずいぶん楽になったという。

「たとえば長男は刺激に弱く、注意が散漫になって、思いついたらその場で行動してしまうタイプ。朝の出かけ前などつい急がせて怒ってしまっていましたが、『叱られても理解できないことが多い、叱るより寄り添う方が効果的』ということを学ぶと、イラっとすることがあっても、なんとかその気持ちを抑えられるように。

 『早く着替えなさい!』ではなく『今何してるの? そっかー、絵を描いてるんだね、でも今、どうする時だっけ?』と聞けば、着替える時だと自分で気づいて行動してくれるんです。叱らずに気づかせる方法が効くんですね」

 二年間かけて学び、教職をとり安定した仕事につけたら、離婚を切り出そうと思っていたという。だが、「やまゆり事件」後に露呈した価値観の違い(前編参照)から、思いがけず急速に離婚の話が進み、8月に離婚。そこで彼女は、地元の小学校が学校支援員の募集をしていることを知り、週3日程度のアルバイトを開始した。

「支援員の仕事は、普通級で学習の補佐をする仕事です。教員免許を取るにも役立つかと思ってはじめました。でも、私が特別支援の勉強をしているとわかると、支援が必要なお子さんの相手を任されることも多くなったんですね。それはそれでとてもやりがいがありました。

 普通級にいる子でも、感情が爆発する子もいる。そういった子を体で止めて、ゆっくりと話しかけて落ち着かせたり。毎日事件が起きましたが(笑)、いろんな子がいるとわかって、息子たちのことも客観的に見られるようになりましたね」

 さらにのどかさんは、これと同時に独学で保育士資格取得の勉強を開始し、二カ月後には筆記試験を通過、翌年の17年3月には保育士免許を取得してしまったというから、そのパワーには驚く。

「本当に偶然が重なったんです。たまたま友人が『勉強しているなら、保育士試験も受けてみたら?』といって、使い終わった参考書を一式譲ってくれたんです。せっかくならと駄目元で勉強したら、まさか合格して(笑)。

 もちろん今も、特別支援の教員免許は取りたいと思って大学の勉強は続けていて、学校の支援員の仕事も2年続けました。でも、資格も取れたし、これは保育士になれ、ということかなあ、と、今年の4月からは週4日パートの保育士として働いています。経済的にはまだまだ厳しいですが、元夫もきちんと養育費を支払ってくれているので、そこは助かっていますね」

「Getty Images」より

 子育てと仕事と勉強と……一体どう時間をやりくりしているのか、と思うが、大切なのはマイペースでやることだ、とのどかさんはいう。

「自分のペースで勉強できる通信教育だったのがよかった。スクーリングは祝日や夏休みなどに行われることが多いので、元夫やママ友に子どもをお願いしてしのぎました。夜はヘトヘトだから子どもと一緒に20時ごろ寝て、レポート提出前は2時半ごろ早起きして勉強する。といっても、普段は睡眠時間は8−9時間しっかりとっていました。

 学校支援員は、14時半ごろ仕事が終わるのでそのあとカフェや図書館で勉強もしていました。ただ保育士になって、パートとはいえ働く時間が長くなったから、その点は大変です。家事は息子たちにも手伝ってもらっています」

困った時にSOSを出せる人がたくさんいる

 そうは言っても、障がい児の育児だけではなく、仕事や勉強を掛け持つのどかさん。やりがいはあるとはいえ、多忙すぎる日々に、最近体調を崩しがちだと言う。

「忙しさ、というよりもやっぱり、一番のストレスは、ワンオペ育児と長男の通院の多さなんです。それだけでは煮詰まってしまうから、勉強や仕事はストレス解消の手段です。でもさすがにここ一年くらい、疲れやすくなっていて。

 最近、電車や人ごみに行くと、周りの方の香料にやられて、発作的に息苦しさや吐き気、めまいを感じるように。特に、特定の柔軟剤や香水にやられるらしく。ある時は1時間半くらい倒れて動けなくなって、救急診療に運び込まれたこともありました」

 心療内科では、ストレスが原因での身体表現性障がいと診断された。

「でも結局、息子の通院が優先でなかなか自分のケアはできていないですね。倒れないように気をつけなきゃ、と思っていますが……」

 もしもというときのサポートを、自分で見つけなくてはいけない。のどかさんは、困った時にSOSを出せる人を改めてノートにリストアップした。

 ノートには、両親や元夫、保育園や学校、医療機関、支援施設だけでなく、子育てや勉強、仕事を通して出会った数々の知人・友人たちの名前が書き込まれていた。

「子どもとちょっと遊んでもらえる人は誰か、一晩預かってもらえそうなのは誰か、私自身のストレスを解消してくれるお友だちは誰か、専門的なアドバイスをくれる人は誰か……そんなふうに名前をあげていったら、本当にたくさんの人が周りにいてくれることがわかって。

 でもこれはみんな、息子たちの子育てを通して知りあった人たちなんです。障がいや病気がある子どもの子育てはやっぱり大変です。でもそんな息子たちのおかげで、私はこんなにも豊かな日々を送れているんだ、と改めて感謝しています」

 出産も育児も、思い描いた通りには進まない。時には大きな壁にぶつかることもある。でもその壁を一つ一つ乗り越えていく先に、過去には想像もしなかった豊かな世界が広がっていることもある。育児の本質的な醍醐味を、のどかさんは教えてくれた。

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