
「Getty Images」より
筆者は、前回の記事「Aマッソ・金属バットの差別ジョークが許されない理由は『色の薄い黒人はマシ』『黒人は泳げない』~アメリカの歴史を知ればわかる」に以下のように書いた。
「(漫才師によって黒人への人種差別ネタが発される)事態が起こる理由は、日本にはごく近年まで黒人がほとんどおらず、かつ欧米とアフリカにおける黒人の歴史、その歴史に基づく人種差別の激しさ、差別の手法、差別撤廃努力の長い道のり、および現状が知られていないことだ」
Aマッソ・金属バットの差別ジョークが許されない理由は「色の薄い黒人はマシ」「黒人は泳げない」~アメリカの歴史を知ればわかる
大阪の女性漫才コンビ・Aマッソ、やはり大阪の男性漫才コンビ・金属バットが、それぞれ先月(2019年9月)と、昨年(2018年12月)に黒人差別をネタと…
日本に黒人の人口が極めて少ないのは歴史的な経緯による。
本来はアフリカにいた人々が奴隷として主にカリブ海諸島・中米・南米・北米に連行され、それぞれの土地に根付かされた。各地で支配層のヨーロッパ人や先住民と交わり、混血化。奴隷制終了後はカリブ海諸島・中南北米の中での移動もあり、さらにアフリカ諸国から他国への移民としての移動も始まった。しかしアジアはその流れの中にいなかった。
アメリカ黒人の歴史
この歴史に基づき、米国の黒人も出自は多様だ。
・400年前から約250年間続いた奴隷制の時代にアフリカから連行された人々の子孫
・アフリカからジャマイカやハイチなどカリブ海諸国へ奴隷として連行された人々の子孫で、奴隷制終了後から現在にかけて移民として米国にやってきた人々と、その二世、三世以降の人々
・奴隷制終了後から現在にかけてアフリカ諸国から米国に移民としてやってきた人々と、その二世、三世以降の人々
上記の人々が相互に交わり、または白人、ネイティヴ・アメリカン、アジア系、ヒスパニックなど他の人種や民族とも交わり、さらなる混血化が進んでいる。
スペイン語圏に連行された黒人奴隷とその子孫はスペイン語話者となり、多くはヨーロッパ人や先住民との混血だ。のちに米国に移住した人々はヒスパニック/ラティーノ(最近ではLatinx)と分類されるが、人種として黒人色の強い人々は「アフロ・ラティーノ」と自称/他称される。
フランスやイギリスなど欧州諸国には、かつて植民地だったアフリカ諸国やカリブ海諸国からの移民がおり、カナダには米国を脱出した奴隷の子孫が暮らしている。こうした人々の中から米国に移住するパターンもある。
その他の歴史背景を持つ黒人も世界各地に暮らしており、そこから米国へ移住するケースもある。
「黒人」の呼称
この原稿で「黒人black」という呼称を使っているのは、上記すべての人々を総称するためだ。アメリカでは「アフリカン・アメリカン(アフリカ系アメリカ人)」と呼ぶことが多いが、例えば、ごく最近に他国からアメリカにやってきた黒人をアフリカン・アメリカンとは呼びにくい。
アメリカの国勢調査は10年に1度であり、次回は来年2020年に行われる。調査の中には人種を問う項目がある。前回2010年版の人種欄での「黒人」に相当する項目は「ブラック、アフリカン・アメリカン、またはニグロ」と表記されていた。
国勢調査票は米国市民だけでなく、移民(ビザなしを含む)にも配布されるため、「アフリカン・アメリカン」に該当しない人も存在する。「ニグロ」は現在、蔑称として使えない言葉だが、かつては黒人を指す一般名詞であった。その時代を体験している高齢者のために残されているものと思われる。来年版でも使われるかは不明だ。
1950年代以降の黒人運動の盛んな時期に使われた「アフロ・アメリカン」は、今ではそれほど使われなくなっている。
すべての黒人のルーツはアフリカにあることから、奴隷制によって世界中に離散させられた人々として「ディアスポラ」(離散させられた人々)と呼ぶこともある。黒人文化的な文脈でのみ使われる。
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