社会

「ハーフアスリート」という日本独自の人種カテゴリー:実は多彩な黒人と日本人のミックス

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「ハーフアスリート」

 こうした多彩な人々がそれぞれの理由で日本にも暮らしている。第二次世界大戦後には黒人米兵と日本人女性との間に生まれた人々がおり、当時は「混血児」と呼ばれて相当な苦労を背負わされた。

 近年の日本で特に話題となるのが、黒人と日本人を両親に持つミックス(ハーフもしくはダブル)の人々だ。わけてもアスリートたちの活躍が日々盛んに報道されている。しかしながら報道記事の中にさえ人種と国籍を混同し、かつハーフをことさらに特殊なカテゴリーと掲げるものを見掛ける。

 例えば「ハーフアスリート」という言葉がある。特集記事の中には、テニス、陸上、野球、バスケットボールなどあらゆる競技種目の「ハーフアスリート」を一堂に並べるものがある。

 ある記事は「『ハーフアスリート』驚異の身体能力に迫る」と題されていた。人種別の骨格や身体能力を科学的に解説する内容ではあったが、「驚異の身体能力に迫る」は際立って異質な物を検証するニュアンスを含んでいる。

 別のある記事には「ハーフアスリートは日本人離れした体格」という表記があった。

 「日本人離れ」は多くの場合、外観や能力などが「日本人より優れている」、または「一般的な日本人とは異なる」という意味で使われる。日本人のステレオタイプが規定されており、そこからはみ出る人を指し、同時に日本人であることを卑下する言い回しだ。

 この文脈での「日本人」は国籍ではなく、人種を指す。「ハーフアスリート」の多くは日本国籍を持つ日本人だ。記者もそのことは知りつつ、外観から(おそらく無意識に)彼らを非日本人と捉えてしまっているのだと思われる。

 また、日本人と黒人のミックスの選手については「黒人は身体能力が高い」とし、かつ「日本人は技術や戦術が得意」とする記述があった。黒人の人種特性と、日本の民族性が合わさることから、記事は「ハーフならではの強さ」と締めくくられていた。

 以前、筆者がある記事に大坂なおみ選手を「黒人」と表記した際、校閲部より「ハーフまたはダブルだが?」との確認が入った。オバマ元大統領は黒人と白人のミックスだが、過去にオバマ大統領を黒人と書いたときには、こうした確認はなされなかった。

 スポーツ記者だけでなく事実確認を専門とする校閲員すら、日本人と黒人のミックスの人々をその外観から日本人とは認めがたく、しかし日の丸を背負い、国際舞台で活躍する「ハーフアスリート」については、なんとか日本人側に引き寄せたがっていることが伺える。

「お寿司食べられるの!?」

 日本に暮らす、いわゆる一般人のミックスの日本人たちは外観の違いから日本人と見做されず、苦労を強いられている。

 筆者の友人の息子(母親は日本人、父親は黒人)は日本で生まれ、和食を食べて育ち、日本語しか話さない。しかし幼い頃に寿司屋に連れて行くと、見ず知らずの客から「お寿司が食べられるの!? 偉いねえ!」と声を掛けられたと言う。黒人としての外観から日本人ではないと判断されたのである。

 こうしたミックスの子供たちは成長後、アイデンティティの問題にぶつかる。自分は日本人なのに、周囲はそう思わない。黒人としての側面は「スポーツやダンスに秀でている」といったステレオタイプで括られてしまう。

 挙句に、漫才師に「漂白剤を使え」「黒人の触ったもんに座れるか!」と笑い者にされるのだ。

 筆者自身の息子も黒人だ。養子であるため、日本人とのミックスではない。息子が幼い時期、日本に帰省すると周囲から「カワいい!」の大合唱となった。観光地では振袖の若い女性たちに囲まれ、レストランでも若い女性のグループ客から手を振ってもらい、ウェイターさんは息子にとてもよくしてくれた。会計の際にはレジ係の女性が唐突に商品をお土産として手渡してくれたりもした。

 今、息子は高校生だ。自分が養子であり、私と血縁がないことは知っている。それでも日本人の母親とアフリカン・アメリカンの父親に育てられたことから「僕はジャパニーズ」と宣言し、「いつか日本に住みたい」とさえ言い出している。機会があれば叶えてやりたいと思う。しかし幼児ではなくなった今、10年前のあの待遇はもう受けられないはずだ。あの「カワいい!」は、ノヴェルティとしての扱いだったのだ。

 今や母親の背丈を越え、黒人の顔立ちと肌の色であり、日本語を話さず、日本の文化風習もそれほど知らず、そもそも日本国籍ですらない。言葉や習慣は今からでも学べるが、外観と国籍は変わらない。息子が「ジャパニーズ」なのは本人のアイデンティティにおいてのみであり、日本では通用しないだろう。

大坂なおみの国籍問題

 大坂なおみ選手も生まれは日本だが、3歳でアメリカに移住し、日本語は流暢ではない。母親が日本人、父親がハイチ系アメリカ人であることから日米の二重国籍者だが、今月16日に22歳の誕生日を迎える。日本は重国籍を認めておらず、大坂選手のように出生によって重国籍となった者は22歳までにどちらかの国籍を選択しなければならない。

 大坂選手はかねてより東京オリンピックには日本チームの一員として出場したいと語っている。オリンピックのルールでは、選手は所属国の変更後3年は異なる国から出場できないとなっている。

 だが、仮に大坂選手が米国籍を選んだとしたら。星条旗を背にプレイすることになったら。それでも大坂選手が日本人の母から生まれた事実は変わらず、本人は日本人としてのアイデンティティも維持するだろう。だが、日本は果たして Naomi Osaka を日本人として受け入れ続けるだろうか。
(堂本かおる)

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