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ワンダーウーマンは「私のヒロイン」じゃない~社交性ゼロの女性ヒーロー待望論

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社交性が低いヒーロー

 私のお気に入りのヒーローであるクイックシルバーとフラッシュの共通点は、一目瞭然です。2人とも速度が特徴のヒーローであるということと、著しく社交性が欠如しているということです。両者とも超高速で活動することができるのですが、そのせいで周りの人にあわせることがなかなかできず、社会生活上の問題を抱えています。

 『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014)を観賞した時、クイックシルバーが周りの人の行動速度が自分より遅いことに戸惑っているらしいのを見て、ものすごくよくわかると思いました。私はとにかくせっかちで、この連載の原稿はだいたい毎回、1本あたり4時間から半日くらいで書き上げています。1万3千字くらいの論文を1日で書いたことがあります(他の人と話して気付いたのですが、私はかなり書く速度が速いようです)。

 あまり表には出さないようにしていますが、数千字くらいなら半日で書けるのになんであの人は原稿を出さないんだ……とか、その程度の作業ならすぐ終わるのに……と、仕事をしていて他人の速度にイラつく時がたまにあります。そういうふうに周りの人に苛立つのは悪いことだと思っていたのですが、クイックシルバーが自分そっくりの態度なのを見て、自分みたいなスーパーヒーローが映画に出てくるようになったんだな……と、子供のように嬉しくなったのを覚えています。

 一方でどうも映画の中の描写からすると、クイックシルバーはかなり周りの人にとっては不愉快なことをしているように見えるらしいので、たぶん自分も周りの人にとっては不愉快なのであろうと若干、自分を客観視することができました。

 ジャスティス・リーグの一員であるフラッシュはクイックシルバーよりもうちょっと友達を欲しがっているようですが、それでもだいぶ人見知りが激しいキャラクターです。自分のスーパーパワーを使って気ままに活動していたところ、バットマンに発見され、仲間にならないかと言われて嬉しそうにメンバーになります。私がこの連載を始めるきっかけになったのは、はてなでこつこつ気ままにブログを書いていたところ、サイゾーから声がかかったからなのですが、社会性がなくて得意なことを気ままにやっていたら誰かが見つけてくれて……という経緯に親しみを感じてしまいました。

クイックシルバーやフラッシュのことを書いたのは、私がいかに社交性がないかを強調するためではありません(まあ、ないのですが)。ここで指摘しておきたいのは、このレベルで社交性が低い女性のスーパーヒーローはまだアメリカ映画ではあまり描かれていないということです。

 社交性は性別を問わず社会的に高く評価される素質ですが、女性の場合、明るく感じよく振る舞うこと、とくに男性に対しては微笑みをたやさず接することが良いのだという強い社会的圧力がかかります。この点では、王女として上品な立ち居振る舞いを身につけており、かなりまともな対人スキルを持っているワンダーウーマンは、伝統的な女性の美徳をそなえていると言えます。私がワンダーウーマンよりもクイックシルバーやフラッシュのほうがずっと自分に近いと思う理由は、明らかにこの社交性の欠如にあります。

女性ヒーローの社交性の低下

 クイックシルバーやフラッシュほどではなくとも、最近のアメリカ映画に登場する女性ヒーローの中には、これまでの女性キャラクターに比べると伝統的な女性の美徳としての社交性を備えていない人物も増えてきています。

 マーベル・シネマティック・ユニバースの一部である『キャプテン・マーベル』(2019)のヒロインであるキャプテン・マーベルことキャロルは、そこまで対人スキルが無いわけではないのですが、人に媚びないマイペースな性格です。しかしながら、男性であればとくに問題視されない程度の社交性の持ち主であるにかかわらず、映画の予告が公開された後、ヒロインが無愛想すぎるからもっと微笑めという性差別的なコメントが観客から寄せられ、話題になりました。

 また、ディズニーアニメ『アナと雪の女王』(2013)は2人のディズニープリンセスが主役をつとめる作品ですが、そのうちのひとりであるエルサは特殊能力を持っているので、ある種の女性スーパーヒーローと言えます。エルサはすごく人と接するのが苦手で、センスもちょっと風変わりだし、恋愛にはあまり興味がありません。エルサはアメリカ映画においては画期的なレベルで社交性の低いスーパーヒロインだと思います。ちょっと悲しいのは、この映画がエルサの社交性の低さをあまり肯定してくれないことです。以前書いた批評で指摘したように、この映画は人間嫌いが引きこもって暮らすことは良くない、力を人々のために使うほうがより充実した人生なのだ、という結論に落ちつきます。『アナと雪の女王』は、実はあんまり人間嫌いにやさしい映画ではありません。

 『デッドプール』(2016)シリーズに登場するネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッド(ブリアナ・ヒルデブランド)もいいキャラクターです。いつもぶすっとした不機嫌そうな十代の少女ですが、ちゃんとかっこよく活躍します。『デッドプール2』(2018)ではとても感じのいいガールフレンドのユキオ(忽那汐里)とともに登場しており、無愛想な女の子でも多少の社交生活はあり、恋愛もするのだということをきちんと描いています。

 私は今後、是非こういうトレンドが続いてほしいと思っています。男性ヒーローは既にかなり多様化していますが、女性についてもいろいろな性格や背景を持ったヒーローが出てきて、ビッグバジェットのアクション映画で活躍するようになればとてもステキです。できれば子供の頃にクイックシルバーやフラッシュみたいなヒーローが出てくる映画を見られたらよかったのに……と思っています。たぶんそれが女性のヒーローだったらもっと嬉しかったでしょう。

 映画やテレビに多様なキャラクターが出てきて、子供たちがその中から少しだけ自分に似たヒーローを見つけられるというのは、とても重要なことです。ちょっとしたことで悩んでしまったり、苛められたりすることが多い子供にとって、ロールモデルを見つけることは少しだけ人生が楽になることを意味するからです。今後もどんどんいろいろなヒーローが出てきて、中には社交性ゼロのぶすっとした人見知りの女性ヒーローもいるといいなと思います。

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