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義務教育は無償ではない? PTA会費や給食費…意外とかかる「私費」

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「Getty Images」より

 小中学校は「義務教育」。日本国憲法第26条第2項には、義務教育について「無償とする」と明記されていて、保護者には「子どもに教育を受けさせる義務」があり、子どもには「教育を受ける権利」が保障されています。

 無償とは言っても、公立の小中学校に通っていても、学校のあらゆる<モノ>と<コト>にかかるお金を、保護者は「私費」で負担する必要があります。小学校に入学すれば、まずランドセル、算数セット、お道具箱、文具類、上履き、体操着、鍵盤ハーモニカ、水彩絵の具セット……など教材を含め様々なモノを私費で購入しますね。

 給食費やPTA会費、学納金も別途おさめることになります。今年、お子さんが小学校に入学した知人は、年間7万円ほどが必要だと知ったそうです。

 「給食費とPTA会費と学納金で年間7万円弱、入学してすぐプリントが配られて知りました。ゆうちょ銀行の口座以外不可という指定があったので、学校専用の口座を開設して4月に7万円振り込みました。来年の4月にはゼロになるので、また一年ぶんを振り込むつもりです」

 けれどこの「私費」を支払えない保護者も存在します。たとえば制服をすべて揃えるお金がない、部活動に必要な道具が買えないから部活に参加できないなどの問題も発生しています。さらに、工作用に新聞紙やペットボトルの持参が必要な時もあり、そういったところにも私費は隠れています。

 公立小中学校で保護者が負担する私費を「隠れ教育費」と称し、さまざまな観点から整理・検証した『隠れ教育費: 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(太郎次郎社エディタス)。この本の著者の一人であり、埼玉県川口市の公立中学校で事務主査として勤務している栁澤靖明氏は、すべての子どもが平等に教育を受けることができるように、「隠れ教育費」のムダを省き、削減に努めてきました。

 具体的にどのように削減を進めているのか、栁澤氏に話を伺いました。

栁澤靖明・公立中学校事務主査
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・11年)で事務職員として勤務している。 教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。さらなる専門性の向上をめざし、2014年から中央大学法学部通信教育課程で学び始め、2018年3月に卒業。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究している。『隠れ教育費──公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(太郎次郎社エディタス、2019年)の他、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年)『保護者負担金がよくわかる本』(学事出版、2015年)などの著書がある。

学校事務職員は“私費”の削減に適任

 『隠れ教育費: 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』では、公立小中学の9年間で、保護者は「私費」として一体いくら払っているのか、私費が投じられる学校の<モノ>と<コト>は本当に必要なのかを、徹底的に検証しています。

 <モノ>は、学校の「指定品」や副教材や卒業記念品など、<コト>は学校行事や部活動などです。今後、保護者の私費負担を減らしていくための方法についても紹介されています。栁澤さんはなぜ、この本を上梓したのでしょう?

『隠れ教育費: 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(太郎次郎社エディタス)

――栁澤さんは公務員として埼玉県の学校事務職員に就かれているんですよね。学校事務職員さんって、どんなお仕事なんですか?

栁澤: 学校事務職員は、大規模な学校などを例外として基本的には各校1名が配置されています。おもな職務は、教職員の給与管理、服務管理(休暇・出勤簿など)、福利厚生といった総務的な仕事。そして履歴書の整理や人事異動事務といった人事的な仕事があります。これらの仕事は電算システムが導入され、昔ほど時間はかからなくなりました。

今は、教材・教具などを購入し管理する財務的な仕事、就学援助など教務的な仕事を通して子供たちの教育条件を整備していくような仕事の比重が高まっています。

――学校で扱われるお金には、「公費」と「私費」があるそうですが、保護者が自己負担する「私費」の問題点を発信しよう思われたのはなぜですか。

栁澤:「公費」に関わっている学校事務職員は多いですが、隠れ教育費の領域である「私費」は教員が中心に扱っており、費用面を改善しようという考えはあまりありませんでした。
しかし私費は保護者にとって大きな負担となります。「私費」の適正性の議論をリードできるのは学校事務職員が適任であり、また、「私費」を減らせる立場にもあります。

――なぜ学校事務職員が適任なのでしょう?

栁澤:まず事務職員は「公費」を扱っています。公立学校は公費で運営するべきであり、公費は公的なお金なので適正な手続きが求められるのは当然です。そういった意味で、適正性をリードできます。

公費を適正かつ効率的に使って余剰金が出れば、今まで私費で負担していたものを公費で補うという判断ができます。逆に私費が多くなっていれば、公費を増やす必要があります。その判断をし、手続きできるのが学校事務職員だからです。

しかし公費を把握していない教員が私費を扱っていると、それは出来ませんし、事務職員側が私費について把握していなければ「公費が残ったから来年度用に紙を買っておこう、インクを買っておこう」といった使い方になってしまいがちです。公費と私費の両方を把握し、管理しているということが重要なのです」

――いわゆる無駄遣いに気づくことが可能になるわけですね。

栁澤:加えて、子どもの貧困が問題視されている現代、貧困対策として国も教育費の軽減政策に積極的です。学校現場でも「私費」の軽減から撤廃を目指し、義務教育の完全な無償化を目的として、社会問題を解決していくことが求められます。

――学童期の子どもの貧困対策としては、学校で必要な費用を市町村が負担する「就学援助制度」がありますが、それだけでは不十分でしょうか。

栁澤:就学援助制度は、あくまでも学校で必要な費用の“一部”を負担するものです。私費が援助費を上回っていれば、保護者は幾分かの費用を負担しなければならず、家庭の負担がゼロになるわけではなりません。私は「就学援助制度」にはいくつかの課題を感じています。

――どういった課題ですか?

栁澤:まず課題のひとつは、「“権利”としての就学援助制度」という理解を広めることです。就学援助制度を利用することは、“権利”であり、後ろめたさを感じたり、偏見を持たれることではありません。「就学援助を“受給”している」という意識から「“利用”している」という意識に利用者、非利用者ともに転換させていく必要があります。

次に、「制度を必要な人へ届ける」ための取り組みです。学校および行政が、捕捉率(利用する資格がある人のうち、実際に利用している人の割合)100%を目指し、制度を偶然知った人だけでなく、必要な家庭に必要な情報を届ける必要があります。

――学校および行政が連携して各家庭の状況を把握しなければなりませんね。そのうえで、どのように周知していくのが適切でしょうか。

栁澤:制度の周知は、新入生保護者説明会や事務室だよりなどで保護者全体に向けて行うべきですが、中には日本語をうまく話せない保護者の方もいますので、ケースによっては個別に行うことも大切です。

また、所得の基準だけでは判定できない家庭の困窮状態を把握することも必要で、私が勤める埼玉県川口市の公立小中学校では、給食費の未納が 3カ月以上続く家庭には、「未納通知」に就学援助制度の情報も載せています。

本市の就学援助制度は一定の所得基準により判定がおこなわれますが、そこで漏れたとしても金銭的に困っている状況が説明できれば、その旨を記載した「校長の意見書」を教育委員会へ提出することによって、利用できることもあります。「校長の意見書」は強い効力を持つので、学校事務職員は家庭の状況を丁寧に聴取し、個に応じた意見書を作成することもあります。

保護者も“私費”に疑問を持っていい

――栁澤さんは学校事務職員として、私費の「見える化」や、「必要」「不必要」の精査を実践されてきましたよね。どのような成果を感じられましたか?

栁澤:「見える化」することで、私費をあらゆる意味でオープンにすることができました。
各担当が各費用を集めているようなクローズされた状態から、学校全体でどのくらい費用がかかっているかが可視化され、「学校は多くの保護者負担で成り立っている」という、問題の前提を確認することができました。

その結果、学校の職員全体に「私費を減らしていく」という理念も伝わり、授業方法の改善により、資料集の購入をやめたり、別の教材で安価なものを選択するなど、保護者の費用負担を軽減するために工夫する習慣がつきました。

――「隠れ教育費」に切り込むことが、教員の仕事量を増やしてしまう懸念もあります。教員の忙しさもまた、学校が抱える大きな課題ですよね。栁澤さんの活動について、理解を得るのは大変ではなかったでしょうか?

栁澤:教員の負担を増やしてしまうというのは、私費を減らすにあたってのひとつの課題です。ドリルやワークなどの購入をやめることで教員の忙しさに拍車をかけるようになっていないかといった検討を常に行い、そうならないことが前提で私費を減らすようにしています。

教員の理解を得るにあたっては、「理論」と「実践」の往還でした。研修や日頃の話から意識的に「理論」を伝えるようしていました。そして、切り込むという「実践」を提案する時にも、根拠となりうる理論を同時に伝えました。基本的に、トップダウンで隠れ教育費に切り込むわけではないので、理解し合いながら進めています。

貧困問題や教育を受ける権利の保障など、子どもの置かれた現状を学校全体で理解し、社会的な問題に協力して取り組むための土台づくりを大切にしています。

――保護者も「私費」に関して、意識改革をする必要がありますよね。

栁澤:もちろんあると思います。本当にこの状態が正しいのか、教員も含めて保護者や地域も、通例を疑っていくことが前進につながると思います。

学校評価が行われ、保護者にもアンケートを取るような時代です。そういった機会を利用するなどして、保護者も意見を述べる、疑問を投げかけることから、改善ははじまるのではないでしょうか。

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