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日本からノーベル賞が生まれるのはあと何年? 基礎研究の予算増えず

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Getty Imagesより

 スマートフォンやパソコンに欠かせないリチウムイオン電池の開発に貢献した業績が認められ、旭化成の名誉フェローである吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞した。

 日本人がノーベル賞を受賞するのは、これで27人目。その偉業に日本中が沸き、吉野彰氏はメディアに引っ張りだこの状況だ。

 10日には各局の朝のワイドショーを順番に回っていたが、そのなかのひとつ『モーニングショー』(テレビ朝日系)で、吉野彰氏が日本の大学における基礎研究の現状に対する危機感を語る一幕があった。

吉野彰が語った基礎研究の重要性

 帝国ホテルからの中継で番組に出演した吉野氏は、番組コメンテーターの玉川徹氏から<日本の基礎研究の環境が非常に以前と比べて悪くなっていると聞いている>との質問を受け、<事実、そういう危惧がある>と受け答えた。

玉川氏<日本の基礎研究の環境が非常に以前と比べて悪くなっていて、ノーベル物理学賞の梶田(隆章)先生にお話を伺ったら、このままの日本の状況が続くと、これからノーベル賞というのは出なくなっていくんじゃないかと、そういうふうな危機感をお持ちだった。先生はそういうふうな危機感というのはお持ちですか?>

吉野氏<特に日本の大学の場合、そういうような問題が指摘されていると思います。事実、私も外から見てましてね、ちょっとそういう危惧がありますよね。
 予算(の問題)とかいろいろあるんですけど、基礎研究っていうのは基本的に企業でも大学でもそんなにお金がかかる研究ではないんですよね。大人数でやるわけでもありませんしね。
基礎研究の場合、10個に1つ当たればいいよというような確率なんですよ。ということは、90%はムダな研究をしないと、その1つが出てこないわけですよね。だから、ムダをなくしてしまうと全部ゼロになってしまうんですよね。『ムダかもしれんけれども……』っていう研究は地道に続けないといけないと思います>

 基礎研究の意義が軽んじられ、商品化などビジネスにつながる応用研究ばかり重要視されているという日本の現状に、吉野氏は警鐘を鳴らした。

ノーベル賞受賞者の多くが基礎研究の状況を憂慮している

 これはノーベル賞を受賞した学者や研究者が、受賞のたびに口を酸っぱくして言ってきたことだ。

 たとえば、玉川氏もインタビューのなかで名前を出した梶田隆章氏(2015年にノーベル物理学賞を受賞)は、2015年10月8日付日刊工業新聞の取材に<『もっと研究費がほしい』が研究者の常だが、重要な研究を選び、そこに投資していくという国として科学研究のあるべき姿を保てればと思う。理想としては基礎研究にも常に一定のサポートが必要だ>と語り、基礎研究への投資を訴えた。

 昨年ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏も同様のことを語っている。本庶は受賞後の記者会見のなかで<生命科学はほとんど何も分かっていないところで、デザインを組むこと自体が非常に難しい。その中で応用だけをやると大きな問題が生じると私は思っている><あまり応用をやるのではなくて、なるべくたくさん、僕は(研究費を)もっとばらまくべきだと思う>と発言。応用研究重視の状況の見直しと、基礎研究にかける資金不足への危機意識を投げかけた。

 他にも、ノーベル賞受賞者による応用研究重視の問題指摘は枚挙に暇がない。

一向に増えない交付金

 こうした基礎研究をめぐる環境の悪化は、数字に如実に表れている。

 2019年科学技術白書によると、引用された論文数の国際比較で日本は下落の一途をたどっており、2004年から2006年にかけては4位だったのが、2014年から2016年にかけては中国、カナダ、オーストラリアなどに抜かれて9位にまで落ち込んでいる。

 その原因のひとつとされているのが、国立大学法人運営費交付金の減少だ。科学技術白書によると、2004年から継続して減り続けている交付金の額は2013年以降また一段と落ち込み、2015年以降は横ばいとなっている。

 こうした状況や、基礎研究の重要性は、政府の側も認識しているはずである。

 というのも、2015年、梶田氏と大村智氏(ノーベル医学・生理学賞受賞)が首相官邸で会談した際、安倍首相は<2人の受賞で基礎研究の重要性を認識した。これからもしっかりと支援していきたい>とコメントしているからだ。

 しかし、本当に<基礎研究の重要性を認識した>のかどうかは非常に怪しい。その翌年、安倍首相はOECD(経済協力開発機構)閣僚理事会でのスピーチのなかで、教育改革についてこのように語っている。

<日本では、みんな横並び、単線型の教育ばかりを行ってきました。小学校6年、中学校3年、高校3年の後、理系学生の半分以上が、工学部の研究室に入る。こればかりを繰り返してきたのです。しかし、そうしたモノカルチャー型の高等教育では、斬新な発想は生まれません>
<だからこそ、私は、教育改革を進めています。学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています>

 「役に立つか」という判断基準ではなく、9割がた「ムダ」な研究になるかもしれないが、さまざまな基礎研究にトライすることが重要というのは『モーニングショー』で吉野氏が語ったところである。

 OECDのスピーチで語られた「実用性最優先」の教育改革は、それと逆行するものだ。

 ここのところ科学技術分野における日本人のノーベル賞受賞者が続いているが、それは、かつての日本が基礎研究に力を注いできた結果が今、評価されているのである。

 このままではいずれ、日本からノーベル賞受賞に値する研究成果が生まれなくなってしまうかもしれない。

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