社会

Twitterユーザーはメディアだ。善意のRTでも名誉毀損罪は成立しうる

【この記事のキーワード】

「Getty Images」より

リツイートは「投稿に賛同する表現行為」?

 今年9月、あるひとつのリツイートに関する判決が話題を呼んだ。かつて大阪府知事、大阪市長を歴任し、現在は弁護士をしている橋下徹氏が提起した訴訟に対する判決である。

 橋下氏は、あるリツイートによって自らの名誉が傷つけられたとして、ジャーナリストの岩上安身氏に対し、慰謝料等を請求し、大阪地方裁判所は33万円の損害賠償の支払いを命じた。

 この判決が話題になったのは、名誉毀損にあたるとされたのがリツイート行為そのものであり、リツイートの対象となったツイート自体は岩上氏が投稿したものではない第三者の投稿であった点である。大阪地裁は、岩上氏によるリツイート行為が「(リツイートの対象となったツイート)投稿に賛同する表現行為」であったとして、名誉毀損にあたると判断したのである。

リツイートは被害を拡大させるものでもある

 Twitterは、全世界に3億2500万以上のアクティブアカウントを有し、日本国内のみでも4500万のアクティブアカウントが存在する巨大なSNSである。その言論空間では、情報が尋常ではない速度で距離を超え、即座に世界中に伝達される。真偽不明の情報も少なくなく、フェイクニュースは社会問題となっている。

 読者の中にもTwitterのユーザーは少なくないであろう。かくいう私もTwitterを使い始めて7年になる。Twitterほど気軽に情報発信ができ、また社会的地位に関係なくすべてのユーザーの声を拾うことができるツールは他になく、情報の収集と発信の両面で大変重宝している。

 しかし、昨今社会を騒がせるTwitter関連の事件が相次ぎ、改めて一人ひとりのユーザーがどのような責任を負ってこの巨大SNSを利用しているのかを整理しておきたいと考え、筆を執った次第である。

 記憶に新しいのは、2016年7月、熊本地震の発生直後に、「動物園のライオンが逃げた」などと虚偽のツイートをライオンの写真と共に投稿した20代の男性が逮捕された事件である。

 この事件は、このツイートによって動物園の業務が妨害されたとして、ツイートをした本人が偽計業務妨害罪で逮捕された。しかし、実はこのツイートは多数の人間にリツイートされており、それによって大きく拡散されたために動物園への問い合わせが相次ぎ、動物園の業務が妨害されたという因果関係になっている。つまり、リツイートした人々も業務妨害に加担(法的には「幇助」)していたわけである。

 また、あおり運転を録画した動画が今年大きな社会問題になったが、特に悪質だった常磐自動車道のあおり運転暴行事件について、犯人の同乗者の女性が誤って特定され、事件とはまったく無関係の女性の個人情報がTwitterで拡散された。Twitterのトレンドにはその女性の実名が表示され、女性が経営する会社にも嫌がらせの電話が殺到した。この拡散にも「あおり運転を許さない」と正義感に駆られたユーザーらによるリツイート行為が大きく影響している。

リツイートと名誉毀損

 橋下氏の事件が話題となったのは、フェイクニュースやデマが特定の人物や組織に関連する場合に、リツイートした人にまでその責任が問われるのかが主な争点となったためであり、少なくともこの事件ではそれが肯定された(なお、被告である岩上氏は控訴をしており、本記事執筆時点で当該事件は大阪高裁に係属中であるため、事件そのものは確定しておらず、地裁判決に関する報道の範囲内で本記事を執筆している点は読者の皆様においてお含みおきいただきたい)。

 名誉毀損とは、簡単にいえば、不特定または多数の者に対して、ある特定の者の名声、信用などの社会的評価を違法に低下させることをいう。しかし、ツイートをした本人が表現行為の主体であることは確かであるが、それをリツイートした場合にツイート自体の表現行為の主体といえるのだろうか。

 実はこの点について述べた裁判例がある。東京地方裁判所平成27年11月25日判決(事件番号:平成26年(ワ)第25111号)では、「リツイートは,既存の文章を引用形式により発信する主体的な表現行為としての性質を有するといえるから,本件ツイート等の名誉毀損性の有無を判断するに際しては,リツイートに係る部分をも判断対象に含めるのが相当」であるとした。

 訴訟は個別具体的な判断であるため、上記の平成27年の事件や今回の橋下氏の事件が一般化されるかどうかはまだわからない。リツイートの中には、否定的なコメントとともに行われるものもあれば、プロフィール上で「リツイートは賛同の趣旨を表すものではありません」としているものもある。

 少なくとも今回の事例では、岩上氏がジャーナリストであったこと、18万人を超えるフォロワーを有していること、鍵付きアカウントではないこと、特に否定的なコメントが加えられていないリツイートであったことなどが判断要素になっている可能性はある。

リツイートの責任を負うリスク

 この事件からTwitterの一般ユーザーに与える影響を改めて検討しよう。

 まず、名誉毀損の要件として、不特定または多数の者に対する表現行為でなければならないが、この「不特定または多数」の判断は実は流動的である。1万人でも10人でも「多数」とされる可能性はあるだろう。フォロワー数が0人で、かつ鍵付きアカウントでもない限り、不特定または多数の人物に投稿が流れるおそれがある。

 善意から、故意なくデマを拡散させたリツイートの場合はどうだろうか。故意がないのだから、名誉毀損罪は成立しないだろうか。結論としては、善意かどうかは関係がない。仮に正義感に駆られ、特定された悪者を拡散してやろうとリツイートして、結果的にその人物は悪者ではなかったという場合であっても、少なくとも「このリツイートの結果、この人の社会的地位は低下するだろう」ということ自体は認識できているのであって、名誉毀損罪は成立しうる。

 デマやフェイクニュースの投稿・拡散が仮に名誉毀損罪にあたらずとも、すでに見たように、業務妨害罪にあたることもある。上記のあおり運転の犯人の同乗者に間違えられた女性は、業務妨害罪などで拡散をした人々に対しても責任を問えないか弁護士と検討している段階であるとのことである。

リツイートをする前に考えたいこと

 Twitterには昔、リツイートボタンはなかった。クリス・ウェザレルという開発者が 、小さな声を拡張させるために開発した機能である。しかし、ウェザレル氏は、リツイート機能を開発したことをすでに後悔していると最近のインタビューで明らかにしている。

 この機能が現れる前までは、リツイートしたい人間は元の投稿をコピー・アンド・ペーストして、テキストベースで投稿し直す必要があった。この数呼吸置く設計が、人々を、気軽な、無思考のリツイートから守ってくれていたことを当時ウェザレル氏は気づいていなかった。何も考えずとも反射的にリツイートできる設計になってから、人々は無思考、無批判に、時には正義感に駆られてリツイートを行うようになり、フェイクニュースは爆発的に拡散されるようになった。

 いま、時代は1億総発信時代である。インターネットさえあれば、一人の人間が世界中に声を届けることができる時代だ。このような時代だからこそ、改めて我々が考えなければならないことがある。

  1. 私はメディアである
  2. この投稿・リツイートは、フェイク・デマの拡散ではないか
  3. この投稿・リツイートは、人を傷つけないか

 一法律家として、また一言論人として、読者の皆さんと良い言論空間を作っていければ、これほど嬉しいことはない。そのために、常に自分が一つのメディアであるという意識で、主体的に言論空間の深化に携わっていきたいと強く願う。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。