百鬼夜行のごとく、続々と巷に姿を現すトンデモ物件。それをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……といった痛快さで鋭くつっこみ、ネットで注目を集める五本木クリニックの院長・桑満おさむ先生は、。当連載にでも幾度もご登場いただいている「ニセ医学バスター」です。
私の中で痛快だった桑満先生の活躍は、巷の健康法で使われまくる常套句「体温を上げると免疫力が高まる」なる言説について、それをHPに掲載していた製薬会社に電凸し、実は根拠がなかったことを突き止めたことでしょうか。また、2016年に騒ぎとなった「WELQ(ウエルク)問題」※の火付け役となったことも、目の離せない出来事でした。
※医学的根拠のない健康記事を大量に公開するなどしていたことが外部専門家の指摘によって発覚し、運営する情報サイトが閉鎖に追い込まれた。
そんな桑満先生が今年10月ついに、これまでのブログから話題を厳選してまとめた『“意識高い系”がハマる ニセ医学が危ない』(育鵬社)を上梓したとあれば、改めてお話を聞かない手はない!ということで今回はインタビューをさせていただく運びとなりました。
同書で取り上げられている多くは、女性が関心を寄せる物件たち。「コラーゲンでお肌プルプル」「合成添加物(を危険視する界隈)」「酵素栄養学」「デトックス」「母乳信仰」「放射能」「EM菌」「経皮毒」「反ワクチン」「ホメオパシー」「波動」など。これらにハマる人は、自分を過大評価し、周囲に認めてもらいたがる「意識高い〈系〉」であるのが特徴であると、解説されています(ちなみに向上心を持ち努力するのは「意識が高い」という別モノ)。
今回のインタビューではこれらに注目するようになったきっかけや、ニセ医学に対してどういう姿勢であるべきかといった点をお伺いしてみました。トンデモ物件ウオッチャーだけでなく、ネットにあふれかえる情報のとらえかたに迷う人たちの参考になれば幸いです。
まずは、桑満先生がこのような「トンデモ」に注目されるようになった背景からお話を進めさせていただきましょう。
桑満おさむ先生(以下、桑満)「この本は、私のことを嫌う『アンチ』によって生まれた本だと言えます。今や私のブログ(五本木クリニック 院長ブログ)は、トンデモ検証ネタだらけですが、書き始めた当初は『台風や低気圧で「喘息発作」が増えるというのは伝説とか、『インフルエンザワクチンって男性は効果が少ないって本当!?』とか、医学のオモシロネタが中心だったんですよね。基本的には、正しい医学情報を伝えたい気持ちから始めたのです。
ところが、酵素栄養学界隈の主張へ突っ込みを入れていたら、それに対する批判が増えてきた。そうなると、つい期待にお応えしたくなり巷のトンデモに挑む原動力となってしまった(笑)。そして記事数が1000本を超え、そこから厳選してまとめ、今回の本ができあがったというわけです」
それってまるで、ダチョウ倶楽部の誘い水「絶対に押すなよ!」では~。アンチがいいお仕事(?)をしてくれたおかげで、ここ数年のブログ記事は、タイトルだけで丼飯がかきこめる仕上がりです。茶目っ気と毒気たっぷりの桑満節、ここを読んでいる皆様はもうご存知ですよね。(ここでチラリとノジルセレクトのブログ記事をご紹介!)
- さようならクロワッサン、発酵食信仰をこじらせたようですね。
- 「誕生学」の大葉ナナコさん、男性不妊症の原因が電磁波って本当ですか!!??
- ニセ医学に手を出しちゃった「イケダハヤト」さんの弁明が間違っている理由。
ちなみにブログとは異なり、本のほうでは個人名には触れられておらず、あくまで「お説」のおかしさを医学的に分かりやすく解説してありますので、毒気が苦手な方にもオススメできます。
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桑満先生はトンデモ沼にハマってしまった人たち同様、基本的には「怪しい話」が大好物。トンデモをたしなむキャリアは、小学生時代からというお話。
桑満「初めは小学校のときのUFOブームです。ユリ・ゲラー※1とかも大好きでしたね。そういった類の本を趣味として集めていたのですが、結婚してからさらに加速。きっかけは、子供の夜泣きです。
うちの子はドライブに行くと泣き止むので、寝かしつけのために深夜に車を出すんですよ。するとつい、当時深夜でも開いている本屋である青山ブックセンター六本木※2に行ってしまう。そして棚に並んでいる本をまるっと買う……なんてことを繰り返し、トンデモ本の蔵書が山のようになってしまって。
中でも好きなのは、精神病はオバケのせいだとかと言っている人とか、東海道五十三次(とうかいどうごじゅうさんつぎ)に山本五十六※3 のメッセージが! とか言いだす人とか。それがなぜか皆、医師(笑)。
今は蔵書を詰め込んだ本棚に囲まれた部屋で寝てますので、地震があったら圧死するかも。トンデモ本に埋もれて死んだら、本望かもしれません(笑)。スチール棚の重みで床には穴が空いてしまいましたが、妻に「どうせまた開けるから」と治してもらえない……という話はさておき、そういった本に掲載されているトンデモさんの話しって、別のトンデモさんの発言などを引用してあるんですよね。つまり、トンデモの元ネタもトンデモ。そしてさらにそれを追って……とやってると、膨大な量になってしまった。ブログなどに書いているネタは、その中の5%くらいですよ」
※1スプーン曲げで有名な、自称超能力者。今年3月には、「超能力で英国のEU離脱を止める」と宣言。
※2現在は閉店。アート系やサブカル系など、マニアックな品ぞろえが特徴だった。
※3昭和海軍の名将といわれた軍人。
果てなきトンデモオブトンデモを追い求める桑満先生が、いつしかUMA研究家に見えてきてしまう……。しかし楽しいことだけでなく、そうやって巷の「おかしな話」を観察していると、危ないと感じる側面も少なくないそう。
桑満「基本的には何でも、両者の意見を聞いて自分で判断して決めればいいと思います。しかし本で取り上げたようなトンデモは、笑い飛ばせる知識がないと、うっかり取り込まれかねないのでとても危ない。今回は基本的に中学生でもわかるくらいの表現でまとめてありますので、お子さんがいるご家庭にも置いていただくなどの活用法もぜひおすすめしたいですね。
他に怖いと感じる点は、信じている団体などがカルト化して地下に潜られること。人目に触れにくくなると囲い込みが強くなり、抜けにくくなりますから。僕は婦人科系は苦手な分野ですのでこれまで手を出さなかったけど、教祖にアドバイスされて性風俗の仕事を始めた信者なども出てしまった子宮系女子などはとかあまりに陰湿なので、最近は無視できない存在になっています。
職業を差別するつもりは全くありませんが、囲い込まれて洗脳されて……という感じが悪質で、悲惨なことに見えてしまう。バックファイヤ効果って言うんでしょうか。反論されるとかえって盲信してしまう心理にも要注意です」
同書では、周囲に同調を強要する「意識高い系」や「ヒステリックな自然派ママ」がニセ医学を広めていると指摘しつつ、しかしその人たちも被害者であると説いています。
桑満「トンデモを発信する医師も、中には純粋すぎるがゆえというタイプの人もいるでしょう。一番罪なのは、そういった人たちをビジネスや政治のために利用する界隈です。もちろん金儲けのためではないとしても、医師の肩書でやっていいことと悪いことはあります。例えば胎内記憶などは、医師の肩書でスピリチュアル的な妄想を語っている問題があるでしょう。本来ならば、医師の肩書は外して活動すべきです」
これまで当連載が取材してきた中で、桑満先生が繰り返し話していた「どんな界隈にも、逃げ道が必要」というアドバイスは、同書のはしばしにちりばめられた、皮肉を装ったユーモア感覚にも表れている印象です。
桑満「この本は、あくまで読み物として読み、笑い飛ばしてほしいんですよね。あまり真面目まじめにとられても、困ってしまう。理論に対しては理論で対応しますが、感覚的な言説には感覚的に対抗するしかないと思うんですよ。多くのニセ医学は、感覚で語るものが多いので、それに応じて今のスタイルになっていると思っていただければ。そういった感覚もご理解いただきつつ、本書をぜひ楽しんでください」
同書からは「信じていたあんな話はニセ医学だったんだ……!」 という発見だけでなく、周りにいる「意識高い系」への対応法なんかも学べそう。もちろん、トンデモウォッチャーのツボに入ることは、必須! それって本当? と思っていたあんな話こんな話のモヤモヤは、確実に吹き飛ぶことでしょう。