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「食べログ」だけじゃない、医療サイトや転職サイトでも嘘レビュー被害は増加。運営会社の責任は?

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「Getty Images」より

 インターネットが普及したことで個人の意見を気軽に発信できようになった。しかしそこにある情報が事実とは限らない。飲食店情報サイト「食べログ」や大手通販サイト「Amazon」などに寄せられるレビューは、大きな社会問題になっている。

 先日、千葉県千葉市にある飲食店が張った、「食べログ」の一部ユーザーの入店拒否を命じる張り紙が注目を集めた。

<食べログユーザー会員は出入り禁止です。食べログヘビーユーザーは傍若無人、独善的、自ら神のごとき口コミに迷惑しまして禁止します。大切なお客様に評価していただきますので、食べログやくざの評価は結構です。食べログみかじめ料のお支払いお断り!>

 同店の経営者は事実無根のレビューをされたことに憤りを覚えたという。店の情報を勝手に掲載した「食べログ」に対しても怒りをあらわにしている。

 「Amazon」の商品レビューも問題含みだ。

 10月2日放送の『クローズアップ現代+』(NHK)は、「Amazon」の嘘レビュー問題を特集。同サイトは商品の購入者が5段階評価でレビューでき、コメントをすることもできる。しかし番組によれば、商品を購入し高い評価のレビューし、ポジティブなコメントを書き込むと、商品代と報酬がもらえるという“嘘レビュー”が横行しているようだ。一方、営業妨害を目的とした競合他社がネガティブなレビューをつけるケースもあり、出品者が多額の損失を被ることも珍しくないという。

 ユーザーのリテラシーも問われるネットの「嘘レビュー」問題。どこに焦点を定めて論じるべきなのか。インターネット問題に精通している弁護士の小沢一仁氏に聞いた。

小沢一仁弁護士
2009年弁護士登録。2014年まで、主に倒産処理、企業法務、民事介入暴力を扱う法律事務所で研鑽を積む。現インテグラル法律事務所シニアパートナー。 上記分野の他、インターネット上の誹謗中傷対策及び危機管理、知的財産(著作権・商標権)、労働。男女問題等、多様な業務を扱う。 インテグラル法律事務所:https://ozawa-lawyer.jp/

「●●万円でネガティブなレビューを消してあげますよ」

 小沢氏のもとに来る相談で、嘘レビューに関するものは増加傾向にあるという。企業の評価サイトや、転職サイトなど、案件は様々だ。

小沢弁護士「商品やサービスに関するレビューを書き込めるサイトに『身に覚えのないレビューを書かれた』と困っている企業からの相談が近時増加しています。また、過去に在籍していたとする元従業員がその企業に関する様々な項目(年収や社長の個性等)を評価することができる転職サイトでも、不正確な情報に基づきネガティブなコメントを寄せられて困っている企業が増えています。特にネガティブな評価をしようとする人は、少なからず当該企業に対して敵対的な感情を持っていることが多いので、、投稿記事の内容は事実が歪曲されたり、誇張されたりすることが多いため、企業側としては不合理な評価をされたと受け止めることが多いです。

 最近は『Googleマップ』上で店舗情報に事実とは異なるレビューを書かれたと訴えて相談に来る方が増えています。事実ではない、あるいは事実が歪曲されたり誇張されたりした上で評価の低いレビューが多数寄せられて、売り上げや採用活動等に悪影響が及んでいる、あるいはその可能性があるため不安感から解放されないなどとの理由で苦しんでいるという相談です」

 驚くべきことに、マッチポンプで儲けようとしていると思われる業者も出てきている。当該業者自身、あるいは当該業者が雇ったサクラを使い、特定の企業や店舗、商品について複数のサイトでネガティブなレビューを書き込んだうえで、「あなたのお店に酷い書き込みがされているので、○○万円を支払ってくれればそういった書き込みを消してあげます」と提案するのだ。

 小沢氏は複数の相談者からこのような提案をされたとの相談を受けたことがある。いずれも手口が似通っていること、書き込みを消すことができるのは、サイト運営者が自己の判断で消す、書き込んだ本人が事後的に消す、書き込まれた本人またはその代理人弁護士による法的請求によりサイト運営者が消す、のいずれかのはずであるところ、業者が「消してあげます」と断言していることからすれば、業者自らがレビューを書き、これを消しましょうかと提案しているとしか考えられないため、このような業者が存在する可能性が高いと考えているとのことだ。

 こうした「嘘レビュー」は法律上、どのような問題になるのだろうか。

小沢弁護士「サクラが、ある企業のサービスが他社よりも優良・有利であると誤認させるようなレビューを投稿した場合、不当な顧客の誘因を防止することにより一般消費者の利益を保護することを目的として定められた “景品表示法”に違反する可能性があります。

 また、店や商品を貶めるようなレビューに対しては“名誉棄損”が該当するかもしれません。名誉棄損は『公然と事実を摘示し、人(法人を含む。)の社会的評価を低下させること』が成立要件です。レビューの内容がこの要件に該当すれば、名誉毀損が成立します。

 ただ、形式的に上記要件に該当するものを全て名誉毀損としてしまうと、健全な議論等を阻害してしまうことにもつながるため、民事事件については判例上、“違法性阻却事由”が認められています。その内容は、『公共の利害に関する事実を摘示するものであり(公共性)』『その目的が専ら公益を図ることにある時に(公益性)』『摘示した事実が真実である(真実性)、または真実でなくても真実と信じるに足りる相当な理由がある場合(真実相当性)』は、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しないこととされています。

 レビューサイトは、その本来の目的は意見交換や情報提供の場を提供することにあり、これは閲覧者の知る権利に資するものですから、公共性や公益性が認められやすい傾向にあります。そのため、実際の裁判等では、「真実性」の要件該当性が問題になることが非常に多いです。

 この真実性の要件は、本来は名誉毀損の成立を主張している側(裁判であれば、原告側)において積極的にこれを証明する必要がないはずですが、実務上は色々と資料を提出して反真実性であることの心証を裁判所に持たせなければなりません。

 しかし、顧客や元従業員が体験した事実は企業側においては容易には知り得ないものですし、知り得るものだとしても、明確な証拠が残っていないことが通常ですから、企業側において反真実性を直接立証することは困難を極めます。結局、レビュー自体の内容の不合理性や、周辺事情を総合して真実でないことを主張することになりますが、それによっても削除を認めてもらえないことがあります。なお、特定の事実をもとにした「意見」ないし「評価」が書き込まれた場合はさらに削除のためのハードルが上がります。 「事実」と「意見・評価」の区別は必ずしも容易ではないと思いますが、例えば「この会社の社長は●月●日に従業員に「●」という提案をされたが、「●」と言って取り合わなかった」というのが「事実」、この事実を前提にして「この会社の社長は独裁者だ」とか「ワンマン社長だ」というのが「意見・評価」になります」

レビューを長時間管理する制度が求められる

 嘘レビューが蔓延する一因に、インターネットの匿名性があることは確かだと考えられるが、小沢氏はさらに根本的な問題を指摘する。それは、レビューサイトを運営する企業側の、管理体制の甘さだ。

小沢弁護士「企業の権利を侵害する内容のレビューを投稿した人物を特定し、今後同様の行為に及ばないように対応しようとしても、その人物を特定するための情報が、「レビューが投稿された日から」90日程度しかプロバイダに残っていないケースもよくあります。特にモバイル通信事業者にその傾向がみられます。

 企業が違法な内容のレビューに気づき、どう対応するか社内で検討し、法律事務所を予約し、弁護士がヒヤリングし、企業から必要な資料を提出してもらい、裁判を起こすための書面を作成し、裁判を起こす……この過程を90日以内で実施しなければいけないのですが、時間が極めて限られているため、なかなか難しいことです。そのため、企業としては違法なレビューに対してどうしても後手に回らざるを得なくなります」

 とはいえ、運営会社側にも事情はある。小沢氏によれば、「プロバイダは、日々膨大な数の通信記録を取得し、管理しているところ、そのためには多大なコストがかかると思われます。特に、モバイル通信の事業者は、常に端末が利用者の手元にあることから、その分通信記録も多くなるため、コストもより大きくなると思われます。そのため、特にモバイル通信事業者については情報が90日程度しか残っていないのではないかと思われます」。

 また、たとえばSNSサイトでは、通信記録をアカウントにログインしたときのものしか残していないため、投稿されてから90日以内に手続を進めても、ログインをした日から90日が経過していると、特定できなくなる可能性が高まるなどの不都合が生じるケースも散見されるという。

小沢弁護士「インターネット上の権利侵害救済のための法律として、プロバイダ責任制限法が制定されています。この法律も時代に沿わないものとなっていると思いますが、法律の問題よりも、通信記録等の保存期間や保存のタイミング、保存の形式等がサイト運営者やプロバイダ等によってまちまちで、統一されていません。そのため、特定のサイトにおいては、法律をもってしても救済が極めて困難なこともあります。

 私としては、立法や行政において、これらの問題を解決するための措置が急務だと考えています。司法のみの対応では限界です。例えば、通信事業者におけるアクセスログ保存期間を1年とか2年とするよう義務づけてもらうだけでも、被害救済の幅は劇的に広がると思います。上記のコストの問題はありますが、大企業が事業展開をすることに伴うコストとして受忍すべきとも思いますし、場合によっては国が資金を投入してでも、対策を取るべき問題だと思います」

 多くのレビューサイトや転職サイト等では、企業に無許可で情報を取り扱っている。

小沢弁護士「経験上、これらのサイトでは、いかなる根拠に基づくものかサイト運営者側では特に資料等を確認しないままレビュー等が投稿されているのではないかと思います。事前の了解なく一方的に企業を批評の場に晒しておきながら、そこでされた批評が違法であることの立証責任等が批評の対象とされた企業側のみに課されるのは大変不合理だと思います。

 これらのサイトに発信者情報開示請求や削除請求をすると、サイト運営者からは、サイトの公益性を強調した反論がされることが多いですが、そうであるならば、レビューの内容を投稿者に委ねるのではなく、一定程度正確性を担保できるような仕組み作りをすべき義務があるのではないかと思います」

 すでに問題が発生している以上、サイト運営者側における投稿内容の事前検証が必要であることは明らかだ。

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