日本は自然災害大国だ。自然災害のデパートともいわれる。特に地震と台風からは逃れることができず、今年の台風15号は木々や電柱をなぎ倒し、台風19号は広い範囲に水害をもたらした。
こうした自然災害が起きるたびに、テレビニュースで映し出される映像がある。倒壊した家の屋根から吹き飛ばされた瓦だ。瓦が散乱して割れているような映像は、いかに災害が大きかったかを示すインパクトのある映像になりやすいため、何度も繰り返し放映される。
そういった映像を見るたびに、瓦は安全で丈夫な建材ではないという印象を強め、「なぜこんなに災害に弱い瓦が未だに使われているのだろうか?」と疑問を持つ人も多いだろう。
では本当に瓦は災害に弱いのだろうか。瓦を建材として利用するメリットとデメリットについて考えてみたい。
瓦屋根の歴史
瓦の歴史は古い。中国から瓦が伝来したのは、588年だと考えられている。飛鳥時代に仏教と共に日本に伝えられたとされ、同時に瓦博士と呼ばれる専門家も来日している。
しかし当時、瓦が使われたのは飛鳥寺をはじめとして寺院だけだった。時は流れ江戸時代の1674年に、近江の瓦職人、西村半兵衛が横断面が波状の桟瓦(さんがわら)を発明して軽量化に成功。このころ、江戸では火事対策として瓦が奨励されていたが、軽量化されたことで建物への負荷を低減でき、いよいよ一般家屋に普及し始める。明治時代に入ると、洋瓦が輸入されたり、桟瓦の改良が進んだ。
1926年以降は、瓦がずれないように改良された引掛桟瓦(ひっかけさんがわら)が標準化し、現在に至っている。
瓦屋根が減ったのはイメージの悪さ?
さて、現在は屋根材も多様化している。瓦が災害に弱い建材だとすれば、代替品の普及により淘汰されてもおかしくないが、今も瓦屋根の家は多い。なぜかというと、実は地震や台風などで瓦が崩れたり剥がされたりしているのは、瓦そのものではなく工法に問題があるためだ。
家が崩れるのは瓦の重さではなく、そもそも建物の耐久性が低いことが原因だ。つまり、古い家の屋根瓦の工法が古いことが原因だ。実は古い家の屋根瓦は、瓦の下に大量の土を敷いてあり、その上に瓦を固定していた。これを土葺き工法と呼ぶ。
土なので、年月が経つと劣化して強度が弱くなる。しかも固定材に大量の土が敷かれているので、屋根の重量も大きくなる。1981年(昭和56年)の建築基準法改正以前の古い家は、土葺き工法が多いという。この改正では新耐震基準として震度6強から7程度の地震でも倒壊しないことが求められた。
1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災後に内閣府が作成した資料※によれば、建物の被害は建築基準法を満たしていなかったり1981年以前に建築されたりしたものだった。この資料には瓦が原因で災害が大きくなったとは書かれていない(ただし土葺き工法は原因のひとつであると考えられている)。
そして、阪神・淡路大震災以降は、土葺き工法はほぼ行われなくなる。その後も地震などの災害が起きるたびに、瓦の素材や工法は進化し続けた。
※防災情報のページ 阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害 内閣府
アメリカのハリケーン対策を瓦に導入
すでに述べたように、現在建築されている家屋の瓦屋根には土葺き工法は使われていない。屋根に瓦桟と呼ばれる木材を打ちつけて、それに瓦を固定するのだ。そのため、土の重さはなくなり、ずれや剥がれにも強く、地震や台風に対する強度を高めている。
阪神・淡路大震災後の2001年には、全日本瓦工事事業連盟により『瓦屋根標準設計・施工ガイドライン』が発行されて、阪神淡路大震災級の地震に耐え得る瓦屋根が施工されるようになった。
そのガイドラインでは、台風に対しても基準風速を9段階に分けて各工法の台風性能が示されており、最大で風速46メートルまで耐えられる工法が指示されている。
ところが近年の台風は大型化しており、風速50メートルを超えることもある。そのため、現在も耐性強化の研究は続けられているのだ。
そこで注目されたのが、アメリカのフロリダ州で毎年のように発生している風速50メートル以上のハリケーン対策だ。ポリフォーム日本代理店会(兵庫県神戸市)のWebサイト※によると、フロリダ州では、瓦を使用する際には専用の強力接着剤で固定する「ポリフォーム工法」が義務づけられているという。
ポリフォーム工法とは、瓦を専用のポリウレタン接着剤で固定する工法で、風速70メートルでもビクともしないというのだ。
※ポリフォームについて – 屋根瓦の台風・竜巻・地震対策・落下防止にはポリフォーム・ポリワン工法
瓦屋根は経済的でもある?
このように、瓦屋根の素材や工法は、災害に耐えうるよう進化している。今でも瓦屋根を選ぶ人がいる理由にはもうひとつ、経済的な理由もある。
現在、瓦屋根に代わって主流となっている屋根材は「化粧スレート」だ。約2~5ミリという薄い板を並べたタイプの屋根を見たことがある人も多いだろう。この化粧スレートには天然石を薄切りにしたタイプもあるが、高価なため滅多に使われることはない。日本の住宅で使われているほとんどは、セメントに繊維素材を混ぜて薄い板状に加工されたものだ。
化粧スレートは非常に軽量なため、耐震性に優れている。また、瓦に比べて価格が安いことも普及している理由だ。さらに、塗装によりカラーバリエーションを作れるため、デザイン的にも応用が利く。
ところが化粧スレートには、日射や風雨で塗料が剥がれて劣化してしまうという欠点もある。これを放置するとカビやコケが生えてひび割れの原因となり、雨漏りも起き始める。そのため、約10年ごとにメンテナンスを行わなければならない。劣化が激しい場合は、屋根の上に新たな屋根を載せるカバー工法が必要になることもある。
化粧スレートが安いと思われているのは、このメンテナンスのことを考慮していないためだ。一方、瓦屋根は瓦自体のメンテナンスは不要なため、長い目で見ると安くなる。
前述のポリフォーム日本代理店会が「住宅産業協議会」「粘土瓦普及委員会」資料を参考に作成した粘土瓦と化粧スレートの費用比較※によれば、屋根面積100㎡の場合、粘土瓦では初期費用80万円で20年間メンテナンス不要。一方の化粧スレートは、初期費用50万円+10年後のメンテ費70万円+20年後にも同額で計190万円かかるとしている。
つまり、この場合は20年後までにかかる経費を考慮すると、瓦の方が圧倒的に安価であることになる。
※「屋根には瓦」が一番経済的な理由とは? – 日本の家には瓦屋根
これから家を建てようと考えている人は、どのような屋根にするのか、デザインや初期費用だけでなく、耐久度やメンテナンス費なども含めて、じっくりと検討されてはいかがだろうか。