社会

なぜ即位礼で恩赦? 日本の一律55万人恩赦と海外の恩赦

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「GettyImages」より

 即位礼に合わせて55万人に恩赦を実施という報道が波紋を呼んだ。いまどき国の慶事に合わせた恩赦があるのかと唖然とした人は少なくないだろう。世界各国の恩赦の実施状況を参考に、恩赦制度の是非について考えてみたい。

 天皇の善政や恩恵を示すために行われてきた恩赦だが、時代にそぐわないとの議論がネット上を中心にわいた。今年3月の国会答弁では、大西健介衆議院議員が、質問主意書を提出したが、安倍晋三総理大臣から明確な回答はなかった。

 安倍総理は、「御指摘の『そもそも恩赦制度は時代にそぐわないものであり廃止すべきとの意見』の具体的な内容が明らかではないため、お答えすることは困難であるが、恩赦には、事情の変更による裁判の事後変更や、有罪の言渡しを受けた者の事後の行状等に基づく裁判の変更又は資格回復などの刑事政策的な意義があると考えている」と回答。時代錯誤という指摘については、はっきりとした回答が得られなかった。

通例による恩赦の実施

 日本の恩赦の歴史は古く、奈良時代に中国から持ち込まれ、初めて行われたとされる。制度としての恩赦は、近代では明治時代は天皇の詔勅で行われていたが、現代は日本国憲法で内閣が決定し天皇が認証するものとして定められている。

 今回の政令恩赦の対象は、被害者の心情を考慮するという理由から、罰金刑の比較的刑事責任が軽い事件が対象とされる。対象者55万人のうち65.2%を占めるのは道交法違反であり、確かにそこまで重い犯罪である印象はないが、過失運転致死傷等17.4%、暴行・傷害3.3%、窃盗2.6%、公職選挙法違反者約430人も含まれている。

 実施されるのは、医師や看護師など国家資格が制限されている人々の復権が主で、即位礼前日までに罰金を支払い3年以上経過した人々が通常の5年を待たずに即位礼当日に刑の効力を失い、制限解除となる。

 恩赦自体は、毎年数十人規模で個別に実施されているのだが、国や皇室の慶弔事に合わせて行われるのは26年ぶりで、天皇陛下、皇后さまのご結婚以来である。今回は、通例だから行われるという見方が強い。

王室のない韓国、アメリカでは大統領による恩赦

 世界にはいくつか恩赦を行う国があるが、そのなかでも頻度の高さが目立つのが、韓国である。文在寅大統領は、今年3.1独立運動と大韓民国の臨時政府の樹立からちょうど100年であることを記念して、4300人あまりに対して恩赦を実施した。政治的な活動(「サード(終末高高度防衛ミサイル)」の配備に反対する集会など) や、道路交通法の違反などで事処罰を受けた人が対象とされた。

 大統領就任直後である2年前にも、やはり政治的な集会参加者など6444人を対象に恩赦を行っている。また恩赦ではないが、今年の8月は光復節に合わせて、日本の植民地支配からの解放を祝い、647人の仮釈放を行うなど、アンチ日本主義者である文大統領の支持層に対しアピール目的で恩赦制度を利用している。

 同じく王室のないアメリカでは、建国以来恩赦を施す伝統が続いている。オバマ元大統領は、歴代大統領の中で最も多い1715人に恩赦を与えた。人権派弁護士であったことから、アメリカをセカンドチャンスの国とアピールするのに恩赦制度を利用したと見られる。減刑対象の多くは軽微な初犯の麻薬犯罪者であったが、終身刑となった受刑者568人も釈放するなどしている。

 アメリカでは日本ほど大規模な恩赦はないが、他にはビル・クリントン元大統領が違法薬物で服役していた実弟や夫妻の汚職疑惑のホワイトウォーター問題の犯罪者に恩赦を与えるなど、公私混同、職権乱用などといった問題も発生している。

ヨーロッパで恩赦制度を持つイギリス、フランス

 皇室のある日本と比べられることが多いのが、王室のあるイギリスであるが、国王大権として恩赦権があるものの、ほとんど使われることなく形骸化している。「罪や刑罰を定めて一律に行う大赦(amnesty)は、1930年代以降、たとえばエリザベス2世女王の即位やチャールズ皇太子の結婚、フォークランド紛争終結など国家の慶事に際しても実施されていない。(参照:国会図書館)」とあり、日本のような発想の恩赦は90年前に終了している。

 とはいえ、一律の恩赦自体がまったくないわけではない。イギリスにおいて21歳以上の成人男性同士の合意による同性愛行為は、1967年まで違法だった(スコットランドでは1980年、北アイルランドでは1982年)。しかし現在、同性愛は違法に当たらず、罪にならない。2013年に死後恩赦を受けた数学者の故アラン・チューリングにちなみ「チューリング法」と呼ばれる新法によって、2017年に約4万9000人の赦免が行われた。合法になってから随分時間がかかったものの、法律が変わったことによる恩赦は実施されている。

 隣国のフランスには王室はないが、大統領が恩赦権を持つ。しかし、2008年の憲法改正で一部制限された。他のヨーロッパの国々では恩赦が一般的ではないこと、当時サルコジ大統領が君主的な印象から離れた大統領像を求めていたことが理由とされる。

 一律の恩赦ではないが、2016年にフランスで行われた案件は興味深い。47年もの間、夫に虐待され続けて4回入院した妻が2012年に夫を殺害した事件だ。娘2人が性的暴行を受けていたことに加え、息子が父親の暴力を苦に首つり自殺をしたことから、夫を殺害して禁錮10年を言い渡された。彼女の釈放を求めたオンラインの請願に43万4000人が署名するほど、世間の注目と同情が集まっていた。

 当時のオランド大統領は、すでに一度刑期減刑の恩赦を与えていた。その後被告の反省が足りないとして、娘たちによる仮釈放の請求を二度棄却した裁判所に対し、大統領が完全な恩赦を与えて釈放となった。治安判事組合の代表は、法に則った判決を反故にし、世論を喜ばせるための恩赦だと批判した。

 恩赦には三権分立を揺るがすものという批判があるが、法律自体が完璧とは言えない。法律に従うだけでは、多くの人々の善悪の基準に照らし合わせると、納得のいかない判決になることもある。そのため、司法の世界に横やりを入れるという意味で、恩赦の存在は有効だと考えられる。それが得点稼ぎであったとしても、恩赦自体はあった方がいいのではないだろうか。法律が変わったことによる恩赦も必要だ。

 しかし、恩赦権の乱用は問題であるし、国家の慶事による一律の恩赦についてはプラスの面を見出すことができない。今回、55万人もの復権があるなら、自分の免許証がブルーからゴールドに戻されてもいいのではないかと考えてみたが、もしそうなったとしても即位と結びつけることができず納得がいかなかっただろう。恩赦のすべてが悪いのではなく、使い方次第である。

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