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「宝塚で推せる・推せないジェンヌアンケート」に批判殺到で炎上、その理由

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「Getty Images」より

 10月23日に文春オンラインにて公開された<創立105周年アンケート! 宝塚歌劇団で「推せるジェンヌ」「推せないジェンヌ」>について、宝塚ファンからの批判が殺到している。

 この企画の趣旨は、<ファンの想いを宝塚歌劇団に届けるべく、ファンが本当に「推せるジェンヌ」、推すにはもう少し頑張ってほしい「推せないジェンヌ」アンケートを募集>し、得点化して順位付けするというものという。現在、アンケートが募集されており、自分の思うベスト3とワースト3のジェンヌの名前とその理由への回答が求められている。

 しかし、このアンケートが開始されるやいなや、Twitter上では宝塚ファンからの批判が噴出。「宝塚ファンは推せないジェンヌを発表するなんて望んでいない」「推せないジェンヌとして名前を出されたジェンヌさんとそのファンの気持ちを考えて」などと、否定的な意見が多く見られる。

 文春オンライン上のコメント欄も荒れており、「好みはあっても推せないジェンヌなんていない。生徒さんを傷つけるだけで全く面白くないです」「ジェンヌさんみなさん宝塚が大好きで人生の全てを宝塚に賭けている。くだらないネタにしないで」などの抗議が150件あまり。アンケートの中止を求める声もある。

 何を隠そう筆者も宝塚ファンのひとりだが、今回の「推せるジェンヌ」「推せないジェンヌ」アンケートに対しては強烈な違和感を覚えた。「文春」にとって、「好きな芸人」「嫌いな芸人」や「好きなジャニーズ」「嫌いなジャニーズ」といったランキングは鉄板の企画であることは知っている。しかし、とうとう宝塚にも手を出したことは悪手と思わざるを得ない。

 では、なぜ、今回アンケートが宝塚ファンの怒りを買ったのだろうか。宝塚ファンの視点から解説していきたい。

どのタカラジェンヌも誰かにとっての「贔屓」

 まず大前提として、宝塚ファンは「推し」という言葉を使わない。

 たしかに現在、他の多くのファンコミュニティでは「最も応援している人」を「推し」と呼び、市民権を得た言葉になっている。ただし、宝塚ファンの中では、「最も応援している人」には「贔屓(ひいき)」という言葉を使うのが一般的なのだ。

 この「贔屓」という言葉、宝塚ファンにとってはかなりの思い入れがあるもので、今年3月にはちょっとした騒動が起こった。宝塚歌劇団が観劇を促進するための特設サイトを開設したのだが、そこで「推し活」「推し」という言葉を多用していたことで、多くの宝塚ファンが違和感を訴えた。Twitter上では、「推しではなく贔屓です」「推しという言葉はなんか違う」といった意見が多数見られ、なかには「偽サイトなのでは……?」と訝る声すらあった。それくらい、「推し」は宝塚ファンの“相手を応援する心”から遠く離れている言葉なのだ。

 そもそも、宝塚歌劇団には各組(花・月・雪・星・宙)に約80人のタカラジェンヌが在籍しており、名もない端役を舞台の端で演じているタカラジェンヌも存在している。しかし、そういったまだ目立つ場所にはいないタカラジェンヌにも、必ずファンがいるというのが宝塚なのである。

 ファンは舞台鑑賞中、贔屓以外のタカラジェンヌのことも見ており、「あの場面の右端で踊っていた男役さんがカッコよかった」「ロケット(ラインダンス)の右から〇番目の娘役さんが上手だった」といった会話が熱く交わされることは珍しくない。もちろん端で踊っているタカラジェンヌが贔屓というファンもいるし、他に贔屓がいるファンも端で踊っている下級生を応援する気持ちで見ていることはよくあることだ。

 スター路線であろうがなかろうが、どのタカラジェンヌにもファンがいる。どのタカラジェンヌも誰かにとっての贔屓である。このことを多くの宝塚ファンは理解しており、たとえ贔屓以外のタカラジェンヌであっても、そのファンを傷つけるような発言を公の場ですることは控えているのだ。

 もちろん、仲の良いファン同士の集まりでは、「あのジェンヌさんにはもっとここをがんばってほしい」といった話が熱く語られることもあるだろう。ただし、誰かの批評はクローズドな場で、かつ愛をもって行われることであり、「推せないランキング」などとオープンにされることを多くのファンは望んでいない。

 そもそも、かなりの高倍率(2019年度は22.9倍!)で有名な宝塚音楽学校への入学試験を合格し、厳しい学校生活を経て、さらに入団してからも公演とお稽古の繰り返しで忙しい日々を送りながらも芸の上達に励んでいるすべてのタカラジェンヌに対し、敬意を抱いているファンは多い。

 人気投票をしたとしたら、各組のトップスターや2番手、3番手など目立つ位置にいるタカラジェンヌに票が集まることは想像できる。しかしファンは、宝塚の舞台は脇で芝居を支える人や下級生がいるからこそ成立するものと知っているし、それが観客を感動させるひとつの要因であることも知っている。

 それゆえに、安易な人気ランキングでタカラジェンヌを評価することには強い違和感がある。票数だけで「推せる」「推せない」の判断をするというのは、お門違いだ。

宝塚に一人ひとりの公式ファンクラブがない理由

 そして、「推せるジェンヌ」「推せないジェンヌ」ランキングは、宝塚歌劇団の創設者・小林一三先生の想いにも沿わない。

 宝塚歌劇団全体には公式ファンクラブ「宝塚友の会」があるものの、タカラジェンヌ一人ひとりの公式ファンクラブはない。ファンが非公認の私設のファンクラブを設立して活動している。

 宝塚に公式の個人ファンクラブがない理由は、小林一三先生が<人気のある生徒も、人気のあまりない生徒も平等に扱い、生徒全員を愛するために、私設ファンクラブを非公認とした>(※1)との考えを持っていたからという。このエピソードは、宝塚ファンに広く語り継がれているものだ。

 他方、宝塚はスターシステムを採っており、新人公演やバウホール公演の主演などで、タカラジェンヌの人気は自ずと見えてくるものだ。だからこそ、切磋琢磨し芸を磨いていくことができるのだろう。

 わざわざ「推せる」「推せない」などと明らかにし、アンケートに投票した人にとって“好みでない”ジェンヌを炙りだすような「推せないランキング」は、小林一三先生の思いにも反するものではないのだろうか。

 元タカラジェンヌの月船さららさん(82期生、1996年入団)も、24日と25日にTwitterを更新し、今回のランキングについて反応している。

<悲しい企画。 ひもじい発想。 辞めて欲しい>
<私、退団の挨拶でも言ってますが、私のこと嫌いな宝塚ファンも含めて大切でした。それは平気なんです。別にいいです。でも、それが、宝塚とは別のところで投票でランキングされるとなると話は別ですよ。 嫌いな芸能人ランキングを芸能雑誌が特集するのとも違う。ジェンヌやファンが無意味に傷つく>
<雑誌を批判してるんじゃないですよ。企画を、です。>
 
 「推せる」という言葉が宝塚ファンの感情と合わないことは前述したとおりだが、「推せる」という感情を「応援している」に言い換えて考えるのなら、宝塚ファンは贔屓の出演する公演は何度だって観に行き、お手紙を書いて気持ちを伝え、写真などグッズを購入したりと日々せっせと応援する気持ちを表現している。

 自分の「贔屓」への想いをなにかに代弁してもらう必要はない。「推せる」「推せない」ランキングには全くノれないというのが、宝塚ファンの総意ではなかろうか。

(※1) 坂口幸弘、後藤康恵「宝塚ファンに置ける贔屓と悲嘆に関する探索的健闘」(2016年、p37)

(雪代すみれ)

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