社会

スーパーの在庫処分セールがなくなる日~フードロスを撲滅するシステム

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「Getty Images」より

 10月1日から食品ロス削減推進法が施行され、10月は「食品ロス削減月間」、10月30日は「食品ロス削減の日」となり、政府は食品ロスの削減に向けた取り組みの普及を進めようとしている。

 人間のために作られた食べ物が、食べられずに棄てられたり失われたりする「フードロス」。世界では76億人のうち9人に1人、8億2100万人が飢餓に苦しんでいるなかで、生産された食品の3分の1の13億トンが廃棄されている。流通段階や個人だけではなく、生産段階でも傷んだ作物や不揃いなものが棄てられている。

 廃棄処理による温室効果ガスの発生は、干ばつなどの自然災害を引き起こし、農業に打撃を与え、環境破壊につながる悪循環にもなる。世界の人口は増え続けており2050年には97億人になる見通しで、深刻な食糧不足も予測される。

徐々に広がりつつあるフードロス対策

 こうした状況もあり、フードロスは切実な問題として浮上した。日本の食料自給率がカロリーベースで37%に過ぎないなかで、フードロスは643万トン(16年度農林水産省調査)にも上ると推測されている。

 小売店舗では、賞味期限まで残り3分の1を切った商品は卸売業者から仕入れないというルールがあり、卸売業者からメーカーに返品された商品はほとんど廃棄されフードロスにつながる一因にもなっている。

 そこで、ビジネスからこの問題にアプローチし、解消しようという取り組みが活発化している。

 スーパーでは食べても支障がない賞味期限間近や期限切れ商品を断りを入れて販売する動きもみられ、ネット通販でも行われるようになっている。全国各地に、これらの商品を激安で売る店も登場。なかでも埼玉県戸田市のスーパー「マルヤス」は、元の売値の90%オフといった低価格で販売、たびたびテレビに登場するなど注目を集めている。

 ネット通販の先駆け「KURADASHI.jp(クラダシドットジェイビー)」では、会員数が増え続け現在7万5000人以上。メーカーと連携し販売している。売上の一部と在庫を放出する企業の協力金は発展途上国や障害者の支援団体に寄付され、商品を購入することで社会貢献にもつながる仕組みも設けている。

 新たな取組みもスタートしている。「tableoop(たべるーぷ)」は、農家や水産業者など生産者が商品を提供しているサイト。「TABETE(タベテ)」は、都内などの飲食店やベーカリーが余った料理やパンを出品し、店舗で受け取るサービスだ。

 セブンイレブン・ジャパンは、2014年から飲料、菓子で順次、3分の1ルールから、2分の1に短縮しているが、8月からはカップラーメンにも適用した。メーカーも賞味期限を年月日から年月に変えるなど、取り組みを強めている。

複雑で難しい需要予測 

 フードロス問題を解決するのに力強い援軍が、どのくらい売れるかをAI・ITを活用してはじき出す「需要予測システム」。最大手のイオンをはじめ、小売業で急速に導入が進んでおり、在庫の適正化や値下げによるロス削減に効果を発揮、卸しでも適正在庫を実現、フードロスの削減につなげている。

 需要予測を行うには、消費者のライフサイクルの短期化、異常気象など大きな流れに目を配りながら流通業特有の課題もいくつかクリアする必要がある。

 販売データに、在庫切れ、運動会などの近隣イベント、ライバル店との競合といった恣意的な動きが多く入り込み、夏だけ売れるといった季節性も問題になる。チラシなどの特売で、売れ行きが急激に上昇する現象もしばしば起こり、販売数が大きく変動することや、見切り処分で販売価格が変更されることも予測を難しくする。

 つまり、需要予測の実施には、天候、価格、競合、イベントなど100近い大量の変動データを投入する必要がある。同時に、客数予測も行う必要があり、日にち別、店舗別にデータをとり、さらに時間帯別にし、どのくらい売れるか正確にはじき出す。

 台風、大雪、大雨といった気象要因は、客数に大きな影響を与える。前日と当日でも大きく変動し、その対応を間違えると大きな商品ロスや欠品などが発生する。正確に売れ行きを予測することでこうした事態を避けることができる。また、特売などでの売れ行き予測には、複数の手法を合わせた、ハイブリッドな予測モデルで対応する。

 そうめんなど夏には多く売れるが、冬には極端に売れ行きが落ちる季節商品は、シーズンスタート時やシーズン中の売れ行きのとらえ方が難しいが、季節性変数の投入により需要予測を正確に行うという。

スーパーの売り切り値引きセールが消える日

 より精度の高い販売予測にするためには、在庫切れへの対応も欠かせない。欠品、在庫切れが発生した場合は、販売数実績を需要数とはみなすことができないからだ。

 この間違ったデータがAI学習に投入されると、予測モデルに悪影響を及ぼすので除去しなければならない。最終販売時刻の分布から正常とみなすことができる範囲を割り出し、ふだんより明らかに早い時刻で売り切れてしまった日を検知し除去。予測モデルの学習へインプットされないようにする。

 売り方の変化にも目配りが欠かせない。たとえばある時期を境に、チラシの特売ではなく毎日安いEDLP(エブリデーロープライス)に変えるといったケースだ。価格を変えたり、売場を変えたりすることも予測に影響を及ぼす。そこで、現在の売り方とは異なるデータを除き、予測モデルを学習させると、予測の精度が上がる。このアプローチは、異常気象などにより実績値が乱れたときにも有効な手段となる。

 イレギュラーケースの対応も必要だ。たとえば、店舗の近隣で花火大会が開催されると、おにぎりの販売がその日だけ異常に売れる。こうした販売実績は除外し、学習させない。

 こうして需要予測に悪影響を及ぼす要素を排除しながら予測の精度を高め、人間の経験に基づく「勘ピューター」とは異なる、最適な在庫や売り方を算出することが可能となる。

 需要予測というAI・ITを駆使した先進的システムがフードロスという大きな社会問題を解決することに役に立つ。AI・ITの技術がさらに進めば精度も高まり、商品ロスもなくなり、スーパーの売場で毎日行われている、惣菜や弁当の売り切りの値引き販売や調味料などの在庫品の処分セールがなくなる日が来るかもしれない。

 それは少し残念だと思う人もいるかもしれないが、フードロスはそれとは比べ物にならない大きな問題で、需要予測システムはその解消にこれからも貢献していくだろう。

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