
写ルンです(画像はWikipediaより)
電機・エレクトロニクス業界において変貌を遂げてきた企業を紹介するシリーズ。今回は「富士フイルムホールディングス」。
「写ルンです」は日本の文化だったといっても過言ではない。流行というレベルではなく、かつては「写ルンです」に代表される使い捨てのインスタントカメラは旅行用カメラの定番だった。軽くて持ち運びに便利で、旅先でもどこでも売っていた。
実は今でも「写ルンです」は売っているし、インスタントカメラの「チェキ」という形で富士フイルムでは新製品も出している。ただカメラの定番は、この30年でデジカメに移り、さらに今ではスマホが主役であることは言うまでもない。
デジタルカメラに駆逐されてフィルムカメラの市場は大きく縮小したが、主戦場のスマホを富士フイルムが手掛けているわけではない。そうはならなかった。しかし、それでも富士フイルムという会社は安定経営を続けている。巧みに事業展開を進め、時代のニーズを先取りしながら、変貌を遂げることに成功した。
ヘルスケア、マテリアルズ、ドキュメントと多岐に渡る事業内容
「写ルンです」だけではなく、フィルムカメラ機、さらにその写真用フィルムでも主役だった富士写真フイルムは、2006年10月に持株会社となり、富士写真フイルムから、富士フイルムホールディングスとなっている。実態としては、持株会社の傘下に中核事業会社として、富士フイルムと富士ゼロックスを抱えており、持株会社化とともに事業面でも多角的に経営展開していく姿勢をさらに強めた。
富士フイルムのCMといえば、かつてはカメラと写真用フィルムばかりだったが、今ではフィルムはフィルムでも医療用と、化粧品ばかりが目につく。ただ富士フイルムが医療用製品と化粧品の会社になったかというと、それは違う。
富士フイルムホールディングスの前19年3月期の連結売上高構成をみてみると、イメージングソリューション16%、ヘルスケア&マテリアルズソリューション43%、ドキュメントソリューション41%となっている。
イメージングソリューションは、富士フイルムが担うカラーフィルム、デジタルカメラ、フォトフィニッシング機器、現像プリント用のカラーペーパー・薬品・サービスなど。ドキュメントソリューションは、富士ゼロックスが担うオフィス用複写機・複合機、プリンタ、関連する消耗品やオフィスサービスなどである。
一方全体売り上げの4割を占めるヘルスケア&マテリアルズソリューションは多岐に及ぶ。主なものは、X線装置などメディカルシステム、医薬品、バイオ医薬品、再生医療、化粧品などライフサイエンス、電子材料、記録メディアなどである。
ヘルスケア&マテリアルズのおよそ5割弱がヘルスケア関連だから、ヘルスケアは全体の連結売上高からみるとまだ2割程度である。CMの頻度を考えると意外に少ない。
富士フイルムは、医療と化粧品に舵を切っていると思われがちだが、売り上げウェートからみるとそうでもない。富士ゼロックスで手掛ける複合機やプリンタなどの事業が4割を占めるし、デジタルカメラやフォト関連機器などのイメージングソリューションもまだ2割近くある。
旧来からの事業を残しながら、その技術を生かして富士フイルムは変貌を遂げているといえる。医療用フィルムはカメラ時代のフィルム技術の活用だし、インスタントカメラも撤退したわけではなく、今なお「チェキ」などヒット製品も出している。富士ゼロックスでは複合機を中心としたソリューションビジネスも展開している。こうした柔軟さが富士フイルムの強さかもしれない。
バイオケミカル強化、1,000億円規模の買収も
最後に富士フイルムが取り組んでいるバイオケミカルについて付記しておく。
富士フイルムは、近年特にバイオケミカルに力を入れている。前述のようにヘルスケア関連はまだ全体売上高の2割程度だが、富士フイルムではこれを3割に引き上げる計画を持っている。その具体策のひとつが同部門に含まれるバイオケミカルの強化である。
今年3月、富士フイルムはバイオ事業の強化を狙い、米国バイオ医薬品大手、バイオジェン社の製造子会社でデンマークに本社を置くバイオジェン デンマーク マニュファクチャリング社を、総額8億9,000万USドル(約990億円)で買収した。3月11日付で同社の全株式を取得しており、今後はバイオジェン デンマーク マニュファクチャリング社をバイオ医薬品の新拠点として活用、医薬品の受託製造を強化していく構えとなっている。
富士フイルムは、中長期的には再生医療、医薬品受託生産などが柱事業化して、しかしその時点でもやはり、イメージングソリューションもドキュメントソリューションもセグメントで持つ会社になっているのかもしれない。