社会

その「いじめ」は「犯罪」です。ちゃんと知りたい法律のこと『こども六法』

【この記事のキーワード】
その「いじめ」は「犯罪」です。ちゃんと知りたい法律のこと『こども六法』の画像1

「Getty Images」より

 学校における“いじめ”報道は後をたたない。たとえば、神戸・東須磨小学校での教員たちによる継続的な集団暴行。あまりに凄惨で衝撃的な事件だが、多くのメディアはこれを「いじめ」と伝えていた。学校外で起きていれば「いじめ」とは呼ばれないはずだ。

 生徒間の暴力も同様で、殴る蹴るの暴力、「死ね」などの暴言、物を盗んだり恐喝して金品を脅し取ったり……などの行為は、刑法に抵触する犯罪だ。このような事態が学校外で起こった場合、加害者は逮捕され処罰を受ける。それが学校内になると、“いじめ”であり、加害者は何の罪にも問われないのだから、おかしい。

 学校内での「いじめ」を始め、子どもたちは加害者にも被害者にもなる。そうならないために、あるいはそうなってしまったときのために、役に立ちそうなある本が話題だ。8月20日に発売された『こども六法』(弘文堂)。出版されるや売り切れが相次ぎ、たちまち重版がかかった。

 『こども六法』は、子どもの生活に関係のある法律(刑法、刑事訴訟法、少年法、民放、民事訴訟法、日本国憲法、いじめ防止対策推進法)を、子どもにも理解しやすい言葉とイラストで表現した一冊。

 特徴のひとつは、見出しだけでどのような行為が法律違反にあたるかが分かるようになっていることだ。たとえば、刑法223条「強要」の見出しは<おどして何かをさせたらダメ!>、民法第709条「不法行為による損害賠償」は<他人のものを壊したら弁償しないといけないよ>。どちらも、いじめによくある加害行為である。

 教育研究者でミュージカル俳優でもある山崎聡一郎さんは、中学生時代に六法全書を読み、自分が受けたいじめが“法律違反”にあたることを知った。「当時の自分に法律の知識があれば、自分で自分の身を守れたのではないか」という思いから、子ども向けの法律書として『こども六法』の執筆に取り組んだ。

その「いじめ」は「犯罪」です。ちゃんと知りたい法律のこと『こども六法』の画像3

山崎聡一郎
山崎聡一郎 教育研究者、ミュージカル俳優、写真家。合同会社Art&Arts社長、慶應義塾大学SFC研究所所員。修士(社会学)。法と教育学会、日本学生法教育連合会正会員。

学校に浸透していない「いじめ防止対策推進法」

――山崎さんが『こども六法』を出版するきっかけは、小学生時代に経験したいじめ被害だったとのことですが、当時の様子を聞いてもいいでしょうか。

山崎:私に対するいじめのピークは小学校5年生のころでした。同級生の暴力によって、内見や打撲、左手首を骨折することもありましたが、いずれも学校は「軽い怪我」のように扱いました。

――クラス担任など学校関係者は、いじめを止めるためのアクションを取らなかったのですか。

山崎:多少はありました。しかし、いじめは基本的に教師の目のないところで行われるもので、僕がやられる時も教師のいないタイミングが多かったです。たまたま教師の目の前で行われた時は、教師が止めに入ってきました。

また、6年生に進級する時にクラス替えをし、いじめの加害者の子たち3人を別々のクラスにして、僕はその3人の誰もいないクラスになりました。

――では、6年生でいじめはなくなったのでしょうか。

山崎:いいえ、いじめ自体がなくなることは、結局最後までありませんでした。いじめから逃げる一番完璧な方法は転校だと思っていたのですが、教育委員会からも「学区の都合上できない」と言われたと両親から聞いています。結局、親に言われて中学受験をして、地元ではなく私立中学に進むことになりました。

当時の担任教師は、個人的には「ありえない」ですが、一般的な対応だと思います。もっとひどい先生も世の中に沢山いるので……。

――しかし2013年には「いじめ防止対策推進法」が施行されました。大人はいじめを受けている子どもを救い、いじめを防止する義務があるという法律です。『こども六法』にも載っていますよね。

山崎:「いじめ防止対策推進法」では、教師はいじめに対してどのように対処すべきかの基本が明記されています。以下はその内容の一部です(『こども六法』より)。

・学校は、いじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、二度といじめが起きないようにするために、学校の先生が協力して、また専門家に協力してもらいながら、いじめを受けた子どもとその保護者に対するサポートを行い、またいじめをした子どもへの指導とその保護者に対するアドバイスを続けて行っていくこととします

・必要があるときは、いじめをした子どもを、いじめを受けた子どもが使う教室以外の場所で勉強させるなど、いじめを受けた子どもやその他の子どもたちが安心して教育を受けられるために必要な対応をします

・学校は、いじめ行為が犯罪として扱われるべきだと考えられたときは、近所の警察と協力して対応しなければいけません

――いじめを未然に予防するにはどうしたらいいのか、いじめが起きた時はどのように対応するのか、犯罪に相当するようないじめの場合は……など、実は全部法律で決まっているわけですね。

山崎:そうなんです。しかし残念ながら、「いじめ防止対策推進法」は間違いなく浸透していません。

――そう言い切れてしまうのですか?

山崎:はい。実際に現場の教師に話を聞いてみると、いじめ防止対策推進法について「知らない」「法律の名前は知っているけど具体的な中身はわからない」という回答が少なくありません。教師によってムラがかなりあります。

本来であれば「いじめ防止対策推進法」により、いじめの基本的な対応は日本全国で対応されているはずですが、法律通りにやっている教師もいれば、法律すら知らない教師もいる。そこで何が起きるかというと、学校の先生の経験ノウハウやいじめに対する考え方によって、対応が全く変わってしまうんです。

いじめに危機感を持っている教師が担任であればいいのですが、経験が浅かったり、いじめを軽視している教師が担任になった場合、いじめはずっと放置され、ひどい時はないことにされる。

もちろん、個々の子どもの境遇や性格に合わせて対応していくことも必要ですが、まずは、すべての教師が「いじめ防止対策推進法」の内容を理解し、実行することが急務です。

――「いじめ防止対策推進法」を周知させるにはどうしたらよいのでしょうか。

山崎:法律を知らない教師がいる一方で、「いじめ防止対策推進法」をしっかり実践している学校もあります。そうした模範となる事例をメディアで取り上げ、いじめは解決できるというイメージを共有することがひとつ、重要なことだと思います。

また、「いじめ防止対策推進法」というルールを現場に押し付けるだけでなく、法に則った対応をすることでいじめ問題の深刻化を防ぎ、教師たちの負担も少なくなるなど、学校側のメリットも伝えていくことも重要ではないでしょうか。

「相談できる大人は沢山いる」と強調した

――「いじめ防止対策推進法」が機能していないなど問題はありますが、日本の学校でいじめに対する対応がまったく進んでいないというわけではないのですよね。

山崎:進展はあります。文部科学省が調査している学校におけるいじめの認知件数は増えており、2017年には41万件を超え、2018年は54万件以上で過去最多を更新しました。一見、「いじめが増えている」と思われるかもしれませんが、そうではありません。

文部科学省は近年、「いじめはしっかり発見・対応しましょう」「いじめの認知件数が増えることは、いじめを発見・対応している証」という方針を強く打ち出しています。その結果、徐々にいじめの認知件数が増加したと見ることができます。

つまり、認知件数の増加は、しかるべき対応を取っている学校が増えたということです。それでもまだ、「いじめゼロ(認知件数0件)」に極めて近い学校も少なくありませんが……。

――いじめの認知件数がほぼ0件、ですか。

山崎:しかも1年間で、です。そんなわけがないと思いますが、そんなわけがあると主張する学校も少なくないのは、いじめ防止対策推進法ができていじめ防止基本方針が発表されてもまだ周知が足りていないということ。いじめ防止対策推進法どころか、その中のいじめの定義だけでさえ、どれだけ浸透しているか怪しいと私は思います。

――まず教育に携わる多くの大人たちに知ってほしいことですよね。また、もちろん教育関連の仕事ではない大人たちにも、法律の知識は必要です。法律の入門書や解説本など、大人向けの法律関連した本はたくさんありますが、そうした本をきちんと読み理解できる大人はわずかではないでしょうか。

山崎:大人でも「六法全書」を読んで理解することは難しいですよね。大人の方から「この本を読んで法律が勉強できた」という声もありました。また、「教室に置くべきだ」という感想も多く寄せられています。実は『こども六法』は、将来的に「どの学校の教室に1冊置けるものにしたい」という目標を持って制作した本なので、非常に嬉しく感じています。

「親子で読みたい」「子どもにプレゼントしたい」という反応のほか、高齢の方が「孫が3人いるから1人1人にプレゼントする」と3冊購入されたケース、また、「自分の母校に寄贈します」という方もいて、“子どもへのプレゼント”として広まっている印象もあります。

――『こども六法』は、年齢に関係なく誰もが理解しやすい言葉で書かれていますよね。「六法全書」をわかりやすくかみ砕くだけでなく、強いメッセージ性も感じます。

山崎:「相談できる大人は親と教師だけではない」という点は、とくに強調しました。子どもの一番身近な大人は親と教師ですが、彼らにいじめ相談をしても望むような対応をしてくれなかった場合、子どもは絶望を感じてしまいます。

しかし実際には、「大人」は親と教師だけでなく、大勢いるのです。警察や医師、児童相談所の職員といった大人に相談することもできます。「相談できる大人は沢山いる」ということを、言葉を換えながら、何度も繰り返し取り上げるようにしました。
あとは我々大人がこのメッセージを嘘にしないために努力し続けること、それがいじめ問題を少しずつ改善に向かわせていくと信じています。

――『こども六法』第7章の「いじめ防止対策推進法」では、「大人にはいじめから子どもを救いいじめをなくす義務がある!」とはっきり書かれてあり、いじめに苦しむ子どもにとっては心強い一文です。是非、多くの子どもたちの元に届いてほしいです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その「いじめ」は「犯罪」です。ちゃんと知りたい法律のこと『こども六法』の画像4

山崎聡一郎さん

小学校5年から6年にかけて左手首を骨折するほどの暴力を伴ういじめを受け、中学受験を決意。東京都私立桜丘中学校に進学するも、今度はいじめ加害者となり、いじめ被害の苦痛を知る自身が加害者となることはないと慢心していたことから衝撃を受ける。この経験からいじめ問題の複雑さと難しさを痛感し、いじめ問題への取り組みを決意。埼玉県立熊谷高等学校を経て慶應義塾大学総合政策学部に進学し、自身の経験を踏まえて「法教育を通じたいじめ問題解決」をテーマに研究活動を開始。学部3年時には英国オックスフォード大学に短期留学し、政治教育への演劇的手法の導入方法を学んで単位を取得。また、2019年に弘文堂より出版された『こども六法』の原型は、当時慶應義塾大学から研究奨励金を受給して作成した法教育副教材「こども六法」である。

学部卒業時には学位記授与学部総代に選出、卒業論文は優秀卒業プロジェクトに選定。その後一橋大学大学院社会学研究科修士課程を修了、現在は慶應義塾大学SFC研究所所員として研究活動を継続している。

ミュージカル俳優としての顔も持ち、劇団四季「ノートルダムの鐘」に出演するほか、自身でもコンサート等の興行を企画運営するなど多方面で活躍。それぞれ活動で相乗効果を発揮することを目指している。板橋区演奏家協会会員。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。