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見えても見せても見せなくても見えなくても、下着は私の着ている衣服【日本・神戸三宮】

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百女百様/はらだ有彩

 小さく寄せられたひだ。紐を縁取るピコ。つややかなサテンに儚いチュール。あるいは触るだけで眠くなるようなコットン。ぴったり包まれるジャージー。柔らかなパッド。はたまた、ショーツはご臨終してしまったけど思い出深くて捨てられないブラジャー。うんざりするワイヤー。我慢ならないホック。別に気に入ってるってほどではないけど、まあ清潔ではある、付き合いの長いパンツ。小さなドレス。生活用品。

 下に着るから下着。上に着るから上着。中に着るからインナー。外に着るからアウター。言葉通りの意味なら単なる衣服であるはずの物体にイメージがとめどなく流れ込み、この不思議な形状の布は、とりあえず隠さなければならないことになっている。

 だからだろうか。繁華街へ続く駅前の信号の前で、道行く人が彼女の背中を振り返って見ていたのは。

 横断歩道の岸には信号待ちの人々がひしめき合い、ぶつからないように自分の足元だけを見て距離を詰めあっていた。しかし皆一様に、「ある地点」に近づくとはっと顔を上げる。視線は全てひとりの女性の背中に注がれていた。

 青いワンピースのリネンらしい生地は、後ろ身頃が完全に取り払われていた。そのかわり、大きく開いた背中は同じく青いレースに覆われている。腰から肩まで一面に踊る花模様のすぐ下には、彼女の皮膚があった。小さな花が影を落とす。淡い影は肩甲骨の辺りで、黒いブラジャーのバックテープに分断されていた。

 目を逸らす人、微かに笑って見つめる人、驚いて眉をひそめる人。目の前に立っていた数人のうち、ひとりが小さな声で「すご、めっちゃ露出度高い」と呟いた。

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 呟きを聞きながら私が何をしていたかというと、ご多分に洩れず目を奪われていた。いつまでも奪われっぱなしではいられないので数秒で我に返り、視線をスライドさせる。

 なぜ目を奪われていたのか。それは彼女の着用していたブラジャーがランジェリー然としたデザインだったからだ。レースが広範囲にあしらわれた、背中をホックで留めるタイプの一般的なランジェリー。私はこの事実に驚いた自分に驚いていた。なぜか今日に至るまで、私の中に「肌が透ける衣服を着るときの選択肢」は

  • ・何も着ない
  • ・ランジェリー風でないブラトップを着る
  • ・タンクトップを着る

の3つしかなかったのであった。単純に自身が服を着込みがちなため、肌が見えるファッションの解像度が低かったのだろうが、どうやら私は下着が見えるファッションを「当然ありえるもの」だと思いながら、頭のどこかでは「見えていい下着」と「見えないほうがいい下着」を分けていたらしい(そういえば以前水着を買いに行ったときに「このデザイン、下着っぽくない?」などと心配した記憶さえある。なんということだ)。

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