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マラソンは札幌か午前3時か…東京五輪の指揮系統が崩壊する予兆

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「Getty Images」より

 オリンピック・パラリンピック東京大会まで300日を切った。このタイミングで、黒船が東京五輪の組織委とJOC(日本オリンピック委員会)、そして東京都を直撃した。IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が、突如としてマラソンと競歩の2種目を札幌開催とする、と宣言したのだ。

 当初、札幌実施は「提案」と報じられたが、すぐにバッハ会長の「これは提案ではなく決定だ」との発言が伝わり、また、事前にJOCの森喜朗会長にも相談があったことも明らかになった。

 森氏は「IOCに嫌と言えますか」などとすでに札幌実施を了承する発言をしており、組織委もそれに従う流れのようだ。事前の話し合いもなく突然の決定であるにもかかわらずの従順ぶりは、酷暑を理由にされては反論できないという諦めなのだろうか。

 しかし、蚊帳の外に置かれた形の東京都の小池百合子知事は全く納得していない。

 開催都市に事前相談がなかったのが相当気に障ったらしく、小池都知事は「どうしてこうなるのか説明してほしい。涼しい所でやるというのなら、北方領土でやればいいのでは」などと悔しさをにじませた発言をしている。莫大な税金と人手を投入しているのに、頭越しで重大決定をされては堪らない、という気持ちは分からなくもない。

 というのも、都はマラソン実施区間の大半を遮熱性アスファルトに張り替え、日陰をつくるためにコース沿道の並木を剪定・伐採するなどすでに約300億円を投じており、もしマラソンと競歩が札幌に移れば、そのすべてが無駄になるからだ。もし本当にそうなれば、当然ながら後々責任追及の声が上がるだろう。

東京都の「深夜3時スタート」案は甘すぎる

 はいそうですかと簡単に引き下がれない都は、マラソンの時間を早め現在の午前6時開始から未明(3時頃)に前倒しすることと、競歩についても日陰の多いコースに変更することをIOCに逆提案する、との報道が出た。

 しかし本来であれば、競技の実施時間やコースの変更は、まず組織委が検討して提案すべき筋の話であり、都が勝手に決められるものではない。特にマラソンの開始時間繰り上げはボランティアの動員、観客輸送の面などから一度は否定されていて、どこまで実現可能かは定かでないのだ。IOCがどのような検証を得て札幌にしたのか現段階では分からないため、とりあえず対案を出しておこうという思いつきにも見える。

 繰り返すが、マラソンの開催時間は何度も検討されて6時開始と決まった。検討には当然、都の関係者も参加している。それなのに、今回札幌に取られそうになったからさらに時間を早めようとは、まるで子供のおもちゃの取り合いのようで、なんの説得力もない。

 要するに、IOCが札幌開催を勝手に宣言し、JOCと組織委が恭順の姿勢を見せた段階で、東京五輪の指揮系統はもはやグチャグチャになっているのである。当初からだれが司令塔なのか分からない組織委が、さらに混迷の度合いを深めているのだ。

札幌移転にも様々な問題がある

 札幌へ移転という提案は札幌市長をはじめ、多くの国民に好意的に迎えられているが、ことはそう簡単ではない。なんといってもコストの問題があり、さらに準備期間が足りないからだ。

 札幌には北海道マラソンの実施コースしかなく、新たなコース設定には国際陸連の認定が必要で、その手続きに通常でも数年かかるといわれている。競歩に至っては、札幌での開催実績すらないのである。

 そして予算面となると、ざっと項目をあげてみても、これだけ必要になる。

・札幌でのコース設計、整備費
・大会関係者、選手の移動費、宿泊費、宿泊先の確保
・ボランティア再募集費、募集しない場合は東京からの移動費、宿泊費、宿泊先の確保
・チケット(マラソンのみ発売済み)払い戻し
・警備費用、安全対策費用

 東京からの移動人員は2000〜3000人を超えるだろうし、総額で100〜200億円の費用が新たに必要になるだろう。札幌側は、都または組織委がこれらの費用を負担することを要請しているが、都は現時点で否定。森氏もIOCに負担を相談すると言っているが、どうなるかは分からない。

 この問題を整理すると、日本側の酷暑に対する認識の甘さがまず挙げられるだろう。IOCも一カ月前までは日本側の説明に納得していたが、ドーハでの国際陸上大会で、深夜開催にもかかわらず、マラソン参加選手の4割が途中棄権したことに衝撃を受け、急遽態度を変えたのである。

 IOCもそのHPで「Beat The Heat」(暑さに打ち勝て)などと言っていたのだからいい加減なものだが、ドーハを教訓に、今さらながら東京の酷暑の危険性を認識できたのは、日本側よりまだマトモな思考ができていると言えるだろう。

 そして、今回のIOCの決定には、非常に大きな意味がある。

 私は数年前から、酷暑下での五輪開催は危険であり、このまま実施すればアスリートだけでなく、ボランティアや観客にも多大な犠牲者が出ると予測し、強行しようとする組織委の無責任体質を批判、追及してきたが、スポンサーになった大手メディアはそうした告発をひたすら無視してきた。

 今回IOCが日本側との相談抜きでマラソンと競歩の移転を一方的に決めたのは、日本側と話し合いをしても無駄だと判断したからであり、つまりは酷暑下での東京で、屋外競技の開催は無理だと世界に宣言したのも同じなのだ。

馬術やトライアスロンにも飛び火する可能性

 24日になって森氏は、移転はマラソンと競歩だけで他の競技は移転しないと発言したが、もはや説得力はない。以前から馬術、トライアスロン、ゴルフ、サッカーなどの関係者からも酷暑の東京での開催を危ぶむ意見が寄せられており、マラソンと競歩が酷暑を理由に移転するのなら、他の競技を東京で実施する整合性が取れなくなるのは明らかだからだ。組織委がIOCの決定を鵜呑みにするのなら、組織委を飛ばしてIOCに直訴する競技団体が現れてもおかしくない。もしそうなれば、東京五輪の指揮系統は完全に崩壊する。

 では今後どうなるのか。今月30日に東京都、組織委とIOCの調整委員会が開かれ、札幌開催の是非が話し合われるという。だがIOCは選手の安全のために、アスリートファーストを理由に札幌に移転とぶち上げたのだから、今さら撤回はできない。都も莫大な予算をドブに捨てるようなことになるので簡単にOKなどできないから、相当揉めるだろう。この泥試合が長引けば長引くほど、東京五輪のイメージは悪化する。

 「この時期の東京は温暖」と嘘をついて招致し、その嘘を隠すために無理に無理を重ねて来たが、肝心のIOCからその嘘を喝破され、全世界に嘘がバレてしまった。これにより他の競技の開催地問題が再燃することは避けられず、五輪の運営はさらに混迷の度を深めていくだろう。東京五輪の崩壊が始まった。

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