富裕層優遇という批判はタテマエにすぎない
だが困ったことに、日本経済の貧困化が進んだことで、若い世代を中心に可処分所得が大幅に減少しており、投資資金を捻出できない人が増えている。せっかく若年層が投資に興味を持っているのに、肝心のお金がないというのが実状なのだ。
こうした事態を受けて、主に若年層を対象に長期の資産形成を促すために作られた制度が「つみたてNISA」である。つみたてNISAは、年間の投資金額40万円を上限として、20年間非課税となる制度であり、NISAと比較して投資期間が大幅に長い。一方で、投資対象には制約があり、一定の条件を満たした投資信託などに限定される。
NISAの口座数は6月末で1161万口座となっており、一方、つみたてNISAの口座数は147万口座である。一般的なNISAは60代と70代が多く、逆につみたてNISAは30代と40代が多い。一般論として、高齢者のほうが資産額が多いので、NISAは比較的資金力のある高齢者が、つみたてNISAは資金力に乏しい若年層が利用しているという図式であり、これは政府の想定通りということでもある。
NISAは時限的な措置としてスタートしており、2023年が期限となっている。2023年中までなら商品を購入することは可能だが、今の状況では2024年から商品の買い付けができなくなる(5年間の非課税枠については、2023年に購入した商品にも適用されるが、新規の買い付けは不可)。
いつ制度が終了するのか分からないという状態では、投資家が不安を感じることから、本来こうした施策に時限措置はあまり馴染まない。金融庁は制度の恒久化を求めてきたが、政府・与党内部の議論において、富裕層優遇という批判が出たことから、恒久化を断念することになったという。
だが、富裕層の優遇につながるという政府内部の議論については、額面通りには受け取らないほうがよいだろう。確かにNISAの利用者は高齢者が多く、若年層と比較すれば経済的に余裕のある投資家が多いのは事実だが、非課税額の上限は毎年120万円でしかない。本当の意味での富裕層にとっては誤差の範囲であり、この制度の存在によって富裕層が大きな利益を得るわけではない。