給料以上の服を買う「貧困女子」に批判…テレビの貧困特集が煽る偏見

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『NEWSな2人』公式サイトより

 貧しい生活を送っている女性“貧困女子”という存在がクローズアップされるようになって久しい。10月26日放送の『NEWSな2人』(TBS系)では、東京で生活する2人の“貧困女子”へのインタビューが放送された。

 そこに登場した女性たちの“貧困”ぶりが、「自己責任ではないか」と視聴者の批判を浴びている。一体どのような内容だったのか。

友達にご飯を奢ってもらい生活する

 最初に登場したのは、今年京都から上京したという社会人1年目の23歳の女性(Aさん)。Aさんはオートロック完備で都心にアクセスしやすい家賃8万8000円のマンションに住んでおり、IT企業に勤め営業職で働いている。一カ月の手取りは大体18万円だという。

 給料のおよそ半分を家賃に割き、月3万円を奨学金返済にあてなければいけないため、実家から野菜を送ってもらいなんとか生活しているというAさん。将来はアパレル関係の店舗を持つという夢があり、今はそのためのスキルを身につけるため、頑張って働いているそうだ。

 彼女は服に対するこだわりが非常に強く、月に給料以上のお金を使ってしまうこともあると話す。一括購入はできないためクレジットカードで分割払いをしており、生活費や奨学金だけでなくカードの返済もしなければいけない。現在の貯金は0円で「支払いに追われる」と厳しい現状を吐露した。

 2人目は、家を持たずに友達の家やネットカフェで寝泊まりをし、時には野宿をしているという34歳の女性(Bさん)。彼女は役者志望でエキストラの仕事やアルバイトをしながら月7万円の収入で暮らしているが、生活費の内訳を聞くと食費が月5000円と非常に低いことがわかった。

 Bさんはその理由を「昔、キャバクラで働いていた時に出会ったお客さんにご飯に連れて行ってもらっている」と説明。そうしたお客さんは10人ほどおり、男女関係は全くないそうだ。

「給料に対してお金使いすぎなだけ」

 この放送内容を受けて、ネット上で「給料に対してお金使いすぎなだけ。見ててイライラする」「本当の貧困で困っている人のためにもきちんと取材して欲しかった。今回の彼女らは貧困ではない」といったネガティブな意見が散見された。1人目の女性はただの浪費家で、2人目の女性は他人に頼りながらのらりくらり生きているだけに見えてしまう、ということだ。

 一応、番組終盤には、女性たちに取材し「東京貧困女子。―彼女たちはなぜ躓いたのか」(東洋経済新報社)を書いた中村淳彦氏が出演、「シングルマザーの55%が貧困。貧困の人は自分のことを最優先にして、子供のことを後回しにするのが普通」と、貧困がネグレクトに繋がり子供を衰弱死させるケースもあるなどと解説した。

 また、中村氏は「一度貧困状態になると情報が入ってこなくなる」と貧困から抜け出すことの難しさを指摘し、「女性の貧困は今が最悪」と警鐘を鳴らした。しかし、約23分の放送時間中、こうした社会問題として“貧困女子”を取り扱ったのはわずか3分ほど。貧困女子の現状は深堀りされず、「貧困女子=浪費家、パパ活まがいなことをして生活する人」という誤解を広めてしまったのではないだろうか。

誰でも貧困に陥るリスクがあるが、見て見ぬふりをしている

 テレビのようなマスメディアが“貧困”を特集すると、とかく炎上しがちだ。

 2016年、『NHKニュース7』(NHK)が子供の貧困を特集し、経済的理由から専門学校への進学を諦めた女子高生を紹介したが、このときは燃えに燃えた。番組内では女子高生がタイピングの練習をするために(パソコン本体は買えず)キーボードのみを購入したり、冷房がないため保冷剤を使用して暑さをしのいだりと、当たり前の生活が送れないことを強調。しかし番組終了後に彼女のツイッターアカウントが特定され、1000円以上のランチを食べていたことやイベントのチケットが届いたことなどを報告するツイートをもって、「貧困とはいえない」「ズルをしている」と批判するネットユーザーが相次いだのだ。

 おそらく、私たちがイメージする“貧困”は、実態と乖離がある。食うものや着るものにも困り、趣味に使える時間やお金など一切なく、外食などもってのほかで、映画を見るような高級な遊びは到底できないのが“貧困”だと思われているのだろう。そうでないのなら、いくらでも「金を稼ぐ手段」はあり、稼ごうとしない本人が悪いという自己責任論が跋扈する。

 しかし誰でも「金を稼げなくなる」可能性を持っている。自己責任論に終始し、豊かでない生活を送る人間を「贅沢言うな」と糾弾することで溜飲を下げても、誰も得をしない。テレビのような大きな媒体は特に、視聴者がもともと持つ“貧困”へのバイアスを認識し、そこに登場させる人物がどういった困難にあるのか、正確に伝えるよう腐心しなければならないだろう。今のままでは、貧困叩きを加速させるだけだ。

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