
生き延びるためのマネー/川部紀子
ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。かねてから不安視されている公的年金。そこに追い討ちをかけるような大騒動となった老後資金2000万円問題。真剣に対策を打つならiDeCo(個人型確定拠出年金)は選択肢の一つに入ってくるでしょう。
私も、職場で企業型確定拠出年金を導入していない納税者には真っ先に検討をお勧めしており、著書『まだ間に合う 老後資金4000万円をつくる! お金の貯め方・増やし方』(明日香出版社)の中でも解説しています。
今回は老後資金対策iDeCoに加入して1年が経過したばかりのA子さんに話を伺い、具体的な運用実績や気持ちの変化などを語っていただきましたので紹介したいと思います。
意気揚々と加入するも、いきなりマイナスに
A子さんは30代既婚女性です。夫婦は共働きですが、それぞれ小さな会社勤務しており、夫婦共々退職金や企業年金などはありません。老後資金対策、そして2019年の消費増税を控え、所得税や住民税の節税効果があるiDeCoを始めることにしました。毎月の掛金はA子さんの法律上の上限となる23,000円に決めました。
金融機関(運営管理機関)は手数料の安さに魅力を感じたSBI証券(オリジナルプラン)を選びました。預貯金以外の経験もなく、投資に興味津々というわけでもないので、商品選びはどうしても難航します。そこで松井証券のロボアドバイザーの無料診断の仕組みを拝借し(拙著でも紹介しています)、簡単な質問に答えて、国内株式○%、先進国債券○%というふうに配分は決めてもらうことにしました。
診断結果によると、リターン5.5%、リスク13%(5.5%を狙う。ただし、5.5%を境に上にも下にも13%のブレを覚悟する方針というもの)の配分の円グラフが表示されました。A子さんは、その円グラフの比率にぴったり合わせて、信託報酬(運用管理費用)の低い商品を9つ選んで運用を開始しました。
初めての口座引き落としは2018年10月。前月分と合わせて2カ月分46,000円が引き落とされました。加入時の手数料が引かれ、さらに昨秋からの株安の影響を受け、12月18日にサイトで資産残高をみるとマイナス4,002円に。翌週の12月25日にはマイナス6,104円にまで落ちていました。引き落としが始まって2カ月で出鼻をくじかれてしまいます。そこからは、しばらく資産残高を確認しないようにしていたそうです。
春と共に上昇に転じ、10月には記録をどんどん更新
久しぶりにログインしたのは3カ月後の2019年3月18日。資産残高はマイナス437円と、マイナス幅が随分小さくなっていることを確認。4月15日にはプラス930円に! A子さんはiDeCoで積み立てを開始して、初めて資産残高がプラスになっているのを確認した瞬間でした。
その後、プラスは拡大し、10月31日ログインするとプラス9,900円に。これは1万円を突破するか!? と期待しましたが、11月1日にはプラス8,398円でした。
この時点での資産状況を下記にまとめます。
2019年11月1日現在
資産残高:284,398円
拠出金累計:276,000円(=23,000円×12か月)
損益:8,398円
損益率:3.0%
A子さんにお話を伺ったのは2019年11月2日のことです。
その際、私が確認しておきたかったのは当初決めた資産配分がどうなっているかです。というのも、A子さんの毎月の掛金23,000円は9つの商品に細かく振り分けて積み立てられていますが、資産残高284,398円の比率はA子さんが決めた数字とは異なっているはずだからです。実際、国内株式が1%増、国内リート1%増、海外リート1%増、コモディティ(純金)1%増と、4つの比率が増えており、当初の円グラフと少し変わっていました。
なぜ比率が変化しているかというと、積み立てられていく残高も日々運用されているので、増える資産もあれば、減る資産やほぼ掛金と同額の資産もあるわけです。当然ながら残高の比率も変わってきます。株式の比率が増えていれば、当初の想定よりもリスクが高くなっている状態なので、時々確認してみると良いでしょう。
A子さんの場合は、大きな変化ではなかったのでこのまま続けることにしました。
1年が経過しての感想
A子さん自身、値動きに関して思うところがあったようで「銀行に預けていれば100万円預けても1年で1円の利息もつかないというのに、わずか30万円足らずの掛金で手数料を引いても1万円近くも増えたので、下ろせないけど嬉しいですね」と言っていました。もちろん残高が減る局面もありますが、銀行の定期預金などとの大きな違いを体感できたようです。
またお金を引き出せないことに関しても「お金を運用する目的が老後だと明確になるので、これでいいと思いました」とおっしゃっていました。
さらに「忘れがちになるのですが、自分はiDeCoによって、税金が4万円ちょっと安くなるんです。それを考えると、利益が1万円弱で減税額が4万円ちょっとなので、5万円プラスという感じですよね」という感想も述べられていました。
A子さんはiDeCo開始1年にして、プラスとマイナスの値動き、お金を引き出せないことの意義、節税の効果を体感することとなりました。
老後のお金を嘆いても、アクションを起こさなければ何も好転はしません。A子さんは、いち早く行動を起こして老後に備えているので、とても前向きに見受けられました。老後資金対策、そして特にiDeCoを検討中の方や始めたばかりの方の参考になればと思います。