
「Getty Images」より
会社は密室…証拠集めの重要性
ブラック企業から退職するための主な相談窓口は前回紹介したが、相談する前に、客観的な証拠を揃えるようにしていただきたい。第三者からみれば、会社は密室であるため、いくらあなたが被害を訴えていても、客観的な証拠がなければ誰に相談してもサポートのしようがないからだ。
法に基づいて動く労働基準監督署や弁護士に相談する場合、可能な限り多くの証拠を揃えてほしい。たとえば、上司が日常的に暴言を吐くようなら、ICレコーダーで上司の発言を録音する。残業代や給与が支払われないようなら、タイムカードのコピーを取るといったように。特に、長時間残業が理由で辞める場合、退職後に失業保険を受け取る条件が変わってくるから勤怠の記録をコピーして持ち出すのは極めて重要だ。
ちなみに、長時間労働が原因で自己都合退職した場合は、失業保険の給付は原則として退職3カ月後からになるが、会社都合扱いとなる違法残業が認められた場合、失業保険が即時給付となる上に、給付期間が伸びるケースがある。また、労働基準法に違反するため、労働基準監督署も動きやすくなり、会社側が報復のために損害賠償提起することを阻止できる材料が増える。なお、会社都合扱いとなって、すぐに失業保険が受給できる残業時間は以下のとおりである。
退職直後に失業保険が給付されるケース
- ・退職前6カ月以内に3カ月連続で45時間以上残業をした場合
- ・退職前6カ月以内に2カ月の平均残業時間が80時間を超える場合
- ・退職前6カ月以内に100時間を超える残業をした月がある場合
自分一人で闘う場合のやり方
ここまでできれば、まずほとんどの場合で、問題なくブラック企業から退職できるはずだ。また、証拠が揃っており、自分で闘うという方は、もちろん一人で闘うこともできる。
方法は簡単。内容証明郵便を出して、その後、電話やメールといった、勤務先からの連絡を遮断して出勤を拒否するだけだ。
内容証明郵便とは、郵便局のサービスの一つで、いつ、誰が、どのような内容の郵便物を出したか、記録しておいてくれるサービスである。文書の形で記録が残るため、「言った、言わない」のトラブルに発展することがない。
また、内容証明郵便で退職届を送った場合、相手に内容証明郵便が届いた時点で、退職届を出したのと同じ扱いになる。そのため、会社側は退職届を受理していないといった言い逃れができない。
この方法を使って退職届を出し、翌日から出社拒否すればいい。有給休暇が残っている場合、有給休暇を消化する旨を内容証明郵便で伝えれば、出社拒否は違法性を帯びない。
内容証明郵便の書き方は、決して難しくない。以下の内容を書いて送れば問題なく郵送される。
退職届
2019年●月●日をもって退職させていただきます。なお、●月●日からは有給休暇を取得させていただきます。なお、健康保険証ほか貸与品は、別途返送させていただきます。
住所 東京都渋谷区1丁目1番1号
氏名 山田一郎
また、有給休暇が残っていない場合や、契約社員などで数カ月先でないと合法に退職できない場合は、先に述べたように損害賠償提起などのリスクを完全にぬぐえない。そのため、弁護士などの専門家に相談したほうがベストだが、どうしても一人で交渉をしなければならない場合は、違法行為を行っているので、雇用契約を解除すると主張するのも一つの方法である。
雇用契約解除通知
雇用契約ならびに、労働基準法ほかの法令に抵触する行為が度重なったため、2019年●月●日をもって雇用契約を解除させていただきます。なお、健康保険証ほか貸与品は、別途返送させていただきます。
住所 東京都渋谷区1丁目1番1号
氏名 山田一郎
なお、内容証明郵便は専用の用紙を利用してもよいが、マイクロソフトワードなどのワープロソフトでも作ることができる。その際は、以下の文字数制限を守らなければならない。
・たて書きの場合
1行20字以内、1ページにつき26行以内
・横書きの場合
1行20字以内 1ページにつき26行
1行13字以内、1ページにつき40行以内
1行26字以内で1ページ20行以内
A4用紙に同じ文面を3枚印刷した後、A4用紙が入る角形封筒に入れて郵便局に持参すると、1通を郵便局で保存し、1通を会社へ郵送、1通を記録用として返却してくれる。
料金は、一般料金+書留料金+内容証明料金となるため、普通郵便より高額だが、A4一枚程度なら千円弱のはずである。また、提出に対応していない郵便局もあるので、料金とあわせて詳しくは郵便局で確認してほしい。
さて、内容証明郵便を提出したら、会社から電話やLINE、メールが送られてきても一切応対しないようにする。すでにこちら側は、退職届ないし、雇用契約を解除する旨を伝えているので、話し合う必要がないからだ。むしろ、安易に応答すると、相手方のいいように丸め込まれてしまう可能性があるので、同じ土俵に乗ってはならない。
携帯に何度も電話をかけてこられたりすると、びくついてしまうと思うが、大抵の場合、相手は報復を宣言しようとしているのではなく、こちら側がどんな隠し玉をもっているのか慌てて探りに来ていることがほとんどである。法的に訴える意思がなければ、そのままトーンダウンしてしまう。もし万が一、相手側が法的なアクションを起こしてきた場合は、あらかじめ収集してまとめておいた証拠資料を持参して、弁護士などの専門家に相談すればよい。無事に解決するだけでなく、場合によっては、会社側から賠償金を取れる可能性も出てくるかもしれない。
(監修/山岸純)
(文/松沢直樹)