社会

クレーマー保護者=モンスターペアレントではない 学校は保護者とどう向き合うべきなのか

【この記事のキーワード】

「Getty Images」より

 近年、多くの企業は「お客様相談」の窓口を設けており、客が不満を“クレーム”として企業にぶつけることが簡単な世の中になった。カスタマーハラスメントという現象も注目され始めている。それに伴い、保護者が学校にクレームを入れることも増えているという。

 教員のブラック労働も問題視されるようになってきたが、学校現場では「保護者対応」に頭を抱える教員も多いという。教員および学校に対して理不尽なクレームを入れる保護者の存在は、マスメディアでも度々クローズアップされてきた。

 本来、学校は子どものための場所であり、教員と保護者は“ともに子どもの成長を喜びあう存在”として連携・協力する必要があるはずだ。なぜ、こじれてしまうのか。長年に渡り、学校現場における保護者対応について研究をされている小野田正利先生に話を伺った。

小野田正利・大阪大学大学院教授
1955年、愛知県日進町(現日進市)生まれ。 名古屋大学法学部を卒業し、大学院は教育学へ。1984年から長崎大学教育学部で13年間教え、1997年から大阪大学に移り、2002年から教授に。教育制度学研究室の教授として、教育に関する制度や環境、行政や政策そして法律などを専門領域としている。学校と教職員の“等身大の姿”を明らかにすることを自分のライフワークとしており最近は「学校と保護者のいい関係づくり」につながるように「学校-保護者間トラブル」「学校近隣トラブル」の研究に没頭。『迷惑施設としての学校~近隣トラブル解決の処方箋』(時事通信社・2017年)『先生の叫び 学校の悲鳴』(エイデル研究所・2015年)などの著書を執筆。

「モンスターペアレント」は児童虐待の用語だった

――学校に対して無理難題を主張する保護者のことは「モンスターペアレント」と呼ばれています。2008年には連続ドラマのタイトルにもなり、広く周知される言葉となりましたが、小野田先生は学校にクレームを入れる保護者を「モンスターペアレント」と呼ぶことに反対していらっしゃいますよね。

小野田:「モンスターペアレント」とは、元来、児童虐待の文脈で使われる用語です。昨年、東京都目黒区や千葉県野田市で虐待死事件がありましたが、亡くなったお子さんから見た両親こそが「モンスターペアレント」です。

「モンスターペアレント」とは、子どもから見て親がモンスターだという意味で使われる言葉であり、教師から見てのモンスターではありません。「モンスターペアレント」という言葉が間違った意味で広がってしまったのは、マスコミが保護者から学校へのクレームを面白おかしな“イチャモン”として報道したことも原因だと思います。

保護者から学校へのクレームがすべて無理難題であるとは限りません。学校側はクレームが「要望」「苦情」「無理難題要求(イチャモン)」のどれであるかを見極め、議論すべきです。

――要望や苦情と無理難題要求を、どのように見極めるのでしょうか。

小野田:まず、無理難題を言うことが多い保護者でも、すべての主張がおかしいとは限らず、全体を客観的に見る必要があります。

実際に、ある関西地区の中学では、卒業した生徒の親御さんが「担任の指導の仕方が悪かったから希望の高校に行けなかった」と頻繁に文句を言ってきたそうです。担任に話を聞くと、担任はしっかりと指導をしたが、その生徒は実力よりも2ランク上の高校を受けたといいます。これを「担任の指導のせいだ」と言えるのかどうか。親御さんの“イチャモン”と言っていいのではないかと私は思います。

では、その親御さんは「モンスターペアレント」であり、学校への要求がすべて“イチャモン”かといえば、そうではないのです。

その親御さんは受験のほかにも、校則にあるツーブロック禁止や靴下の色指定などについてクレームを入れていました。その学校は未だに靴下は白という決まりで、ワンポイントやラインも不可。これに対して保護者は、「白の靴下は洗っても汚れが落ちにくいし傷みも目立ちやすいので、黒や紺でもいいのではないか」と意見していたのです。これは無理難題要求ではなく“要望”ですよね。

親御さんの言うことの99%が無理難題要求だったとしても、耳を傾けて聞くべき要望が1%でもあるのなら、学校側は拒絶の姿勢を取らず、1%の部分については検討すべきなのです。

――無理難題を言うことの多い保護者だとしても、正当な要求を述べることはある。当然のことですが、「この人の言うことは全部おかしい」などと決めつけてはいけないわけですね。

小野田:そうです。僕がよく講演で教師たちに伝えているのは、「保護者の話を聞いてください」「最初の10分くらいはメモを取りながら聞いてみましょう」ということです。話を聞くのが苦手な教師は、保護者が何か言ってくると3分以内に「でもねお母さん」「でもねお父さん」と“not”“but”を使ってしまうんです。そうすると保護者は不愉快に感じ、話がこじれる。こじれた結果、単なるクレームがトラブルに発展してしまうのです。

話をこじらせないためにも、まずは保護者に「言わせる」必要があり、電話にしろ対面にしろ、最初の10分は「そうなんですか?」と半疑問形で、メモを取りながら話を聞くことが大切です。

――それは実用的なアドバイスですね。教育現場以外でも使えます。

小野田:ただ、保護者の中にはメンタル面が不安定な方もいます。そういった方の場合、時間を構わず長々と喋り続けてしまう傾向があるので、教師はあらかじめ「1時間後に会議があるので」など、条件設定をした上で話を聞くようにしてください、と伝えています。

――いきなり恫喝してくるなど、高圧的な態度でクレームを入れられた場合でも、まずは話を聞くことが重要なのでしょうか?

小野田:言い方のきつい親御さんでも、実は言っている中身は、単なる質問や問い合わせレベルのものということもあります。たとえば、学校から子どもを通して「雑巾を2枚持ってきて下さい」と連絡があった時、親御さんによっては「え? うちに雑巾なんかないし。余っているタオルで縫うの? 縫う時間もないし、ミシンもないよ」と不安になる方もいます。今の時代、針と糸はともかくミシンを持っていない家庭は珍しくないですよね。

そうなると、「そうだ、100円ショップに売っている」と思いつき、今度は購入した雑巾でいいのかが気になってきて、そのうちに「何で2枚も必要なんだろう」と疑問に思う。そういった疑問自体は誰でも抱きますが、親御さんの中には「どうして2枚も必要なんですか?」ときつい口調で学校に問い合わせしてこられる方もいるわけです。

問い合わせの中身自体は“疑問”ですが、高圧的な態度だと教師は身構えてしまい、「この親は私に何か嫌なことを言う」「クレームが来た」と怯えてしまい、そこから問題がこじれるパターンもあります。

たとえ保護者が高圧的な態度だったとしても、教師は保護者が何を思って連絡をしてきたのか、しっかりと聞いてください。できれば親御さんも「どうして」「なぜ」と疑問をぶつける前に、ワンクッション「先生、質問があります」「教えてほしいのですが」といった枕言葉を入れると、お互いに話がスムーズに進むのではないでしょうか。

学校がチームで対応することが重要

――他方で、保護者のクレームが教員の負担となり長時間労働につながってしまう懸念もあります。メンタルを崩してしまう教師がいることも問題になっています。

小野田: そうですよね。2006年と2016年に行われた「教員の勤務実態調査」によると、小中ともに、教師はPTA業務を含め保護者対応のあった日のストレスが高いことがわかっています。また、2016年の同調査によると、労働時間の中で保護者からのクレーム対応は、平均すると小学校で1日7分、中学校で1日10分でした。一見短いように見えますが、これはあくまでも“平均”です。実際は個人差が大きく、いじめや不登校のあるクラスの担任の場合、平均時間よりもだいぶ長い時間を保護者の対応にあてていると思われます。

――やはり保護者対応にストレスを感じている教師は多いのでしょうか。

小野田:保護者対応における精神的負担が強まった結果、うつ病になったり、自ら命を絶った先生もいます。保護者対応によってそこまで追い詰められるケースが現実にあることは確かです。教師をしていれば子どもとの関係がうまくいかず悩むこともありますが、子どもは毎日学校に通ってくるので関係を修復する機会も多くあります。ところが親御さんは時々しか学校には来ません。教師にとって、保護者とのトラブルは一番厄介でしんどいものです。

――保護者対応のすべてを個々の教師の裁量に任せるような学校組織のあり方は、問題が大きいと思います。一人ひとりの教師のストレスを軽減させるために、学校はどのような対策をすべきなのでしょうか。

小野田:はい、保護者からクレームがあったとき、担任に丸投げするのではなく、学校全体でチームとして取り組む必要があります。そのひとつとして、保護者との話し合いは担任だけでなく、「担任と学年主任」「担任と教頭」など、2人以上の教師で対応するように勧めています。保護者と教師の1対1だと「言った・言わない」も含めて客観性がなくなりますし、クレームの内容によっては担任の一存では決めきれないこともあります。クラス内の子ども同士のトラブルであれば担任で対応可能でしょうが、学校の校則やルールとなると担任ではなく、学校で決めていることだからです。

さらに、最近は親御さんが教師とのやり取りをIC レコーダーやスマホでこっそり録音することも増えています。もし話し合いの場で教師が感情的になってしまうと、それが新たなクレームになることもあります。2人以上の先生が参加することで冷静さを保つという効果もあります。

――学校がチームとして動くことで、教師の負担は分散され、精神的にも楽になると。

小野田:そうです。保護者のクレームには要望・苦情・無理難題要求の三段階があると紹介しましたが、学校が反省すべき類のものなのか、それとも無理難題なのかをひとりの教師が見ていくには限界があります。

飲食店などのサービス業におけるクレームに比べ、学校へのクレームやトラブルは複雑です。子ども同士のトラブル1つとっても、多数の子どもと親御さんが関わっていますし、状況は日々刻々と変わります。そのため、1人ではなく複数の教師の視点で対応することによって、トラブルの全体像も見えやすくなるのです。

――保護者からのクレームが、かつては見逃されがちだった理不尽な校則や、教師による体罰、ハラスメントを炙り出すきっかけになることもありますよね。

小野田:その通りです。保護者と教師が対等にものを言い合える時代になったことは良いことであり、クレームと向き合うことは学校にとってマイナスなことではありません。

大切なのは保護者と教師がお互いを“リスペクト”することです。リスペクトは「あなたと対等に向き合います」「敬意を払います」という意味で、相手を崇めることでも卑下することでもありません。教師と保護者が意見を出し合い、学校が子どもたちにとってより良い場所になっていけばと思います。

  • ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

小野田正利(おのだまさとし)

1995年、愛知県日進町(現日進市)生まれ。顔は、車だん吉と、カンニングの竹山を足して2で割ったようだと、よく言われます。講演風景は、まさにライブで、綾小路きみまろに似ている、しゃべりは金八先生のようだと評されることが多くなりました。現在、大阪大学大学院教授・人間科学研究科(学部名は人間科学部)。
名古屋大学法学部を卒業し、大学院は教育学へ。1984年から長崎大学教育学部で13年間教えたが、金八先生のようだと言われた。1997年から大阪大学に移り、2002年から教授。人間科学部(大学院は研究科という名称を使うので「人間科学研究科」)は、1972年に日本ではじめて文科系と理科系の融合した、かつ「人間」と名前の付いた最初のユニークな研究や教育をおこなう学部として発足しました(大阪大学には東大や京大のような教育学部はありません)。
23年前に、思いもかけず阪大から「ちょっと変わっているようだからウチへこい」と言われた。「これで551の豚まんが毎日食えるな」、という思いと「探偵ナイトスクープ」がちゃんとリアルタイムで放映されていることの魅力から阪大へ。
教育制度学研究室の教授として、教育に関する制度や環境、行政や政策そして法律などを専門領域としている。阪大ではGTOと呼ばれて(?)います。えっ!反町に似ているかって? いいえ、GTOというのはGreat Teacher ONIZUKA(鬼塚)ではなく、Great Teacher ONODA(小野田)だからです。
学校と教職員の“等身大の姿”を明らかにすることを自分のライフワークとしている。『片小ナビ~保護者のための片山小学校ガイドブック』づくり、学校讃歌ブックレットシリーズの発行、イチャモンの研究など、他の大学の研究室とは相当に異なった独自の「どろをさらい、地をはう路線」を追求し、「教育現場に元気と自信を!」をテーマとしている。最近は、もっぱら「学校と保護者のいい関係づくり」につながるように「学校-保護者間トラブル」「学校近隣トラブル」に没頭。
連載としては『月刊高校教育』(学事出版)に2006年から「悲鳴をあげる学校~学校への要望・苦情そしてイチャモン」(すでに150回を超えた)、『内外教育』(時事通信社)に、2010年から「普通の教師が生きる学校~モンスター・ペアレント論を超えて」(すでに400回を超えた)を執筆中。
●主要著書
・最近著『迷惑施設としての学校~近隣トラブル解決の処方箋』時事通信社、2017年
・近著『先生の叫び 学校の悲鳴』エイデル研究所、2015年
・『それでも親はモンスターじゃない!~保護者との向き合い方は新たなステージへ』学事出版、2015年
・『悲鳴をあげる学校~親の“イチャモン”から“結びあい”へ』旬報社、2006年
・(絶版)『親はモンスターじゃない!~イチャモンはつながるチャンスだ』学事出版、2008年
・(絶版)『イチャモン研究会~学校と保護者のいい関係づくりへ』ミネルヴァ書房、2009年
・(絶版)『イチャモンどんとこい!~保護者といい関係をつくるためのワークショップ』学事出版、2009年
・『ストップ自子チュー~親と教師がつながる』旬報社、2010年
・「普通の教師が普通に生きる学校~モンスターペアレント論を超えて」時事通信社、2013年
・各年度版の『教育小六法』学陽書房刊、の編集者の一人(※上記の本とのギャップがありすぎるために、別人と思われていますが、アイウエオ順で2番目に名前があります)。
・『教育参加と民主制~フランスにおける教育審議機関に関する研究』風間書房、1996年(※1万9千円もするので、間違っても買わないように(笑い)、またフランスの研究をしていたなんてことは、もう忘れて下さい。)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。