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紗栄子や鈴木紗理奈の息子も留学、イギリス全寮制学校の魅力はどこにあるのか

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「Getty Images」より

 ラグビーワールドカップ2019の日本代表の大健闘で、日本国内のラグビー熱は急激に沸騰した。そんな中、ラグビー発祥の地で知られるイギリスの名門寄宿学校のラグビー校が2022年に日本に姉妹校を開設する計画を発表。英語で行われる授業を中心とした男女共学の中高一貫校で、寄宿生と通学生の両方を受け入れる予定だ。

 少し前に、紗栄子に続いて鈴木紗理奈の息子がイギリスの全寮制の学校に留学したというニュースがあった。確かにステイタスはあるだろうが、イギリスの寄宿学校の何がそこまで魅力なのだろうか。今回は、その中でも基本的に13歳から18歳までを対象とするパブリック・スクールに焦点を当ててみたい。

パブリック・スクールとは?

 まず紛らわしいのがパブリック・スクールという名称だが、イギリスの場合、公立ではなく私立のエリート校を指す。

 最古のパブリック・スクールは、1382年創立のウィンチェスター校だ。当時ペストの流行で人口が大幅に減る中、聖職者の養成を目的としてつくられた。

 ウィンチェスター校の見学ツアーのガイド(OB)によると、創立当時は収入が低い家庭の子どもしか入学できなかったという。最初に入学したのが74人の子どもたちで、家庭の年収が当時10ポンド未満(現在で約70万円)であることが決められていたそうだ。

 現在パブリック・スクールでは、学費と寮費合わせて年間500万~600万円かかる。生徒の親は必然的に、王族、セレブリティ、大手企業の社長、外交官、そして銀行員など裕福な層に限定され、上流階級の子女が世界各国から集まる。

 パブリック・スクールの中で特に名門とされるのは、「ザ・ナイン」と呼ばれる9つの学校だ。最古であるだけでなく、最も学術レベルが高いといわれるウィンチェスター校は日本ではあまり知られていないが、ウィリアム王子やヘンリー王子が通ったイートン校(1440年創立)、ラグビー校(1567年創立)、俳優のベネディクト・カンバーバッチが卒業したハロウ校(1572年創立)などが含まれている。

 子どもたちは、プレップ・スクールと呼ばれる予備校のような私立小学校(寄宿・通学)に通いながら受験準備を進めていく。この頃から欧米のインテリ層が嗜むというラテン語を習うことも珍しくない。勉強だけでなく、芸術性や運動能力、協調性などをここで身につけていく。

親がパブリック・スクールに求めているもの

 さて、名門パブリック・スクールで過ごすことで生徒たちに身につく力とは何なのだろうか。パブリック・スクール独特の美しいイギリス英語を話すようになり、オックスフォード大学やケンブリッジ大学に進学するチャンスが増えることだけではない。

 パブリック・スクールは、マナーを徹底的に身につけジェントルマンに仕上げる場である。卒業生たちは、自信と野心、そしてリーダーシップが身につくと話す。

 寮生活では24時間人に囲まれて生活する(昔は全寮制の男子校だったが、今は一部通学制も共学制もある)。特に最初は大部屋で、最上級生になるまで個室が使えない学校が多い。喧嘩、もめ事を繰り返しながら、協調性と、意見を主張する力の両方を養うことになる。自立心も身につくだろう。

 ただ、親が最も期待しているのは、将来世界で活躍するための人脈形成である場合が多いようだ。

 英慈善団体サットン・トラストと社会的流動性委員会は、政治、司法、メディア、ビジネス分野9業界の要職に就く5000人以上の学歴を調査。その39%が、パブリック・スクール出身者だったという結果が7月に英紙「ガーディアン」で報道された。上級判事に至っては、65%がパブリック・スクール出身者だった。パブリック・スクール出身者は人口の7%であるにもかかわらずである。

 英シンクタンク「リフォーム」のルーク・へセルウッド氏は、「この恥ずべき数字は、イギリスが実力主義からかけ離れていることを明らかにしている。これを是正するには、教育制度改革に真剣に取り組むことが求められる」と発言している。この数字は5年前よりは改善されているが、大きく変わっていないという。

 日本の企業においても出身大学で東大閥、早稲田閥など派閥があるが、イギリスでは大学よりもパブリック・スクールOB・OGのネットワークが幅を利かせているようである。良家の子女の割合が高いからだろうし、多感な時期に寮に入って苦楽を共にすることが強固な結びつきとなるのだろう。

パブリック・スクールにおける教育

 社会人になってから大きなコネクションを手に入れられるパブリック・スクールではあるが、昔ほどの人気はなくなっているという話もある。

 東京大学の新井潤美教授による『パブリック・スクール』(岩波新書)によると、1990年代になって生徒数の減少が見られるようになったという。子どもを質素で厳しい環境におくのではなく、手元において家庭で育てたいという考えの親が増えたことや、いろいろな階級の人々が入り交じる一般社会から隔離されがちな環境に疑問を感じてのことではないかという見立てである。

 生徒の減少分は、中国、ナイジェリア、ウクライナ、ロシア、中東などの金持ちの子息である留学生で補われるようになった。現在どこのパブリック・スクールでも、留学生は全体の10%程度だ。さまざまな国からやってくる留学生は、宗教も食生活も独特だ。イギリス国内での人気の陰りが、校内のダイバーシティ(多様性)につながった。

 ダイバーシティだけなら、インターナショナル・スクールに入れればいい話である。しかし、パブリック・スクールには、日本では考えられないような環境があることは否めない。

 まずは少人数制である。石井理恵子氏の『美しき英国パブリック・スクール』(太田出版)によると、イートン校では教師1名が平均で生徒8名をみるという授業構成だ。ウィンチェスター校では1クラス13人程度とあり、いずれもかなりの少人数になっている。

 カリキュラムは生徒と学校側が話し合い、組み立てる。授業はレベル別になっているところが多い。生徒の学びたいという気持ちを叶えることが基本姿勢で、たとえば珍しい言語を学びたい、学校にない楽器を習いたいと言えば、学校が道具や教師を手配してくれることが普通だという。その分、特別料金が請求されないこともある。

 校内にはまるでひとつの村のようにさまざまな施設が建ち並び、スポーツのコートも各種揃っている。毎日スポーツや課外活動に取り組む時間が用意されている。

 教育方針として日本人からすると意外なのは、優れた生徒を優遇することが当たり前という考え方だ。優秀な生徒は、リストになって発表される。勉強、音楽、スポーツ、オールラウンドで特別に優秀な場合は、専用の寄宿舎があったりする。また、優秀者や生徒代表などは、人と違うジャケットやネクタイを身につけられるなど、「人と違うこと」が外見からわかるようになっている。寮生活において、スマホは外出時以外は学校が保管している。そのため、スマホに費やす時間が非常に短い。

パブリック・スクールはプライドの塊?

 このようなエリート校で思春期を過ごすことが、その後の人格にどのような影響を与えるのだろうか。

 以前筆者がイギリスの田舎町に短期留学した際、パブリック・スクール出身者ばかりで構成された推定50代の仲良しグループのディナーに混ぜてもらったことがある。気取りのない親切な人々で、二度と会わないであろう筆者に対し、「東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本はがんばらないとね。テレビで観客席の君を探すよ」という洒脱なお別れの挨拶に感心した。

 一方、ケンブリッジ大学に公立の学校から入学したイギリス人女子学生と話した際、「パブリック・スクール出身の子たちは、いつもつるんでいる。偉そうだし、結構怖い」と言っていたのが印象的だった。

 ウィンチェスター校を卒業した30代のタレントのハリー杉山は、「パブリック・スクールの卒業生というのは、プライドの塊」だという。「僕にとってパブリック・スクールに行ったということはすべてです」「パブリック・スクールに行ったからこそ、色んな人を色眼鏡で見ることも、見下してしまうこともあります。自分がベストだと、自分が一番だと思うところがありますから」(引用:美しき英国パブリック・スクール)。

 プライドの高さをストレートに表現するのは、若さゆえだろうか。伝統を誇る大英帝国のパブリック・スクール出身者の自負は、世界一強くてもおかしくない。いまどき家柄だけでは入学できないというし、本人の努力が入学前も入学後も不可欠なのは理解している。それでも名門らしくプライドの塊であってほしいような、鼻につくような、選民意識の強さを心配してしまうのは、負け惜しみだろうか。

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