
等身大のフェミニズム/こはなみみこ
突然ですが、私のルーツは劇場にあります。
フェミニズム・ライターとして活動している私ですが、元々は演劇畑の人間です。中学生のころに観劇の楽しさに目覚め、高校演劇、ミュージカル、アングラ演劇、舞踊などの様々な舞台に演者として立ってきました。残念ながら表舞台に立つ才能にはイマイチ恵まれなかったため、早々に見切りをつけて大学では演劇評論に専攻の舵を切り、卒論では小劇場演劇の中で「少女」という存在がどのように扱われていたかの遍歴をまとめました。
いきなり自分語りですみません。そんなわけで私の生活には「劇場」や「演劇」が常に身近にあり、ごく日常的に観劇に出かけているということを説明したかったのです。今回は先日観た、あるミュージカルのお話をしたいと思います。
「ファクトリーガールズ」。その公演の情報は、上演の半年ほど前から耳に入っていました。元宝塚男役トップの柚希礼音とソニンのダブル主演で、どうやら女性キャストが多く出る群像劇らしい。そう知ったときは正直「ふーん」程度で、積極的に観ようとは思っていませんでした。良さそうだな、とは思ったのですが。
東京公演が始まってすぐ、複数の友人から「ファクトリーガールズ」を猛烈に推す声が届きました。フェミニストの友人が「絶対に観て!」と言うので慌てて大阪公演のチケットを取りました。驚いたことに、普段はミソジニー男性の価値観を内面化しているような発言の目立つ友人も「ファクトリーガールズめちゃめちゃ泣いた」と言っていて、これは何かただごとではないことが起きている、と感じたのです。
ツイッターで東京公演の感想を検索し(ネタバレを踏まないよう用心しつつ)、期待値を高めて大阪の梅田芸術劇場メインホールで「ファクトリーガールズ」を観劇しました。友人たちの警告を受けてアイメイクは薄め、あらかじめ手にはハンドタオルを握りしめておきました。

「Getty Images」より
ここで「ファクトリーガールズ」のあらすじを紹介しておきます。
舞台は19世紀半ばのアメリカ・ローウェル。産業革命により大規模な紡績工場が増えたローウェルでは、新しい働き手として多くの先進的な女性が工場で労働していました。主人公・サラは望まない結婚を退けるため、そして経済的に困窮している実家を助けるためにローウェルへ。そこで、工場で働く女性たちによる寄稿集「ローウェル・オウファリング」の編集を仕事にしている聡明な女性、ハリエットと出会い、自らも文章を書く才能を見出されていきます。
工場で働くにつれて労働環境の劣悪さや労働時間の異常な長さ、賃金の低さに疑問を持つようになったサラは、環境改善を求めて女性の労働運動に身を投じていくことになります。「女性の健やかな社会進出」という志は同じでありながらアプローチの違いや工場の経営陣である男性からの外圧によって、友情で結ばれていたサラとハリエットは対立させられていき……といった内容です。
観劇後、私は涙を吸って若干重たくなったハンドタオルを手に呆然と劇場を後にしました。薄めにしてきたはずのアイメイクもほとんど流れ、泣きすぎて頭痛さえするほどでした。女性の労働問題を真正面から扱った今作が、まずテーマの時点で私に深く刺さったのは言うまでもありません。作中の舞台こそ19世紀アメリカですが、描写の端々には21世紀の日本に生きる私にも身に覚えのあることが山のように織り込まれていました。