社会

社会実験Exographの「私生活データまるごと売って月20万円」は安すぎやしないか

【この記事のキーワード】

「Exograph」公式サイトより

 生活をおくる部屋に死角なく(トイレや脱衣所を含む)複数のカメラを設置し、私生活を撮影した動画データと引き換えに報酬を受け取る株式会社Plasmaの社会実験「Exograph」が始まろうとしている。実験は11月25日から1カ月間にわたり行われる予定で、現在、参加者を募集中だ。

 報酬は一カ月で20万円。この価格設定は「最低限、生活に困らない金額」だからだという。個人情報と生活資金を引き換える「Exograph」には、「貧困ビジネス」「人権無視」など批判的な指摘が相次いでいるが、13日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)ではこの話題を取り上げ、株式会社Plasmaの社長・遠野宏季氏が批判に反論した。

私生活データが「20万円」は妥当か?

 社会実験「Exograph」への応募者数は現在800人以上だというが、この放送でさらに応募が殺到するだろう。応募者の動機は「実験に興味があったから」「お金が必要だから」など様々。応募者の平均年収は300万円から400万円だそうだ。

 株式会社Plasmaはこの実験で生活行動のデータを収集。撮影した映像は、消費者行動データとして企業に売ることを目標としているという。遠野社長は、トイレの映像は排泄に要する時間や頻度から医療系の企業に、脱衣所は身だしなみを整えることから化粧品のメーカーなどが興味を持つだろうと予想しており、リビングの映像はテレビを見ている時の反応を観察することで、広告やテレビ番組の効果を確かめることができると語った。すでに5つの企業からデータ情報に関する問い合わせがきているそうだ。

 ネット上では「面白そう」「興味深い」と好意的な反応もある一方で、「貧困ビジネス」「人権を無視している」との批判や、倫理観の欠如を嘆く声も大きい。なお、番組内で遠野社長は、「貧困ビジネス」という批判に対し、<貧困ビジネスとは、参加者をより貧困にさせるものだ。この実験はそうではない>と反論している。

 しかし極めてプライベートな個人情報そのものである映像の保存期間や、企業の具体的なデータ活用方法はまだ決まっていないという。映像の使用目的がはっきりしていないことは重大な“リスク”だと、番組コメンテーターでBUSINESS INSIDER JAPAN編集長の浜田敬子氏は指摘した。撮影が終わった後、情報提供者はPlasmaがどのような会社にデータを売り、その会社がどういう目的で動画を使用するのかに介入することはできないからだ。

 そのようなリスクがあるにも関わらず、月20万円の報酬とは安すぎるのではないかと、浜田氏は懸念する。確かにそのとおりで、被験者が受け取る報酬は、データの需要の高さを考えれば、あまりに安すぎる。リアルな生活データは、現代社会において非常に需要が高く、Plasmaが企業にデータを売却する際は高額になることが予想される。20万円という「最低限生活に困らない金額」は、不当ではないか。

「Exograph」の一般化は基本的人権が保障されない社会?

 「Exograph」はあくまでもひとつの社会実験に過ぎず、強制的に私生活データを徴収して利用する未来を予測しているわけではない。しかしこの実験に結びついた発想には、人間の価値や基本的人権を無視しているところがないだろうか。

 今月8日にPRTimesが配信した「Exograph」のプレスリリースでは、報酬は132,930円という設定だった。これは、東京都内23区の30歳前後の人に支給される「生活保護費」の金額だ。その後、前述のようにネットの批判の声を受け、20万円まで引き上げられたという経緯がある。

 またリリースには<例えば納税や労働以外に「生き様のデータ」を提供することで社会に貢献し、社会保障や金銭的対価を受けるという選択肢があっても良いのではないでしょうか>との説明があった。つまり、「生活保護を受給する代わりに、私生活の動画データを提供する」という社会システムを想定しての実験だ。

 そしてキャッチコピーは、「ただ生きているだけで人は価値を生み出せるのか?」。

 これは、就労や納税をはじめとした「社会の役に立つ行動」にのみ「価値」を見出している発想といえるのではないか。「ただ生きているだけで人は価値がある」という前提に立ち、基本的人権を尊重する意識があれば、「価値を生み出せるのか」という問いは浮かばない。

 個人情報は非常に需要の高い貴重なデータであり、金に困った人々から気安く買い叩いていいようなちっぽけなモノではない。また社会保障を受ける選択肢は、納税や労働の義務とは無関係に誰しもが持つ権利である。義務を果たさなければ得られないような限定的な権利ではないことを、覚えておきたい。

 様々な批判を受け、遠野社長は10日にnoteで見解を述べている。貧困ビジネスにしないため、購買意欲が高く多くの企業が行動データを求める富裕層の参加者を増やしたいとしているほか、参加者のパスワードや重要な個人情報が映像にうつり込んでしまうリスクなどプライバシー保護の観点からもまだまだ検討が必要であることが綴られている。また、遠野社長も自ら被験者として参加しているとのことだ。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。