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双子ベビーカーが使えないのは「ここには来ないで」ということ。多胎育児に伴う外出・移動の困難

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三つ子を連れての外出は手が足りない!(作・いとせみどり)

 二人乗りのベビーカーに双子を乗せた女性が、名古屋市の市バスに乗車を拒否されるというトラブルがあり、新聞などでもこの問題が取り上げられて議論になっている。

 女性は区役所に行くためバスを利用しようとしたが、混雑していたためバス3本を見送った。4本目でようやく乗ろうとしたところ、運転手から「車内が混んでいるので、自分で中に運べるのなら」と言われたという。

 女性は車イス用のスロープを出してもらえるよう頼んだが運転手は聞き入れず、双子が乗ったベビーカーを自力で運び入れることは無理と乗車を諦めた女性は、約40分間歩いて目的地まで向かったそうだ。

 女性が市バスに乗車拒否された顛末をTwitterでつぶやいたところ、ネットで物議を醸して騒動に発展した。

 なお、名古屋市交通局の公式サイトでは、大型バスでは双子用のベビーカーに子どもを乗せたまま乗車が可能であり、乗降時には乗務員が協力するとしている。なお、中・小型バスではベビーカーを折りたたんでの利用を求めており、折りたためない場合はご利用を遠慮いただく場合があるという。このルールは2013年に改訂されたものだそうだ。

 この女性のツイートについて、SNSでは、子を持つ親を中心に「双子用ベビーカーをひとりで持ち上げたりたたんだりすることは不可能です」「周囲の人たちの協力がないとバスにも乗れない」と女性に共感する意見が相次いだ。多胎児(双子、三つ子など複数の子ども)の育児の困難を訴える声もあるが、その大変さは一般的に知られていない。

 2012年に三つ子を出産し、その経験を元にしたエッセイで多胎児の育児にまつわる情報を発信している漫画家のいとせみどりさんに、三つ子の育児や双子用ベビーカーで外出するときの困難について聞いた。

いとせみどり
2012年4月に三つ子を出産。夫は単身赴任なのでほぼ1人で三つ子育児中。
ワンオペ三つ子育児の日々を描いた漫画「三つ子まみれな毎日」をたまひよONLINEで連載中。
Twitter<@midori_ooo
Instagram<midori_ooo_

「ここには来ないでください」と“拒否”されている

――いとせさんは三つ子のお子さんたちが小さい頃に双子用のベビーカーを利用されていたそうですが、どんな大変さがありましたか?

いとせ:私の場合は子どもたちが3~4歳になって自分で歩けるようになってもベビーカーを使っていました。安全や迷子防止のために子どもと手をつなぎたくても、三つ子だと私ひとりだけでは無理なんです。なので外出時は、二人をベビーカーに乗せて片手で引きながら、もう一人と手をつないだりして歩いていました。

 ひとりで三人の子どもを見るだけですでに手が足りない状態なのですが、双子用のベビーカーは10㎏以上あって子どもを乗せればもっと重くなります。大人でもひとりで持ち上げることは困難です。

 でも双子や三つ子の場合、親ひとりだけで子どもを連れて外出する時には双子用のベビーカーが必須ですし、ベビーカーがなければそもそも外出は不可能な状態です。

――公共交通機関のように「ここはベビーカーを折りたたんで利用してください」というルールがある場所ではどうされていたんですか?

いとせ:多胎児の親にとって、ベビーカーを使えないのは「ここには来ないでください」と“拒否”されているのと同じことです。私も、三つ子を連れてバスや電車で移動することは現実的ではなかったので、車かタクシーという選択肢しかありませんでした。タクシーは高いので、どうしてもと言う時だけですね。

 ただ、これは私が地方に住んでいて免許を持っていたからできたことであって、たとえば公共交通機関がインフラになっている都市部に住んでいる方、免許や車を持たない方など、そうしたくてもできない場合もあるはず。本当に大変な思いをされている方は多いと思います。

――ベビーカーを使えないということは、もはや「外出するな」と言われているのと同じようなことなんですね。お子さんたちを連れて外出した時は、ほかにどんなシチュエーションで困難を感じていましたか。

いとせ:階段の上り下りがとにかく大変でしたね。これは子どもたちが自分で立って言葉を理解できるようになってからのことですが、私はいつも、まずひとりに「絶対ここにいてね!」と言い聞かせてから、ほかの二人の手を繋いで階段を降ります。次に、その二人に「絶対動いちゃだめだよ!」と説得してからダッシュで階段を登って、残りの子どもを抱いて降ります。そして、三人を並べてまた「絶対動いちゃだめだからね」と言ってからまた階段を上って、ベビーカーを担いで急いで降りる……ちょっとした段差でも、この繰り返しです。

 本当なら子どもから目を離したくないですし、「お母さんどこ行くの?」ってグズってしまうこともあって、階段の上り下りは体力的にも本当に大変でした。

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三つ子を連れて階段を上る時は…… (作・いとせみどり)

 あとは、双子用のベビーカーは大きくて場所を取るので、通れるところがそもそも限られてくるんです。私の場合は、双子用のベビーカーは車イスとだいたい同じ規格だと聞いていたので、車イス用のバリアフリーが整っている道や施設を事前に調べておいて、ちょっとしたお散歩でも決まったルートしか通りませんでした。お手洗いだって多目的トイレでなければ無理ですし、日用品の買い出しも基本的に同じスーパーにしか行きませんでした。

 そもそも、子連れで外出する時はまず子どもを着替えさせておむつの用意をして……といろんな準備が必要ですが、三つ子の場合だとそれが3倍になって、出かけるまでのハードルが高いんですね。それでやっと出かけても、その先でもいろいろな困難があるんです。

――大人がちょっと出かけるのとは、まったくわけが違いますよね。

いとせ:ひとつ言えるのは、親としては外出ひとつするにしても「自分以外の手が必要になる可能性がある=人の迷惑になる」と思ってしまうんですよね。ただ道を歩くだけでも双子用ベビーカーはとくに場所を取ります。もしかしたら気にしすぎなのかも知れませんが、私も周囲から「え、何?」みたいな空気を感じる時はやっぱりありました。とにかく周囲に対して「申し訳ない」「すみません」という意識がありました。

――子どもと外を歩くだけで「申し訳ない」と思ってしまう環境は、しんどいですよね。

いとせ:正直、私がベビーカーでバスや電車を利用しなかったのは、周囲の目を気にしていたからと言う理由が大きかったです。逃げ場のない車内で、もし子どもがグズったらと思うと……ひとりならまだしも、二人、三人が同時にグズり出してしまったら、子どもの泣き声が周囲の迷惑になるかもしれない、申し訳ないなという気持ちが強かったです。バスを使わなかった、というよりも、使えなかったです。

 今回、騒動になった名古屋市の市バスのトラブルについては、その場の状況がわからないので何とも言えないですし、運転手さんや乗客の方たちを責める気はありませんが、社会の側がもう少しだけ女性に理解を示してくれていたら、こうした騒ぎにはならなかったんじゃないかとも思います。

「自分の子供が邪魔と思われていない」とわかるだけでもうれしい

――お子さんたちを連れて外出する際には、肉体的はもちろん、精神的な負担も大きいことが分かりました。困っている時、周囲の人たちからどのようなアクションがあったら嬉しいですか?

いとせ:「大丈夫ですか」「ベビーカーを持ちましょうか」と声をかけていただけるのはとてもありがたいです。とにかく双子用のベビーカーはめちゃくちゃ重いので、少し支えていただけるだけでも、すごく助かります。

 私が育児中に嬉しかったのは、子どもたちと近所を歩いている時にちょっと長い階段があって、さっき話した要領で、ひとりで頑張ろうと思っていたんですが、近くで遊んでいた中学生の男の子たちがバーッとやって来て、「ベビーカー持つよ」って声を掛けてくれたことです。男の子たちがベビーカーをサポートしてくれたので、私は子どもと手をつないで階段を降りられました。なかなかできることではないと思いますし、とても嬉しかったですね。

――そんなふうにお手伝いができたらいいのですが、声を掛けたいけれど「もし断られたらどうしよう」「自分に何ができるかわからない」という気持ちでためらう人もいるかも知れません。

いとせ:たしかに、多胎児を連れていると街中で声をかけられることが多くて、なかにはそのことにさえ疲れてしまってピリピリしている親御さんもいます。ただ、それは親自身が精神的に余裕がなくていっぱいいっぱいになってしまっているからであって、困っているときに助けてもらうことはもちろん嬉しいですよ。

 きっと、実際には「お手伝いしましょうか」と申し出ていただくのはハードルが高いと思うんです。そんな時は、子どもにニコっと笑いかけてくれたり、バイバイって手を振ってくれたりして、歓迎とまでは言わなくても“拒否”してないという空気を周囲の方々が出してくれるだけでも、とても気持ちが楽になるんです。その場で自分の子どもが邪魔と思われていない、もし何かあった時には助けてくれる“味方”がいるんだと思える、それだけで、もう本当に嬉しいんです。

――子どもをごく当たり前に許容する人たちが大多数である社会でありたいですね。

いとせ:多胎児の親は、「助けて!」と声を挙げられないほど疲れ切っているので、まずはその大変さが周知されてほしいなと思います。そこから、少しずつ、社会の側がもう少し子どもやお母さんに優しくなっていってくれたらいいですね。

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