「社会には父親を返してほしい」双子以上の多胎児を育てる家庭から切実な訴え

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「Getty Images」より

 2018年1月、愛知県豊田市で三つ子の母親が生後11カ月の次男を床に叩きつけ殺害した事件で、名古屋地方裁判所岡崎支部は今年3月に一審判決を出し、傷害致死罪で懲役3年6カ月を言い渡した。この判決に母親側は執行猶予を求めて控訴したが、10月に実刑が確定した。

 この母親は毎日3人合わせて最低でも24回もミルクを与え、睡眠時間も確保できず鬱病を発症していた。児童虐待は決して許されることではないが、この事件を受けて双子や三つ子を育てる“多胎育児”の過酷さに目を向ける動きが出てきている。

「何度、子どもを殺してしまうかも…と思ったことか」

 11月7日、認定NPO法人フローレンスは厚生労働省で記者会見を開き、代表の駒崎弘樹氏、「多胎育児のサポートを考える会」代表でフローレンスにて特別養子縁組の事業推進を担当する市倉加寿代氏が登壇。また、3歳の双子の女児を育てている女性、5歳の長女と2歳の三つ子を育てている夫婦が、多胎育児の現状と改善点などを語った。本稿ではその模様をレポートする。

 市倉加寿代氏が多胎家庭1591世帯を対象に実施した調査結果によると、9割以上が「気持ちがふさぎ込んだり、落ち込こんだり、子どもに対してネガティブな感情を持ったことがある」(93.2%)と回答したという。以下、自由回答の一部を抜粋。

<完全にノイローゼで、後ろ向きになることしか考えられませんでした、毎日、泣いていました>
<多胎児はほんとうに意味がわからないくらい毎日が戦争。気が狂うし死にたくなる。虐待する気持ちもわかってしまう>
<何度、子どもを殺してしまうかも…と思ったことかわかりません>

 多胎育児中に「辛い」と感じた場面のトップは、「外出・移動が困難」(89.1%)だった。

<市の保健士や職員によく児童館や保育園の園開放などに積極的に参加するよう言われるが、1人ではなかなか連れ出せない>
<2人が同時に泣くかもしれないと思うと不安で公共交通機関を利用できない>

 「どのようなサポートがあれば気持ちが和らぐか」という設問への回答は、「家事育児の人手」(68%)、「金銭的援助」(57%)、「子を預ける場所」(52%)などが多い。人手、お金、場所など物理的なサポートを求めていることがわかる。

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 二人乗りのベビーカーに双子を乗せた女性が、名古屋市の市バスに乗車を拒否されるというトラブルがあり、新聞などでもこの問題が取り上げられて議論になっている…

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多胎の場合、洗濯もとても大変だろうと思う。(「Getty Images」より)

40年で多胎児の出生率は2倍になった

 双子以上の子を育てる家庭は増加している。人口動態調査によると多胎児の出生率は1970年代では約1%だったが、2017年には1.95%と倍近くになった。駒崎氏は、従来の育児に対する認識を改め多様なサポートが必要になると話し、具体的な対策を上げた。

 ひとつは保育支援だ。「現在は親が『就労』『就学』『介護』のどれかの状況になっていないと子供を保育園に預けることができないが、ここに『多胎児である』ということも追加してほしい」と、保育園の入園ハードルについて提言。また、「多胎家庭は外出が困難であるため、訪問型預かりサービスの充実や補助金を出すなども重要」と続けた。

 そして多胎児を連れての外出にも言及。「バスや電車などの交通機関を利用しやすくすること」「タクシー代を補助すること」など、多胎児を連れての外出のしにくさから親子が孤立しないよう、移動支援の充実が必要だと訴えた。

 こうした支援策を実施していくとしても、一方的に情報を発信するだけでは足りない。駒崎氏は、「多胎児の育児に追われている親は忙殺され、自ら支援や情報を得ようとするのも難しい。行政側から情報と支援を届ける必要がある」と、各方面に支援を求めた。

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駒崎弘樹
認定NPO法人フローレンス代表理事。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2005年日本初の「共済型・訪問型」病児保育を開始。08年「Newsweek」の“世界を変える100人の社会起業家”に選出。10年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」開始。のちに小規模認可保育所として政策化。14年、日本初の障害児保育園ヘレンを開園。15年には障害児訪問保育アニーを開始。内閣府「子ども・子育て会議」委員複数の公職を兼任。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門 』(PHP新書)等。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。

「明らかに子育てに必要なマンパワーが不足している」

 3歳の双子の女児を育てている女性は、「圧倒的にマンパワーが足りない」と訴えた。

「(妊娠発覚後は)双子・三つ子の希少性や神秘性から、憧れを持っている人は多くいますが、そうった解釈が多胎育児の大変さが見えにくかった原因だと思います」

「また、『神様はあなただから双子を授けたのよ』といった非科学的な励ましは、育児で苦しむ親の口を塞ぐだけです」

「思い返してみると、1日1日をなんとか乗り切ることばかりを考えていたので、私には子供が1歳までの記憶がありません。当時は、『自分は育児に向いていない』と考えるようになり、『子供を殺めるか?』『自殺するか?』を迷っていました。ですが、そんな苦労の日々を救ってくれたのが、保育園の入園通知です。もし保育園の入園通知が届いていなかったら、私は虐待死事件を起こしていたかもしれません」

「なぜここまで多胎児家庭が追い詰められているのか? 私は明らかに子育てに必要なマンパワーが不足していると考えています。出産後、夫は夕方に一度帰宅し、子どもたちの食事と入浴を手伝った後、また出勤し終電近くに帰宅する日もありました。『もっと彼と一緒に育児ができれば助かっていた』と思うことがたくさんあります。信頼できる人が傍にいれば様々なリスクを下げることができます。社会には父親を返していただきたい」

「多胎児家庭の皆さんにお伝えしたいことがあります。悪いのは無理のできないあなたではなく、無理を強いる社会の仕組みです。相談することは恥ずかしいことではありません。夫婦二人で問題を抱える前に自治体に相談してください。そして社会の皆さん。私たちの抱えている負担について、ご理解いただきご支援をよろしくお願いします」

 5歳の長女と2歳の三つ子を育てている夫婦も、夫の帰宅時間は遅い。特に子供の病気時に妻側の負担は顕著になる。

「三つ子の子育ては大変です。例えば、病気になったときは特に大変で、生後1年まではほぼ毎週風邪をひき、兄弟間で感染し合い、常に誰かが風邪をひいていました。その中でも、生後5カ月でインフルエンザに感染したときは本当に大変でした。近所に親族は住んでおらず、夫の帰宅はいつも23時。私は育休中だったので、1人で子供たちの世話をするのは、身体的にも精神的にも辛かったです」(妻)

「多胎育児では男性側の育児が重要で、育児の“協力”ではなく、主体的かつ積極的に“参加”することが求められるかと思います。男性の育児に対する認識は多少改善されましたが、まだまだ発展途上な部分も多くあります。仕事は家族を養うために大切なことではありますが、多胎児家庭で大切なのはマンパワーです。私も以前は23時以降に帰宅することがありましたが、今は非常に後悔しております。会社から理解を得られないこともあるかもしれませんが、多胎児家庭の男性はもう一度“何が大切か”を見直していただきたいです。そして、その上で社会的資源がもっと必要であることを世間の皆様にご理解いただき、ご支援いただければ嬉しく思います」(夫)

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 2018年1月11日、愛知県豊田市の自宅で生後11か月だった三つ子の次男を床にたたきつけて死なせたとして、母親が傷害致死罪で逮捕された。裁判では、多胎…

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