なかでもその熱量が目立つのが、市川海老蔵、松本幸四郎、市川猿之助、尾上菊之助、中村勘九郎・七之助。そして一般層の目を引く派手さは薄いのですが坂東玉三郎、本数は少ないものの中村獅童、片岡愛之助です。
一般的に歌舞伎役者といえば、まず思い浮かぶのは市川海老蔵だと思います。「スター・ウォーズ歌舞伎」の主演を務めるのも、海老蔵。現在は自主公演「ABIKAI」で、来年5月の團十郎襲名を前に海老蔵の名前では最後となる公演「SANEMORI」を上演中で、演出も自身で手掛けています。
海老蔵の歌舞伎愛
ABIKAIの過去の公演では、有名演出家の宮本亜門や、心の機微を丁寧に描く作風で演劇ファンの支持を集める長田育恵などがスタッフに加わりました。また、獅童とともに構想した「六本木歌舞伎」では宮藤官九郎、三池崇史、リリー・フランキーが脚本や演出を手掛け、梨園と縁の深い寺島しのぶや、V6三宅健などのジャニーズアイドルが歌舞伎に挑戦することも話題になりました。
成田屋という名前の大きさから、一流の劇場にスタッフ、そして大きなスポンサーを呼ぶ力もあるため、客席には普段歌舞伎にも演劇にもなじみのない一般層が目立ちました。チケットがもっとも入手しにくいのも海老蔵の公演。しかし、純粋な歌舞伎ファン、演劇ファンにとって面白いと感じられるものであるかは、正直疑問符がつき、足を遠のかせてしまってもいます。
海老蔵の最大の魅力は、華のあるビジュアルと存在感。そして、アーティストとしての狂気です。その狂気をより満喫できるのも新作ならではなのですが、一般ファンを引き込む強さがあるからこそ、日本舞踊などの基礎をもう少し身につけてくれれば……という残念な気持ちをかき立てられてもしまう。ですが「SANEMORI」は、過去作品に比べストレートに“歌舞伎”で、本人の深い歌舞伎愛は強く伝わってきます。