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「女の子のために」椎名林檎は楽曲を生み続けてきた

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1999年2月24日に発売された椎名林檎1stアルバム『無罪モラトリアム』

 11月18日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)に音楽家の椎名林檎が出演。1998年のデビュー以来、この世に生み出してきた数々の名曲の製作方法について語り、椎名林檎による世の女性たちに向けた発言がSNSで大きな反響を呼んでいる。

 11月13日に初のベスト盤『ニュートンの林檎』を発売した椎名林檎。昨年デビュー20周年を迎えた。デビューシングル『幸福論』(1998年)から順調にキャリアを重ねてきた椎名林檎だが、彼女には唯一無二といえる独特な楽曲の魅力があることは言うまでもない。同番組では、その楽曲製作方法にフォーカスしたインタビューが行われた。

 まず、その独特な曲のモチーフや発想をどこから得ているのかという質問に対して、椎名林檎は<お客さんたちの日々の暮らしのツイートを覗き見ていて>と返答。ツイッターを日常的に見ており、<落ち込んでいると思ったら、そのことに対して(曲を)贈りたいと思ったりとか。こんなサウンドでスカッとしてほしい>と、SNSから楽曲の着想を得ていることを明かした。

 そのうえで、椎名林檎は<(ネットユーザーの意見として)『今回のは全然ピンと来ない!』とか、期待されてることと、そうでないことを本音で仰ってるのを見たい><M9に歌が着地しがちだよねって、ネットで言われてる。気にします、絶対しないようにしようって>と、ネットやSNSの意見を積極的に楽曲づくりに反映させていることを赤裸々に明かしていた。

 椎名林檎とファンはネットを介してインタラクティブな関係性にあることが垣間見え、SNSでは驚きや喜びの反応が相次いだ。

「女の子たちの人生のサントラになってほしい」

 椎名林檎が自身の『丸の内サディスティック』(1999年)に代表されるような「FM7ーE7ーAm7ーC7」というコードワークをはじめ、音楽理論などの楽曲製作方法について語る場面では、女性をエンパワーメントする発言が多くあった。

 スタジオゲストの作曲家・岩崎太整から、転調をどこまで意識しているかとの質問を受けると、椎名林檎は「わからないで進行していって、意識しないほうがうまくいくような」と説明。その理由は、こういうことのようだ。

<一番重要なことが置いていかれる気が……下半身で書けてないというか、子宮で書けてない。学理を気にして聞いてらっしゃらない女の子たちが自然に寄り添って、そういう方たちの気分に自然に寄り添って、人生のサントラになっててほしいって思ってます>

 初期作から一貫して、アルバムで曲間を設けずに曲を連続させている理由は、「女の子たちの人生のサントラだから」

<女の子たちのツイート見てると、朝出勤するときはすごく良かったのに、上司がいきなりこんなことを言ってきて『生きるの嫌になっちゃった』ってくらいまで、ドンって沈んじゃったりされてるでしょう。殿方のことは知ったこっちゃないんですけど。女の子の人生って言うのは、すごくヘンな、心ない殿方たちの一言とか失言で、左右されちゃったりする>

<生理もあるし、自分の内なるバイオリズムがコントロールできない。仕様がない。それと合致しちゃって帰ってこれなくなって、長引くとかザラですから。そういうのからすると、『良かったね、ジャーン!』(ピアノを弾く)とは、ならないじゃないですか。だからリアリティーを持って書きたい。彼女たちの忙しない日々に寄り添う内容を。殿方は黙ってて、わかんないだろうから>

デビュー当時、「水着を着て来て」と要求され

 椎名林檎は意識的に「女の子たち」の人生に寄り添った楽曲づくりをしていることを明らかにした。そのことと、椎名林檎自身が過去に「“女性”アーティスト」であるがために屈辱を受けた経験は無関係ではないのではないか。

 今年5月25日放送の『COUNT DOWN TV』(TBS系)に出演した椎名林檎は、デビュー間もない新人歌手の頃、2ndシングル『歌舞伎町の女王』などのプロモーションでラジオの放送局を回っていた際に大人たちから受けた屈辱を明かした。

<結構いろんなところに行くと、面と向かって『ゴースト(ライター)いるんでしょ?』とか、『本当はいくつなの?』とか>
<あと、私が怒りからなのか人知れずひとりで泣いちゃったのは、明日のどこどこのキャンペーンの局の方が『たまたまプールサイドでの収録なんで、水着をなるべく着てきてほしい』みたいなことをおっしゃってるっていうのをメーカーの人から聞いたときに、なんかまあ悲しさなんでしょうね、すごく、怒りなのか悲しさからなのか、泣いたことがあって>

 この時の苦い経験は、椎名林檎がシンガーソングライターとして大成した後もずっと記憶に残り、活動に影響を与え続けたという。

 同番組では、アルバム『三毒史』(2019年)のアートワークで自身がケンタウルスに扮したことについても、<エスカレートしちゃって。(バカしてくる)相手のレベルに合わせて、『そういうふうに疑うんだったらこっちだって!』みたいな。マッチョイズム。虚勢の張り方ですもんね。鎧着たりとか>と、その経緯を語った。

 椎名林檎の過去の作品にも“虚勢を張った”ビジュアルは貫かれている。ガラスを割ったり(5thシングル『ギブス』/2000年)、日本刀でメルセデス・ベンツを真っ二つにしたり(6thシングル『罪と罰』/2000年)、スタンガンを持ったり(アルバム『私と放電』/2008年)と、強烈な“強さ”を表現したアートワークが見られる。

 この“武装”は椎名林檎の大きな特長のひとつになったが、当時まだ若く新人だった彼女が「水着を着てほしい」と言われて受けた衝撃、落胆、その傷は、多くの女性が共感するところではないか。椎名林檎の楽曲が、たくさんの女性に支持されることは必然だろう。

「たった今こういう気分の女の子のために」

 椎名林檎は、若い女性の生きづらさについて直球で語ったこともある。

 2011年発売の雑誌「Lips」8月号(マガジンハウス)のインタビューに、<女性って20代までは大変ですよね~自分次第で何者にもなれるはずなのに、社会だったり男性の目線だったり、余計なことに捕らわれて不自由になりがち。それはもったいないと思う>との発言が残っている。

 また、2017年のフジテレビ系ドラマ『カルテット』(椎名林檎が主題歌として『おとなの掟』を書き下ろした)の脚本家・坂元裕二が2018年に発売した著書『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット)でも、椎名林檎は“女の子のために”と強調していた。

<たかだか三分ほどの曲でもそうですし、五十分のアルバムでも、九十分のステージでも同じです。「たった今こういう気分の女の子のために」と用意します。そうそう思い浮かべるのは決まって女性です。男性に対してはおよそ腹立たしさしかない。それは女性を瞬間的にブスにするのが必ず男性だからでしょうね>

 しかしもちろん、そうして生まれた楽曲は女性だけが享受の権利を持つものではなく、多くの男性ファンの心にも深く響いている。ともすればミサンドリーに転びかねない「殿方は黙ってて」だが、椎名林檎のそれには有無を言わせぬ説得力があり、男性も頷かざるを得ないところだろう。

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