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沢尻エリカを大河ドラマから排除する「刑罰以上の私的制裁」は犯罪抑止になるのか?

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「Getty Images」より

 女優の沢尻エリカ容疑者が合成麻薬MDMAを所持していたとして麻薬取締法違反の疑いで逮捕された件を、連日、朝から夜までテレビワイドショーが大きく伝えている。2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で沢尻エリカ容疑者の出演シーンがどうなるのかや、賠償金の額にも注目が集まっているとされるが、彼女への懲罰的な意味合いで「テレビに出すな」という声もある。

 沢尻容疑者は『麒麟がくる』で、織田信長の正妻となる帰蝶(濃姫)役だ。報道によるとNHKは沢尻容疑者の代役を検討しているそうだが、第10話分まではすでに収録済みだという。セットも解体してしまっており、役者のスケジュールを調整して再撮影するのは相当な苦労が伴う。10話までを予定通りに放送すべきか、撮り直すべきか、ワイドショーでもネットでも、活発な議論が繰り広げられている。

「社会的制裁が必要」と断言する弁護士

 20日放送の『とくダネ!』では、撮影済みの『麒麟がくる』を撮り直しすべきか否かを街頭調査で100人に尋ねたところ、約6割が「撮り直しは必要ない」と答えたという。

 スタジオでは、デープ・スペクター氏が<(逮捕前で収録されたものという)テロップ出すとか><放送しないのは役者とか技術の人とか、受信料の無駄とか、モチベーション下がるとか色々なことを考えると、それだけのために10話分なしっていうのはやりすぎ>との見解を示した。

 またスペシャルキャスターの古市憲寿氏も<沢尻さんが今回大河ドラマに出て悪影響を感じる国民だとかこれで薬物OKだと思う国民はほとんどいないと思う>と、撮り直しに疑問を呈した。

 しかし薬物問題と<深くかかわったことがある>という若狭勝弁護士は、<社会が許さないという姿勢を示すことが大事>だと断言。『覚せい剤やめますか? 人間やめますか?』というキャッチコピーを例に挙げながら、ドラマは撮り直し、沢尻容疑者は社会的制裁を受けるべきだと主張した。

<薬物犯罪を犯した人が依然としてテレビに出ているのを見た小学生・中学生が 『なんだ、大したことないんじゃないの』っていうことになっちゃう>
<薬物はやっぱり、社会的制裁っていうのが裁判においても非常に大きくクローズアップされるんですよね。この人は社会的制裁を受けているかどうか。だから、薬物を抑止するには、社会的制裁がすごい大事であって>
<『社会的制裁を受けているな』と感じる国民が多くいないと薬物は止められない>

薬物依存者へのバッシングは治療を遠ざける

 しかし本当に、社会的成敗を受けることが薬物依存者を薬物から断ち切ることに繋がり、ひいては薬物蔓延の予防になるのだろうか?

 この問題で地道な啓蒙を続ける、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦医師は、若狭勝弁護士とは真逆の主張をしている。

 今年はピエール瀧、田口淳之介など複数の芸能人が違法薬物に関わって逮捕され、そのたびにテレビ番組では容疑者を責める報道、つまり社会的成敗が続いた。しかし松本医師によると、そういったバッシングは薬物依存から抜け出そうと治療に励んでいる人の希望を奪い、治療から遠ざけてしまうことになるという。

薬物犯罪で逮捕された芸能人へのバッシング、薬物治療を妨げる危険性/松本俊彦先生インタビュー

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 実際問題、『覚せい剤やめますか? 人間やめますか?』などの“脅し”教育は、違法薬物の抑止に繋がっていないという。なぜなら、違法薬物を使ったからといってゾンビのような廃人になるわけではないからだ。ピエール瀧や沢尻エリカがこれまで出演してきた作品からも、そのことは明らかだろう。

 また、脅し教育によりとことん「悪いもの」とされている違法薬物だが、何かしらのつらさを感じている局面で優しく薬物を差し出されたら、いくら脅し教育を受けていても断ることは難しいという。自暴自棄になり「早く死にたいから」と違法薬物に手を出す人もいる。人間をやめることになるほど強烈に危険な薬物であると脅されていながら、「敢えて一線を越える人たち」にはどんな背景があるのかに想像力を働かせなければ、本当の意味で効果のある薬物乱用防止教育はできないのだ。

「薬物依存症になっても解決策はある!」脅さない薬物乱用防止教育とは/松本俊彦先生インタビュー

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 さて、『麒麟がくる』については、「NHKは大河ドラマ『麒麟がくる』沢尻エリカさん収録分を予定通り放映してください!」という署名活動も始まったが、発信者は依存症問題を抱える当事者家族だ。この署名の目的は、沢尻エリカという女優の演技がどうとか、作品に罪はないとか、そういう類のものではない。

<芸能界が薬物事件を起こした芸能人に対し刑罰以上の私的制裁を加え、吊るし上げや辱めを与えることは、薬物問題に苦しむ一般の当事者や家族にも多大なる悪影響を与えており、社会からの孤立や私的制裁恐れ、支援や相談に繋がることを困難にさせています>
<回復すれば再び輝くことができる」というロールモデルがいることで、回復への希望を見いだすことができ、辛い治療を乗り越えることができます>

 沢尻エリカに社会的成敗を加え、これまで彼女がいた場所から徹底的に排除することが、違法薬物依存者たちの回復につながり薬物蔓延を予防するとは言えないだろう。ワイドショーはどうせこのテーマを扱うのであれば、「彼女をみんな許すべき/いや許してはいけない」などといった極端な二元論に走らず、建設的な議論を放送してほしい。

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