
「Getty Images」より
労働政策研究・研修機構が10月31日に発表した調査結果によると、正社員が不足している企業は64・6%もあることがわかった。人手不足が叫ばれる昨今だが、主にどの業種で不足しているのだろうか。
エン・ジャパン株式会社の調べでは、「営業職(営業、MR、人材コーディネーター他)」(35%)が最多で、2番目に多い「技術系(IT・Web・ゲーム・通信)」(18%)を大きく引き離す結果となった。時代の変化で営業職の需要が増加したのか、敬遠する人が増えたのか理由はわからないが、営業職は著しく人手が不足している業種と言える。
転職者は、この状況を逆手に捉えることもできる。営業スキルを身に着ければ自分自身の市場価値が上がり、転職活動を優位に進めることができるかもしれない、ということだ。
10月30日、一人ひとりのキャリアを支援するキャリアセンター「minatos」がセミナー「職業は、ファン作り 〜人に寄り添って働きたい人のためのキャリア入門〜」を開催した。セミナーではPERSONAL VENTURE CAPITAL.LLC代表のチカイケ秀夫氏、株式会社三服屋代表の磯村法幸氏、アクサ生命保険株式会社で営業職を務める西野健二氏、minatos代表でパラレルワーカーの境野今日子氏が営業のコツや仕事でストレスを感じないための働き方などを議論。その模様をレポートする。
先輩や同期の営業方法を疑う
労働政策研究 ・ 研修機構の「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成」では、初めての正社員としての勤務先が「営業職」だった人の離職者が高卒や大卒に関係なく多いと指摘されている。また、初めての勤務先が営業職だった人で、現職でも営業職として働いている割合は4割程度に留まった。
営業職は離職者の多い業種であると言うが、西野氏は長く働き続けるために就職してすぐからある作戦を実践したという。
西野氏「保険業界ってすごく厳しい業界なので辞めていく人がすごく多いんですよ。だから、『周囲の人たちの真似をしていたら数年後には辞めている可能性が高いかもしれない』と直感しました。『誰もがやっていないようなやり方をやらなければいけない』ということに軸に試行錯誤し、保険業界の営業でありがちな家族や友人に商品を買ってもらうということは一切やらなかったし、営業マニュアルも読みましたが、全てマニュアル通りには動きませんでした」
西野氏の経験からは、「営業職は厳しい」というイメージが形成されているのは、従来の営業のやり方に誤りがあるからという可能性もあることが示唆される。西野氏はクライアントの引越しの手伝いや引越し屋の紹介、不動産屋の手配といった、業務とは一見関係なさそうな顧客からの要望に応え、信頼を勝ち取ることに注力したそうだ。それも一つのやり方だろう。
境野氏も、入社後の約2カ月間にわたる販売研修において同期と営業の成果を競い、「みんなと同じことをやっても平均値止まりだろう」と思ったという。
境野氏「当時の会社の方針は『1円でもいいから多く稼げ』というもので、同期たちは安い商材でもチマチマと売り上げを積み立てていました。これでは十分な結果を出せないと思ったので、私は一番高い商材だけを売ることにしたんですね。その商材を研究し、興味のありそうな人にだけ徹底的なアプローチを仕掛け、結果的に、支店の同期内という小さな枠組みではありますが、そこでトップを取ることができました」

西野健二氏

境野今日子氏
営業は自分のタイミングで良い
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツが営業従事者を対象に実施した調査では、営業活動で不安を感じることとして「お客様と関係構築できているか」(51.4%)が最多だった。顧客とのコミュニケーションに悩む営業従事者は多い。人間関係の煩わしさが離職の原因につながることもあるだろう。
磯村氏は営業職の心構えとして、闇雲なアプローチをしないことを説く。
磯村氏「僕は基本的に営業をしないで、お客さんが求めてきた時だけ営業します。たとえば自分が『スーツを作りたい』って思ったタイミングで作りたいんです」
顧客が情報を求めてくるときに、適切な営業を仕掛ける。確かに効率的と言える。この受動的なスタンスは顧客に好評で、新たな顧客を紹介してもらうことも珍しくないという。自ら開拓しなくても良い好循環を生み出しているようだ。
また、チカイケ氏は経営者に対して、「経営者はモノを売らないでください」と言うのだという。
チカイケ氏「経営者は会社の世界観や方針を語ることです。その理念に共感してくれる人が『この会社から買いたい!』と声を上げ、顧客になってくれます」
経営者は広い視野をアピールし、最終目標は“売ること”“契約すること”ではなくその先にあるということを示す方が良いということだろう。これは経営者に限った話ではないかもしれない。自分が顧客の立場になってみれば、商品やサービスを押し売りする営業スタイルに好感を抱くかどうか。そうではなく、「なぜこの事業をやっているのか?」「この商品はどういった背景から誕生したのか?」などを明晰に伝えられることが、信頼を獲得しモノを売る近道となるのかもしれない。

磯村法幸氏

チカイケ秀夫氏