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兵庫県明石市が進める「養育費」取り立て条例、氏名公表や過料の額は?

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「GettyImages」より

 兵庫県明石市では、養育費を支払わない親から取り立てる新条例を来年4月に施行予定だ。現在、その準備を着々と進めている。

 最初に明石市が提案した条令の内容は、養育費不払いの悪質なケースに対しては、支払義務者である元夫や妻に対して「過料」や「氏名公表」といった措置を取るものであった。「過料」とは、地方自治体の条例で定めることのできる行政罰で、上限額は5万円だ。

 過料が徴収されると、養育費を受け取る権利を持つひとり親には、市から過料と同額の「養育支援金」が給付される。

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 しかし、今月18日に行われた有識者を招いての第2回検討会で新たな動きがあった。明石市は、検討会の回数を3回から6回に増やし、条例案の提出は当初予定されていた来年3月議会から来年12月の議会に延期すると表明した。

 そして、支払義務者から過料を徴収してからひとり親家庭に同額を支給するのではなく、養育費不払いが確認された場合、市が先に養育費を立て替えてひとり親家庭に支払い、支払い義務者に支払い命令を出して立て替え分を回収する方針となった。過料を支払わない場合の氏名公表については、今後も検討を重ねるという。

 今回の変更点について、明石市の担当者に詳しい話を聞いた。

養育費を市が「立て替える」理由

――養育費不払いに対して「過料」「氏名公表」という措置を取る方法は、これまで日本で例がなかったこともあり、賛否両論を集めました。検討会の回数を増やし、条例案提出を延期するなど、明石市も慎重に進めているように見えます。

明石市担当者:前回の発表では、市民の皆様からご意見の電話やメール、10月11日と11月18日に行われた検討会では、有識者の方たちからも意見をいただきました。法律的な部分も含めた様々な論点を慎重に検討しなければいけないと考えています。

――「過料」について当初の案では、悪質なケースは市が支払義務者から直接「過料」として徴収し、同額をひとり親家庭に支給するというものでした。しかし18日の発表では、仕組みが変わり、市が立て替える形でひとり親家庭に支払いをした後、支払義務者に支払い命令を行ったうえで、支払義務者が支払いに応じなかったらそこで初めて「過料」を科す、と変更になりました。

明石市担当者:検討会で司法関係の方々から「養育費の請求権は、養育をしている親が、養育をしていない親に対して持つ権利であり、民間人同士の問題に対して市が口を挟んで過料を科すことに疑問がある」という意見が出ました。

そこで、まず市が養育費を立て替えるかたちでひとり親家庭に支払いをすれば、市は支払い義務者に「立て替えた分を支払ってください」という求償権が発生します。市と支払い義務者との権利関係になりますから、立て替えた分が支払われなかった場合は支払い義務を遂行していないということで過料を科す、という構成に練り直しました。

やはり長く続く制度にならないと意味がないですから、法的論点はしっかり整理したいと考えています。

また、先に市が立て替えを行ったほうが、養育費を必要としているひとり親の元にお金が支払われる時期も早くなるというメリットもあります。

――養育費の金額は各家庭によって異なりますが、市が養育費を立て替える場合の支給額や立て替えを行う期間は、どのように決定するのでしょうか。

明石市担当者:支給額についてはまだ明確には決まっておらず、これから細かく検討していきます。養育費は親の収入を基準に決定するケースが一般的と思われますが、市が立て替えた場合は過料とのバランスが生じます。

地方自治法により、地方自治体が科せる過料は5万円までと決まっているので、過料を上回る金額を立て替えることは難しく、過料の範囲内になるとは思います。立て替えの期間についても、有識者の意見を聞きながらこれから検討します。

予算を伴う制度なので、パイロット事業のようなかたちで件数を絞り、試験的に行うことも考えています。実際に行えば不具合や改善すべき点も見えてくると思います。

――18日の検討会では、「過料」に応じない場合は、子どもの意思を確認して「氏名公表」を行うという案も出たそうですね。

明石市担当者:氏名公表に関しては、市民の方々から「子どもの不利益を考えていない」「公表されると子どもの生い立ちを知られてしまう」という意見も出ています。

子どもの意思を確認したうえでの氏名公表を視野に入れていますが、子どもの年齢も幅広いですから、何歳くらいの子どもからなら意見を聞くことができるのかも、考えなければなりません。

小学生の子どもに意見を聞くのは子どもの負担になるかもしれませんが、たとえば、成人している大学生が「大学院に進みたいけど、お父さんがお母さんに養育費を払っていなくて、お母さんが大変だから大学院は諦めるべきか悩んでいる」といったケースであれば、子どもの同意をとり氏名公表を行うという可能性はあってもいいと思います。

一方で、子どもの同意だけで公表していいのかという問題もあります。子どもの養育に必要な費用である養育費ですが、養育費を請求する権利自体は、養育している親が相手方に持つ権利であり、法律上子ども自身が請求できる権利ではないのです。

――養育費を請求する権利があるのは養育している親であり、たとえ子ども自身が「養育費を払ってほしい」と考えていても、養育している親にその意思がなければ請求は難しいということでしょうか?

明石市担当者:そうですね。子ども自身も、「扶養請求(夫婦相互間、ならびに直系血族および兄弟姉妹は相互に扶養義務があるとする民法によって、裁判所に要求できる権利)」という形でできるかもしれませんが、そこまでするお子さんはなかなかいません。

日本では、子どもの意見よりも親権を持つ親権者の意向が優先されてしまう傾向にあり、子どもだけの意思で弁護士をつけ、一緒に住んでいない親に養育費を請求するというアクションは起こしづらい状況にあります。

――提案されている立て替え制度は、離婚に際して「養育費の取り決め」をしている人が対象ですよね。取り決めをしていない人や、未婚で出産して子どもが認知されていない人を救済する方法も考えていますか?

明石市担当者:取り決めがない場合や、認知がない場合、すぐに養育費立て替えのルートには乗ることができません。そういう方には、今からでも養育費の請求や認知手続きができることを伝え、手続きのご案内からはじめたいと考えています。

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