
向き合います。更年期世代の生と性
夫婦は産後から15年に及ぶ長いセックスレスをどう解消したか
次女を出産後、夫と15年近くセックスレスだった舞子さん(49歳、仮名)。セックスレスが原因で夫と定期的に大きな喧嘩を繰り返すようになり、「セックスしてもOK」のサインだと誤解されないためにちょっとしたボディタッチでさえ避け、ついには目を合わすこともできなくなってしまう。
「自分でもこのままじゃだめだとはわかっていた」――セックスレスだった15年は舞子さんにとって悩み苦しんだ辛い日々だったという。けれど、あることをきっかけに夫婦はセックスについて真剣に話し合い、再び肉体関係を持つことができるようになった。その過程をうかがっていく。
前編はこちら。
産後、夫とのセックスを拒絶し続けた妻がセックスレスを解消するまで
産後すぐからはじまって、更年期世代に至るまで長くセックスレス――そんな夫婦は日本において、決して珍しい存在ではないのではないか。相模ゴム工業株式会社の…
夫の精巣がんに「私のせいだ」
――約15年に及ぶセックスレスを、舞子さんとしても何とかしたいとは思っていたんですよね。このままではいけないと、どんな行動を取りましたか。
「長年夫婦のセックスレスで悩んでいましたから、それを誰かと話したい、共有したいという思いがあったんです。それで、そういった悩みをフランクに話し合えるコミュニティを作りました。ランチ会を開くと、同じ思いを抱いた人たちが参加してくださって。
ランチ会にいらした中に『乳がんでした』という女性がいたんです。その方曰く『がんは我慢病なんです。私は言いたいことを言えない性格で胸に秘めてしまう人間。だから乳がんになったんだと思います』と」
――たしかにストレスはがんの大敵ですが、それもまたずいぶん極端な話かと……。
「ええ、もちろん医学的に正しいといえる話だとは思いませんでした。でもその話を聞いた直後に、主人ががんだということが発覚したのです。しかも精巣がんでした。私は『自分のせいだ』と深く自分を責めました」
――そんな。
「どうしよう、精巣がんだなんて私のせいだ、私がセックスをしなかったせいだ、と思いました。精巣がんは完治率が高いがんであるとお医者様からも言われたんですけど、『この人、死んじゃうかも。そんなの嫌だ!』と、強烈な思いに襲われたんですね。幸い、手術でがんを取り除くことに成功し、彼は術後比較的早い段階で元気にはなったんですけど。私はそこで初めて、自分の女性性みたいなものとちゃんと向き合うときがきたなと感じたんです」
――夫婦のセックスレスを解消したいと考えた?
「はい。まずはちゃんと話し合おうと考えて、子どもが生まれてから初めて、二人きりの旅行を提案したんです、私から。6年ぐらい前のことで、結婚記念日に京都に行きました」
夫と2人きりの旅行で交わした会話
――旅先で話し合いの場を設けたんですか。
「旅行2日目の朝に、彼が『話がある』と切り出してきました。『きた』と思ったし、逃げたい気持ちもあったけれど、もう逃げちゃいけない、話し合いをするためにきたんだからと私も覚悟を決めたんです。
彼が『俺は一生我慢しなきゃいけないのかな? これから先いつかまたセックスができると期待していいのか、もう一生しないのか』『どっちになったとしても、舞子と別れるつもりはないよ。でも知ってはおきたいんだ』と言ったとき、『あぁ……ほんとうにそうだよね』と……心から思いました。彼の言葉が胸の深いところに響いたんです」
――セックスレスについて、逃げずに舞子さんと向き合い続けたご主人の姿勢は、素晴らしいと思います。
「彼にとってセックスとは、人生のQOLをあげるために大事なもの。そう思っているから、夫婦のセックスを本当に大切に思っているんです。それなのに、私はそんなふうに考える人を、ずっとセックスなしの人生を送らせていたんだ……そんな申し訳なさでいっぱいになりました。それで、言ったんです。『私はあなたのことが大好き、あなたに幸せになってほしい。でも私は痛くてあなたとはできないから、ほかの女性と寝ていいよ』と」
――えっ、まさかの一言ですね。それは本心から出た言葉?
「本心です。彼のことが大好きだったから、他の人と寝て彼が幸せになれるなら、それでいいと考えたんです」
――ご主人はなんと?
「『舞子も、ほかの男性と寝てみたほうがいいね』って言いました。『僕とのセックスがサイズがあわなくて辛いのなら、ひょっとすると他の男性なら舞子とサイズが合ってセックスを楽しめることもあるんじゃないの?』『そこで楽しめたなら、僕たちの関係性も変わるんじゃないかな』、そう言ったんです」
――それもまさかの返答ですが……。そう言われて舞子さんの反応は?
「それを聞いて、私の中で『自由!』という言葉が沸きあがったんです。それまで『結婚して夫婦なんだから、夫としかセックスしてはいけない』『夫とはセックスできないから、きっと私はもう一生セックスをすることはない』、そんなふうに考えていた。でも主人からのその言葉を聞いた瞬間に『自由』という気持ちになり、私の中で解けたというか、なにかが開放されたんです。すると、なぜか彼とのセックスに対して嫌悪感がなくなりました」
――ということは、その旅行中にレスが解消されたというわけでしょうか。
「ええ。でも10年以上セックスしてないわけですから、その日は恐くて挿入はできませんでした。挿入直前までの行為を、そこから半年間繰り返すようになったんです」
――ご主人は「挿入したい」とは言わなかった?
「それが、半年間、一度も言わなかったんですよ。愛撫だけして、『本当に僕はいいから』と挿入しませんでした。だんだんと私も、彼は本当に挿入しなくても射精をしなくても、セックスを楽しんでくれるんだ、と信じられるようになっていきました」
半年かけて築いたセックスにおける信頼関係
――彼の言葉は嘘じゃなかった。そんな信頼関係が築けたんですね。
「そうです。そのうちに私の心も体もリラックスして、緩んでいったと思うんですね。ある日、『今日は挿入できるかもしれない、痛くないんじゃないか』と思い、それを彼に伝えました。彼は私のその言葉を聞いて『わかった。でも直前になってやっぱり無理だといって断ってもいいんだよ』と言ってくれて、ますます気が楽に。結果、ジェルなしでスムーズに挿入することができたんです。痛みもなく、気持ちがいいと思えました」
――驚きですね。それが約5年前。ひょっとすると、お子さんたちもある程度手がかからなくなり、ちょうどお母さんから女に戻れるタイミングだったのかもしれませんよね。
「それもあるかもしれません。それ以降、定期的に夫婦でセックスを楽しんでいます。いまは主人とのセックスになんの不満もありませんし、私にとっても大切なものになりました。どうしてなのか、サイズが合わなくて辛い、とはまったく思いません」
セックスレスで悩む人たちの力になりたい
――どうしても気になってしまうことが。結局、京都旅行でお互い「他のしてもいいよ」と話した舞子さんとご主人は、よその誰かとのセックスを試してみたんでしょうか。
「彼は一度もないけれど、私は試してみました」
――それはご主人との挿入を伴うセックスが再開する前ですか?
「後です。ちょうどその時期から、なぜかそういうお誘いが増えてきて……。数人と何度かセックスしてみました」
――してみて、なにか思うところはありましたか。
「いま振り返れば、あれは私が女性性を解放するためには必要な儀式だったんだなと思います。ただ、ほかの人とセックスしても、『彼なら、もっとこうしてくれるのに』『彼ならこんなとき、こういう言葉をささやいてくれるのに』と思うんですね。それで『あぁ、これは私には必要ないな』と思い、他の人と寝るのはやめました」
――そのことを、ご主人には話されましたか?
「話しました。実は私、今後は自分のこの体験談をセックスレスで悩む人たちに積極的にお話していこうと考えているんです。セックスカウンセラーとしてセミナーのようなものを開催するつもりです。でも、まずは主人に自分のことを話さないといけないなと思い……意を決して打ち明けました」
――ご主人の反応が気になります。
「話し終えた後の彼の第一声は、『面白い』でしたね。『俺が言った通りになったでしょ。だっていま、夫婦のセックスをこんなに楽しめているんだから』と」
――怒ったりはしなかったんですね。
「まったく怒りませんでした。今後セミナーを開いて、人前で私たちの体験談を話すことについても『どんどんやればいいよ』と賛成してくれていますし。『そんな話は信じられない、って言う人がいたら、僕が出て話をしてもいいよ』とも」
――今後は夫婦、パートナー間のセックスレス問題に悩む人たちの力になりたい。それが15年に及ぶ夫婦のセックスレスを克服した舞子さんのこれからの目標でしょうか。
「そうです。実は私、3年前にそれまでずっと大好きでフルタイムで働いていた仕事を辞めたんです。とくに人間関係や仕事内容にストレスがあったわけではないのに、ある日いきなり体中に蕁麻疹ができたり胃の調子が悪くなったり、不調が続くようになりました。そうこうするうちに、会社にいると『とにかくここから抜け出したい』と思うまでになってしまい……。仕事を辞めたら体調は元に戻ったんですけど、その後、更年期について学ぶ会に参加した際に、更年期で私と同じような症状に襲われた人がいるという話を聞いて。『あ、私もあれが更年期の始まりだったんじゃない?』と気づきました」
――これまで普通にできていたことが、ある日突然、辛くなる。更年期でそういう体験談を話される方はよくいらっしゃいます。
「夫婦のセックスレスで悩まれている方は、更年期世代の方が多いんです。だから更年期についても学んだほうがいいだろうなと思い、メノポーズカウンセラーの資格をとろうと考えました。今後は私が学んだ更年期の知識を交えながら、セックスレスとパートナーシップの悩みを持つ人と交流し、お話する場を設けていけたらいいなと思っています」
――実体験がありますから、きっと舞子さんのお話は説得力が違うと思います。今日はどうもありがとうございました。