
「Getty Images」より
去る11月6日、「ベジタリアン/ビーガン関連制度推進のための議員連盟」(通称:ベジ議連)の設立総会が、衆議院議員会館で開かれた。
来年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、ベジタリアンやビーガンと呼ばれる菜食主義の訪日外国人に対応するための施策が、今後、ベジ議連で検討される。
設立総会には、ベジタリアン食品を扱う企業などの幹部も出席し、料理や食品にベジタリアンの認証マークを導入すべきといった意見が出された。
現在、日本の企業が次々とインドに進出し、出張や駐在でインドに行く人が増えている。出張時に日本の食べ物をおみやげとして持っていく人もいるが、インドにはベジタリアンが多く、注意が必要だ。
出張では気づきにくいインド人の食習慣
筆者の友人は、長年にわたりインドの企業に商品を発注している。友人がインドに出張した際、知人をある取引先企業に紹介した。その知人は、次のインド訪問時に「取引先の社長におみやげを持ってきた」と、友人に言ったという。
そのおみやげは、ヨックモックのシガール(ロール型のクッキー)だった。友人が「卵が入っていると思うし、取引先の社長はベジタリアンなので、ベジマークのついていない食べ物は食べないと思う」と知人に告げると、全然そんな事情は知らなかったと驚いたという。
また、友人は別の取引先の社長に、「取引先の日本人から、えびせんをもらったんだけど、自分はベジタリアンで食べられないからもらって」と言われたこともあるという。
ヒンドゥー教徒のベジタリアンとその他の宗教の食習慣
インドでは、すべての食品に「ベジタリアンマーク」または「ノンベジタリアンマーク」の表示が義務付けられている。
「ベジタリアンマーク」は、肉、魚、卵を摂取しない菜食主義者に対応した食品につけられる通称「ベジマーク」だ。「ノンベジタリアンマーク」は、肉、魚、卵を含む食品につけられ、通称は「ノンベジマーク」である。レストランのメニューにも、その料理が「ベジ」か「ノンベジ」か一目で分かるように、一つひとつにマークがついている。
インドには、ヒンドゥー教やジャイナ教などの宗教的な背景上、ベジタリアンが多い。ヒンドゥー教徒のベジタリアンの場合、肉、魚、卵を食べないベジタリアンと、肉、魚は食べないが卵は食べるベジタリアンの2通りにおおむね分かれる。筆者のまわりのインド人はほぼベジタリアンだが、その中で卵を食べるのは1人だけだ。
ヒンドゥー教徒のベジタリアンは、チーズや牛乳などの乳製品は摂取する。肉、魚、卵については厳格で、食肉エキス、魚介エキス、卵を含む食品一般は摂取しない。
不殺生で知られるジャイナ教徒の人たちは、肉、魚、卵以外に、にんにくやタマネギなどの根菜類も食べない。土を掘り起こして根菜類を収穫する際、生物の殺生があるとされるからである。インドでは、ジャイナ教徒の人たちは、「ジェイン」と呼ばれている。
また、イスラム教徒はベジタリアンではないが、豚肉とアルコールを摂取しない。ベジタリアンではないので日本のお菓子は大丈夫そうに思えるが、こちらも注意が必要だ。
日本のお菓子には、豚肉由来のショートニングが使われているものも多い。醤油味のお煎餅などは、醤油にアルコールが含まれている場合がある。最近は日本でイスラム教徒に対応したハラル醤油が販売されているくらいなので、醤油にはアルコールが含まれていると思ったほうがいいだろう。
なお、ビーガンは、地球環境への影響や動物愛護を主な理由に、欧米諸国の人たちを中心に増えている。筆者はインドでビーガンの人に会ったことはなく、インドでビーガンは、一般的ではない印象である。ビーガンの人たちは、肉、魚、卵以外に、乳製品やはちみつなども摂取しない。
ヒンドゥー教の聖地は町全体がベジタリアン
インドにはベジタリアンの町があり、主にヒンドゥー教の聖地に見られる。筆者が在住していた北西部ラジャスタン州のプシュカルは、町全体がベジタリアンである。
プシュカルは、聖なるプシュカル湖を擁すヒンドゥー教の聖地だ。創造神ブラフマーの寺院があり、インド各地から巡礼客が訪れる。湖を取り囲むようにできた細い道沿いに、小さな商店やレストランが軒を連ねる。
町のレストランのメニューには、ベジマークやノンベジマークの表示がない。すべてがベジタリアンの食事という前提であるためだ。また、飲酒も禁止されていて、町のいたるところに「ノンベジの食品と飲酒は禁止」の看板がある。
他に有名なベジタリアンの町は、北部のガンジス河沿いの聖地であるリシケシとハリドワール、“チャールダム”と呼ばれる4大聖地のケダルナート、バドリナート、ヤムノートリ、ガンゴートリがある。
インドでベジの人とベジ料理を食べてみよう
インドに出張の際、取引先の人たちと食事する機会もあるだろう。その際、相手がベジタリアンであれば、同じくベジタリアンの料理を食べてみるのもいい。そもそも一般的にベジタリアンの人たちは、同じテーブルにノンベジの料理が並ぶのを好まない。
もし取引先の人がベジタリアンだったら、一度、レストランやメニュー選びを任せてみるといい。インド人は大半の外国人はノンベジだと知っているので、その上でベジタリアン料理を食べてみたいと言えば、喜んで案内してくれる。普段、自分が食べない美味しいベジタリアン料理に巡り合うという発見もあるだろう。
筆者が以前インドに在住していた時、ある取引先の社長がベジタリアンであった。この取引先には、世界各国に顧客がいた。社長は、「顧客とレストランで食事の際、顧客がノンベジの料理を食べるのは、仕事上、慣れた」と言っていた。しかし、ベジタリアンの筆者と食事の際には、「いろいろなカレーを頼んでシェアしましょう!」と言い、嬉しそうであった。
ちょっとしたことのように思えるが、一緒にベジの料理を食べる姿勢は、相手の文化を理解し、尊重する気持ちを表現できる。
東京近郊でベジタリアンの外国人をもてなすなら
日本に住んでいても、最近は、外国人とのやりとりのある人も増えているであろう。以前、筆者は、東京近郊でベジタリアン向けオススメレストランを紹介する記事を執筆した。
Coco壱、吉野家でも 増え続ける「ベジタリアンメニュー」の意外な美味しさ
生きていく上で健康が大切なことは、誰しもが認識している。しかし気がついたら一日が終わっていて、健康を維持しようという意識はあっても、行動に移せ…
ここでは、ベジタリアン向けのラーメン、精進料理、マクロビオティック、南インド料理にいたるまで、幅広く取り上げた。ベジタリアンの外国人をもてなす際や、週末にヘルシーな料理を食べてみたい人にも、参考にしてもらえたら幸いだ。
日本では、自分が菜食主義者でない限り、ベジタリアンやビーガンの人たちの食習慣を理解する機会はあまりない。しかし今後、訪日外国人や在住外国人が増えていく中、宗教的な背景も含め食の多様性を理解しておくと、役立つ機会があるはずだ。