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離婚後の子ども、必要なケアは?「協議離婚」が親子に与えるダメージ

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「GettyImages」より

 離婚は“珍しいもの”ではなくなり、2018年の人口動態統計によると、婚姻件数における再婚件数の割合は、夫19.7%、妻16.9%であった。子連れで再婚をするステップファミリーも増加傾向にあり、家族のかたちは多様化しつつある。そんな中、子どもたちは親の離婚・再婚をどのように受け止め、何を感じているのだろうか。

 『教育と医学 2019年 6月号』(教育と医学の会)に寄せられた、親の離婚や再婚を経験した子どもたちの心理について研究を続ける茨城大学人文社会科学部人間文化学科の野口康彦教授の寄稿「離婚・再婚と子どもの育ち」は興味深い内容だ。

 野口教授によると、日本における親の離婚・再婚と子どもの発達の調査や海外の先行研究の結果から、親の離婚を通して子どもたちは両親の不和、同居親・別居親との関係に葛藤し、再婚によって生じる継親との関係に悩みを抱えていることがわかっているという。

 しかしこれは「だから子どものために離婚すべきではない」という考えを補強するものではない。親の離婚・再婚を経た子どもたちにはケアが必要であり、また日本における離婚制度それ自体が問題を孕んでいるのだ。野口教授に詳しく話を伺った。

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野口康彦
茨城大学人文社会科学部教授。法政大学大学院博士後期課程修了。 博士(学術)。専門は臨床心理学。一般病院における医療ソーシャルワーカーを経て、精神科クリニック、3つの大学の学生相談員として勤務し、臨床の経験を積んできた。また、公立の小中学校のスクールカウンセラーとしての活動は19年目を迎えた。主要編著書は、『親の離婚を経験した子どもの精神発達に関する研究』(風間書房,2012)、『家族の心理』(金剛出版,2017)など。

親の離婚で「無力感」を覚える子

――親の離婚は、子どもの精神発達にどのような影響を与えるのでしょうか。

野口:まず、親の離婚に子どもは介入できません。というのも、日本では離婚のおよそ9割が協議離婚です。協議離婚は、行政や司法の介入がなくても、離婚届という紙一枚で離婚ができてしまいます。離婚に関して子どもの意見を聞く親御さんもいますが、必ずしも、子どもの自己主張や意見表明をする場が保障されているわけではない。そこは、現在の日本の離婚制度の問題点です。

家庭裁判所での調停や裁判になれば、家裁の調査官が子どもの心情を聞くことができますが、協議離婚ではそうはできません。家裁に持ち込まれる離婚のケースは、離婚にどちらかが合意しない、親権や養育費や面会交流で揉めているなど、協議離婚がスムースにいかず、夫婦間でトラブルが生じている場合が多いです。本来であれば、トラブルが生じていない場合でも家庭裁判所に持ち込むことは可能ですが、手間もかかるということなどから、紙1枚で済ませてしまうことがほとんどなのです。

――離婚という制度において、子どもの存在が軽んじられている、ということですね。

野口:両親が離婚をすると決めたら、子どもは従うしかありません。むろん、子どもなりに親の離婚については意見や考えをもっているのですが、その声を聴いてくれる人がいないと、子どもは自分の無力さを感じてしまいます。。親の仲が悪いのは自分のせいではないかと自責的になって自分を責めたり、あるいは怒りたくても怒れずにあきらめたりするなど、ふさぎ込んでしまう子どももいます。

――しかし両親の間でDV(配偶者間暴力)がある、児童虐待があるなど、子ども自身も親の離婚を望んでいる場合や、子どもにしっかりと説明をして“円満離婚”したという家庭もありますよね。

野口:不和家庭にいる子どもは「これがいつまで続くんだろう」「結婚なんか希望もない」と、強い不安感を抱えています。夫婦仲が悪い、アルコール、ギャンブル、借金、DV等の問題があると、子どももそのような家庭環境は望みませんから、親の離婚を歓迎する場合もあります。

ただ、子どもが離婚を歓迎する・しないにかかわらず、どちらにしろ、子どもは最終的に両親の離婚に口出しや介入ができないという点において、やはり子どもは無力といえます。

また、「離婚について子どもも納得している」と考える人もいますが、子どもが本当に納得しているかはわかりません。小学校低学年・中学年くらいの年齢の子どもは、「親を悲しませたくない」「親を喜ばせよう」という気持ちが強い傾向にありますので、離婚についても親を喜ばせるために、納得したように振る舞うこともあります。

――子どもが成人してから離婚を選択する家庭もありますが、成人してからの離婚も、子どもに影響を与えるのでしょうか?

野口:子どもが成人していれば、母親・父親どちらが親権を取るかなどの問題は発生しませんが、それでも「自分がいたから、今までずっと離婚できなかったんじゃないのか」「もしかしたら自分は邪魔な存在だったのか」と思う子どももいます。親の離婚、あるいは親の不仲については、青年期あるいは成人になった人も、「家族とは何か」という家族に向ける意識、あるいは家族の存在を問われるのだと思います。

「夫婦+子ども」という家族イメージ

――親の離婚によって子どもが受けるダメージとして、“無力感”の他にどのようなものがありますか。

野口:ひとつは「家族イメージ」の破綻です。親が離婚することによって、これまで自分が持っていた「両親と自分」という家族のイメージが壊れます。そして、家族構成や家庭環境が変わると今度は「家族イメージ」の再構築が求められ、子どもは「家族って何なんだ」と自問し苦しむのです。

――離婚は珍しくなくなりましたが、現在も「夫婦+子ども」という家族のイメージ、もっと言えば“規範”は根強く残っていますよね。

野口:日本では明治時代制定された戸籍法の影響で、夫婦と子どもがいることが“家族”という文化が根付いています。さらに、共働き世帯は増えましたが、「夫は外で働き妻は家で家事育児をする」という、夫婦役割のような文化も未だに根強いのではないでしょうか。モデル的というか、標準化された家族のかたりがあると、親が離婚した子どもは「うちは普通の家族ではない」と、悩むわけです。

親の離婚を経験した子どもは、しっかりと自立心を持ち、同居親のことを助けているように見えるケースも少なくないのですが、実は我慢していることもあります。特に、思春期前後の子どもは親を助けようとします。

私はスクールカウンセラーとして約20年、週に1回ほど学校を訪問していますが、「親が離婚するのは辛かったけど、わがままを言うとお母さんが困ると思って我慢をした」と語る中学生もいました。また、親の離婚や親同士の争いがトラウマとなって、大人になってからも忘れられない人もいます。

協議離婚は親へのダメージも大きい

――しかし、離婚は子どもが傷つくと同時に、当事者である親も深く傷つくものだと思います。そのことについて、野口先生はどう捉えてらっしゃいますか。

野口:親が受けるダメージも、私は協議離婚の弊害に尽きると思っています。日本の離婚制度は世界でも稀なくらい簡単に離婚ができるうえ、男性に有利で女性と子どもに不利益が生じやすいようにできています。

先ほども述べましたが、協議離婚は行政や司法が関与せず、当事者で話し合うか、あるいは話し合いもせず離婚届さえ出せば成立します。さらに、たとえ父親が取り決めた養育費を払わなかったとしても、罰則規定ありません。

――養育費未払いによる母子家庭の貧困は重大な問題ですよね。

野口:養育費の未払いもそうですが、女性と男性の賃金格差も母子家庭の貧困問題には深く関係しています。日本には、女性が働きやすい社会になってしまうと「結婚しなくなり子どもが増えなくなってしまう」などという考えが残っていて、いつまでたっても女性が働いて十分な収入を得られる環境が整わないのではないかと私は思っています。

離婚後の親のダメージを和らげるためには、現在の協議離婚制度や養育費の在り方、女性の低賃金労働者問題を見直し、ひとり親世帯でも、親が働きやすい環境を整えることが重要です。

子どもの傷を最小限に抑えるためのサポート

――では、離婚を通して傷ついた子どもたちに、誰がどのようなケアをしていくことが最善でしょうか。

野口:私は、大人が離婚後に子どものケアをすることは難しいと考えています。なぜなら、子どもはなかなか本当のことを言わないからです。親の離婚時の子どもの年齢は平均で8歳くらいが多いです。思春期に入る手前である8歳前後の子どもたちは、自分の意見は持っていますが、言葉で表現するのが難しい面もあって、他人にはなかなか打ち明けない傾向があります。

近年、「親の離婚を経験した子どものケア」に関心が向けられるようになりましたが、子ども自身は「大人の前で話すことなんかない」と、ケアを望まないケースもあります。実際にスクールカウンセラーをしていても、非常に難しいと実感します。

では、どのように乗り越えているかというと、「同じ体験をした子たち」とのかかわりによって、励まされたということも多いようです。子どもたちは、親でも先生でもカウンセラーでもなく、自分と同じように親の離婚を体験した子たちに悩みを話すことで、「わかってもらえた」「助けてもらえた」と感じるようです。

――親の離婚によってできた傷を大人がケアすることは不可能なのでしょうか?

野口:私は「傷のケア」よりも、傷を「最小限に抑えること」が大切だと考えています。そのためには、離婚前に親が司法や行政など、しかるべき第三者機関に相談しないと離婚ができないシステムを確立することが必要です。

たとえばノルウェーの場合、離婚成立まで1年間かかり、親は離婚する時に必ず「家族保護課」という、日本で言えば行政機関に行かなければなりません。「家族福祉課」にはカウンセラーがいて、離婚後の子どもの養育について親から話を聞き、助言を行います。親が子どものことをどのくらい考えているのかもわかります。

ただ、DVや虐待が絡んでいる場合はいち早く離婚すべきであり、ケースバイケースで対応していく必要があります。

ステップファミリーは「無理に家族になろうとしないこと」が大切

――離婚によって子どもは「家族のイメージ」が崩れることに悩むというお話がありましたが、家族のイメージを復活させるために、親の再婚を望む子どももいるのでしょうか?

野口:親の再婚を歓迎する子どももいます。ある大学生は、高校生の時に親が再婚したことについて「親が再婚して普通の家庭に戻してくれた」と言っていました。彼の家族イメージは「両親が揃っている」ものだったのでしょう。

また、再婚家庭(ステップファミリー)で育った子どもたちを対象にした調査よると、例えば、進学時に継親が継子に経済的なサポートをしてくれる場合、子どもは再婚についてポジティブな評価をしていることがわかりました。

子どもにとって大学や専門学校への進学、海外留学といった経験をすることは非常に重要なことです。継親が金銭面をサポートしてくれれば、子どもたちも自分の将来に光が見え、再婚を歓迎することができるのでしょう。

再婚は、親にとっても子どもにとっても、幸せな方向に向かうひとつのきっかけになると思っています。

――他方で、再婚によって子どもと継親が衝突する家庭もあると思います。そういった場合、継親はどのような対応をすればよいのでしょうか?

野口:継親と継子という関係はバイオロジーから見て親子ではないのですから、無理に家族になろうとしないこと、継親が“親ぶらない”ことです。

子どもの立場に立つと、自分の同居親に恋人ができる体験をするわけですから、特に思春期の子どもは気を遣います。見ず知らずの男性・女性が一緒の家で暮らすことになれば、子どもは当然違和感を抱きますが、継親が「家族になろう」という雰囲気を強く出して、自分の生活文化を押し付けてきたりすると、子どもはより窮屈に感じてしまう。

そのため、継親と継子は無理に距離を縮めようとするのではなく、最初はお互いを呼ぶ時も「○○ちゃん」「○○くん」など、距離感のある呼び方から始めたほうがよいでしょう。家族ではなく“同居人”という感覚です。そこからだんだんと、お互いの適度な距離感がわかるようになっていきます。

――継親は、子どもの“本当の親ではない”けれども身近な大人、という前提で接することが重要なんですね。

野口:そうです。また、親が再婚すると、子どもは同居親との関係も作り直していく必要が出てきます。家庭によっては、新しく子ども(セメントベビー)が誕生することもありますが、複雑な気持ちになる子もいます。

そのほか、別居親や別居親の親にあたる祖父母との交流が途切れてしまうこともあり、子どもにとって親の再婚は、家庭環境の変化を余儀なくされ、新たな悩みが発生する側面も持ち合わせているのです。

ただ前述のように、再婚は家族が幸せな方向に向かうきっかけにもなり得ます。ステップファミリーとして生活を始める時は、子どもの立場や気持ちを汲み取り、「継親が親ぶらない」「別居親との交流を継続する」など、子どもに無理をさせない工夫を大切にしてほしいです。

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