社会

消費増税を続ければ、日本はどんどん貧しくなっていく/井上純一インタビュー

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井上純一『キミのお金はどこへ消えるのか』(KADOKAWA)

 日本経済の行き詰まりが続いている。賃金は上がらず、消費も伸びず、大手企業の冬のボーナスが100万円近いといっても庶民の生活は変わらずに苦しい。10月1日には消費税が10%になった。今後の景気動向はますます厳しくなっていくと予想されている。すでに、2019年度の国の税収は当初見込みの62兆4950億円から1〜2兆円規模で大幅に減る見通しとの報道も出ている。

 なぜ日本経済はこのような状況に陥り、抜け出す糸口すら掴めないのか? 経済に関する知識を解説する人気コミック『キミのお金はどこへ消えるのか』『キミのお金はどこへ消えるのか 令和サバイバル編』(いずれもKADOKAWA)は、政府や国民が抱く根本的な勘違いを分かりやすく教えてくれる。

 作者である漫画家の井上純一氏は、現在の日本がやるべきことは消費税の増税などではなく減税であり、医療・教育・福祉への投資であり、公共事業の充実であると主張する。いったいどういうことなのか。話を聞いた。

【井上純一】
1970年生まれ、宮崎県出身。漫画家、ゲームデザイナー。玩具会社・銀十字社の代表取締役。漫画家としての主な著作に『中国嫁日記』(KADOKAWA)、『中国工場の琴音ちゃん』(一迅社)などがある。『キミのお金はどこへ消えるのか』シリーズの続編『それって全部お金デスヨ!!』の連載が、電子エンタメ小説誌「カドブン ノベル」(KADOKAWA)2019年12月号から始まっている。

分かりやすさの罠

──国が教育・医療・福祉にお金をかけないで「弱者バッシング」を繰り返していくことは、人権の問題であるのみならず、そもそも経済政策として間違っているというのが『キミのお金はどこに消えるのか』で訴えられていることのひとつだと思います。
 日本では福祉がカットされ、富める者はますます富み、弱者はますます虐げられています。さらに選挙結果を見ると国民はそれを支持しているようです。どうして日本はここまで緊縮財政の方向に進み、また、それを国民が支持する状況になってしまったのでしょうか?

井上純一(以下、井上) 僕もそれに関してはよく考えたんですけど、ようやく掴めてきたのは、「分かりやすいから」ということだと思うんですね。

──分かりやすい。

井上 そう。それはみんなが「自分の感じていること」をベースに物事を考えてしまうから。
 たとえば、「国=自分」と短絡的に考えて「日本(自分)には1000兆円の借金があって、このままでは財政破綻してしまう!」と言われたら、「節約して借金を返さなければ!」となりますよね。

──まあ、なりますね。たとえば自分の家に借金があるなら、食費や交際費を削って返済にあてようと思います。

井上 ですよね。そう考えてしまいがちです。それは、発言に影響力のある財界人も同じでした。
 先日、ファーストリテイリング代表取締役の柳井正さんが「日経ビジネス電子版」のインタビューで「国の歳出を半分にして、公務員などの人員数も半分にする。それを2年間で実行するぐらいの荒療治をしないと」と発言して話題になっていましたよね。
 これはミクロの視点で言えば正しいんですよ。民間の会社であれば、売上規模を変えずに社員を半分にすれば、人件費がなくなったぶん利益が出ますから。
 でも、企業と国は違う。企業は雇用を減らすことで経費を減らし、儲けを増やすことができますけど、国は人を捨てられないじゃないですか?

──なるほど。企業と国ではコストカットのやり方が全然違いますね。

井上 それをすると、経済政策によって人を殺すことになってしまうんですよ。そんなことはできるわけがない。
 まあ、いまの日本の政府にはそれをやろうとしている人たちがいるみたいで怖いんですけど……。

井上純一氏(撮影:編集部)

「弱者バッシング」はなぜ起きる?

──確かに、いまの日本にはそういった恐ろしさがあると感じます。その延長線上には、生活保護受給者などの社会的弱者がバッシングされる流れもありますよね。

井上 そうですね。これも分かりやすいから起こる現象です。
 行動経済学では「儲けたお金よりも、失ったお金の方が多く感じる」という人間の心理が説明されています。
 たとえば、1円ももらえないときには別に損とは思わないですけど、100円もらった後にその100円を取られると損したように感じませんか?

──損した気分になりますね。

井上 このように人間の心理には「マイナスの方を大きく認識する」という傾向がある。
 だから、生活保護の不正受給率なんてたった0.4%程度しかないのに、「生活保護をもらっている奴はみんなズルをしている。そんなことに俺たちの金を使うな」という意見が出てくるんです。

──いわゆる「生活保護バッシング」ですね。そういった世論を背景に安倍政権は生活保護費の削減を進めています。

井上 「弱者に対して金を使うな」という声が起こることで貧困層への支援がなくなり、そうした人々はますますお金を使うことができなくなっていく。
 これが続くとどうなるか?
 国の経済規模が縮小していくんですよ。

──なにもいいことがないじゃないですか。

井上 特に日本は国内総生産(GDP)の6割を個人消費が占めているので、みんなに消費の余裕が出て、みんながお金を使う方がいい。だから、貧困層がお金を得て使うことはなにひとつ悪いことじゃない。そのほうが景気も良くなるし、税収も上がります。

──私たちの社会は、なぜ、わざわざ自分で自分の首を絞めるようなことをしているのでしょうか?

井上 行動経済学の考え方では「地位財」というものがあります。
 「他人と比較することによって価値の生まれる財産」といった考えで、具体的には「自分よりも下だと思っている人間の幸福を認めず、自分より不幸な人がいることで安心する」という現象となってあらわれます。
 だから、自分より格下だと思っている人間にいい思いはさせまいと弱者バッシングを繰り返すわけです。
 生活保護だけに限らず、公共サービスへの支出には似たことが起きます。災害救助中の自衛隊が温かい食べ物を食べているとバッシングがあるとか、公共工事はなんでもかんでもムダ扱いしたりとか。
 公務員バッシングもそのひとつ。

──先ほど話に出た柳井さんも「公務員などの人員数も半分にする」と言っていました。

井上 そういった類のバッシングがあるわけです。
 しかし、もともと日本は他の国と比べると、人口1万人あたりの公務員の数が少ない。さらに、現場では非正規雇用公務員の比率がどんどん増えている。
 いま、人手が足りなくて台風の被害を受けた地域の復興に時間がかかっているじゃないですか? もしも、公務員の数が多かったら、もう少し復興が早かったかもしれないし、そもそも被害をもっと少なくできたかもしれない。
 あと、少し前に教師間いじめの問題が報道されていましたけれども、これも教員がもっとたくさんいて職場のストレスが少なかったら起きなかったかもしれないですよね。
 そもそも最近ではこのように地方公務員や教員の人件費を削ることによって大変な弊害が起きているわけです。

──なるほど。

井上 れいわ新撰組の山本太郎さんは公務員の数を増やすよう提言していますが、公務員が多くいて、彼らがきちんとした収入を得ることはなにも悪いことではない。
 正規に雇用された公務員が増えるということは、安定した仕事のおかげでお金を使うことのできる人が増えるわけで、そこで増えた消費はめぐりめぐって自分のもとにも返ってくる。
 そうじゃないと、みんな豊かになれないですよ。

『キミのお金はどこへ消えるのか 令和サバイバル編』(KADOKAWA)より。(c)Jun’ichi Inoue (c)アル・シャード/KADOKAWA

「なんで給料が上がらないんだ!」と怒るべき

──そうした状況で、一般庶民の消費をますます冷え込ませる消費増税なんて愚の骨頂というわけですね。

井上 そう! いまやるべきことは消費増税なんかじゃない。消費税の減税であり、公共事業などの充実ですよ。

──そういう認識が世間ではあまり広がっていないように思います。

井上 いまの日本社会にある息苦しさが緊縮的な考え方や緊縮財政によって起きていることはもっと知られた方がいいです。
 ITなどで成功した若手実業家は「貧乏なのはお前らのせいで、そこから抜け出すのは個人個人の力だ」みたいなことをよく言いますよね。
 ある意味では正解なのかもしれないけれど、あくまでそれはミクロな考え方であって、やっぱり国が救わなくていけない人というのは存在するんですよ。
 そして、そういった人を救済することは、まわりまわって自分のもとに返ってくるし、最終的な収支はプラスになる。そのことをしっかり認識すべき。

──本当にそうですね。

井上 この社会をギスギスして息苦しいものにしている責任の一端は、そうした経済政策を望み、支持する国民の側にもあると言えます。
 だから、こうした状況に違和感をもつ人は、心置きなく「国が悪い」って言っていいんですよ。
 「生活保護をもらってる奴はズルしてる」「公務員は恵まれている。もっと数を減らせ」などと言って足を引っ張り合うのではなく、もっとストレートに「なんで給料が上がらないんだ!」と怒るべきです。

──そういう声がもっと大きくなれば、この社会はもっと優しく、心地いいものに変われるのにと思います。

井上 ただやっぱり、こういった考え方は分かりにくいですよね。
 家庭や企業といった単位と国ではお金の使い方が違うけれど、それを理解するのは難しい。
 『キミのお金はどこに消えるのか』でやりたかったのは、「分かりやすさ」がもたらす「罠」を多くの人に知らせることです。
 みなさんは、高級官僚や政治家といった頭のいい人って間違えないし、彼らの言うことは正しいと思っていませんか?

──そう思ってしまいがちなところはあると思います。

井上 歴史を見れば分かりますけど、政治家だって学者だって、頭の良い人は意外と未来の予測を間違えるんですよ。だから、大切なことは、知識を身につけ、自分の頭で考えること。みんなが真っ当な知識を得て、現状について考えること。いまの支配者層・指導者層が言っていることに対して「なにかおかしいぞ」と疑問をもつこと。そのうえで、「なんで給料が上がらないんだ!」という声を起こすなり、緊縮的な政策ではない政党に投票するなりすること。
 みんなが正しい知識をもつようになれば、世の中は少しずついい方向に進むのではないかと考えて『キミのお金はどこへ消えるのか』を描いています。
 自分たちの未来を変えられるのは、自分たちだけなのです!

(取材、構成:編集部)

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