
「Getty Images」より
前回は、会社を退職した際に生活資金をつくる基本的な方法について説明した。後編では、公的機関による貸付や保険金免除の制度について紹介する。
生活福祉資金貸付制度
給付ではないが、金融機関からお金を借りられないほど経済状態が悪化している場合、無利子でお金を借りられる制度がある。
貸付条件は経済状態によって変わるが、地域の社会福祉協議会で貸付相談を行っているので、上記の制度を利用できない場合などは、相談してみるとよい。社会福祉協議会とは、民間の非営利福祉団体で、共同募金活動などを手がける団体だ。募金をすると、赤い羽根をくれる団体を見たことがあるのではないだろうか。あの団体である。
なお、基本的に借りられるお金の用途は生活支援や教育費など基本的な生活にまつわることに限られる。また、連帯保証人を立てない場合は、有利子での貸付になってしまうことに注意してほしい。とはいえ、安易にカードローンなどから借りたりするよりははるかにましなので、まずは相談してみて損はない。
シングルマザー 単身女性の支援制度 女性福祉資金制度
また、女性福祉資金制度という資金の貸付もある。対象は、過去に婚姻歴があり20歳未満の子供を養育した経験があり40歳未満のシングルマザー(収入条件あり)や、単身で親や兄弟を支えている女性だ。
貸付条件は、現在住んでいる自治体の担当部署に貸付を申しこみ、審査をクリアすることが必要。こちらも、生活福祉資金貸付制度と同じく、連帯保証人を立てられない場合は、有利子での貸付となるので注意が必要だ。
生活保護
雇用保険の受給、住宅確保給付金の受給ができれば、生活保護が必要となるケースは基本的にないはずだ。ただ、これらの制度が利用できない場合の保険として、生活保護を受けられる条件については、知っておいていただきたい。
生活保護というと、よほど困窮している人しか受給できないイメージがあるが、実際は働いていても、生活保護基準(最低生活費)以下の収入であれば、差額が受給できる。ちなみに、子供が2人いて東京都区内に住んでいる家庭の生活保護水準は、約20万円とされていて、働いていても収入がそれ以下の場合は、差額を受給することができる。生活保護を受給できる基準額は住んでいる自治体や世帯人数によって変わってくる(東京都下に住む単身者は、7万円前後)。
生活保護の受給が認められると、住民税、上下水道料、NHK受信料の納付が免除されるだけでなく、医療費の窓口負担金が無料(国民健康保険証が使えなくなる代わりに、医療券が給付される)。また、自治体で運営している公共交通機関の利用が無料になるケースも多く、支出を最大限に抑えられるメリットがある。
ただし、あくまで生活を維持するための支援なので、「貯金ができない」「借金ができない」「原則として車を利用できない」「三親等の親族に支援要請の連絡が行くケースがある」などといったデメリットもある。また、申請主義を取っているため、あくまで自分が「生活保護を申請する」と明確に伝えない限りは、手続きが開始されない現状がある。
もし、生活保護を利用する上で申請方法にわからない点があったら、弁護士などの法律家がボランティアで実施している相談会などを利用してみるとよいだろう。
国民健康保険料の免除・猶予申請
お金がもらえる制度ではないが、ブラック企業から緊急避難的に退職した場合は忘れずに行っておきたい手続きが国民健康保険料の免除・猶予申請だ。
退職すると、再就職するまでの間、国民健康保険に入らなければならない。国民健康保険料は保険料が高いため、失職中の健康保険料の支払いは非常に負担が大きい。一般的に住宅確保給付金の申請をした後、国民健康保険証の発行をすると、国民健康保険料の免除・納付猶予制度について教えてくれるが、忘れずに自分から申し出て手続きをしてほしい。
精神保健福祉手帳(障がい者手帳)の申請・障害年金
近年では、長時間労働による過重労働や、職場のパワハラによって、うつ病をはじめとした精神疾患を発症するケースが珍しくなくなっている。これらの疾患は、外見からはわかりにくいことと、会社という密室で起きたことを立証することが難しいため、労災の適用が困難なケースが多い。
また、病気の性質上、再就労のハードルが高くなってしまっている人も少なくない。このような場合、無理をせず、医師と相談して診断書を作成してもらい、精神保健福祉手帳(障がい者手帳)の発給を申請後、障害年金を受給することも考えてほしい。
近年は大企業や自治体・国の期間が障害者枠で一定以上の障がい者を雇用しなければならないことになっている。給与水準も労働条件も悪くない中での再就職がめざせるので、一考の価値があると思う。障がい者枠でなく一般枠での再就職を目指すことも可能なので、まずは医師と自分の心身の状態についてよく相談し、一番良い方法を考えてみるとよいだろう。精神障害を負のイメージで捉えて、否定したくなる人もいるかもしれないが、体が資本なのだから無理をしてはいけない。以下に、精神保健福祉手帳(障がい者手帳)の給付を受ける利点についてまとめる。
精神保健福祉手帳(障がい者手帳)を受給する利点
- ・公共交通機関の利用が無料になるケースが多い
- ・自治体によっては公共住宅の優先入居
- ・携帯電話などをはじめ障害者割引が適用される
- ・障害者控除が適用されるため所得税・住民税を節税できる
- ・自立支援医療(精神疾患に限って窓口負担が1割負担になる)が別途申請で適用できる
- ・障害年金の給付が受けられるケースがある(国民年金の場合、月額で6万円前後)
- ・雇用保険の受給期間延長(45歳未満は300日まで受給 45歳以上は360日)
なお、精神保健福祉手帳の申請用紙・診断書用紙は、各自治体の役所の障害支援課で配布されている。また、障害年金給付の申請用紙の配布・申請は、役所ではなく、日本年金機構の事務所で行うので注意してほしい。
最近は、障害者手帳の申請を含め、障害年金給付の申請までの一連の手続きについて、成功報酬で行っている社会保険労務士事務所が多いので、過去の成功実績を確認して、依頼すればよいだろう。一般的に、障害年金の給付に成功した場合、一回目の給付金を成功報酬として支払うことを約束するケースが大半だ。それを高いと思うかもしれないが、自分でやることの煩雑さや、申請用紙にうかつなことを書いて給付が降りなくなるリスクを考えると、プロにまかせたほうが無難だと思われる。
また、雇用保険の受給が大幅に延長されるのもメリットだ。仮にあなたが25歳で会社都合の退職を認めさせたとしても、雇用保険の受給は最大で120日までである。雇用保険加入の途中で精神保健福祉手帳(障がい者手帳)の給付が認められた場合、雇用保険の給付は300日まで伸びる。再就職までのじゅうぶんな保険になるはずだ。
二回にわたって紹介したこれらの方法を組み合わせれば、生活資金の心配をすることなく、約3カ月から6カ月は転職活動に専念することができるはずだ。失職という非常時だからこそ、さらに大きなトラブルに巻き込まれることを確実に避け、有利に転職活動を進めていただきたい。
(監修/山岸純)
(文/松沢直樹)