「サド侯爵夫人」は、三島が自分をルネに置き換えて、母との葛藤を書いたともいわれています。ルネは特に隠喩的なセリフが多く、その膨大さも相まって、何がテーマなのか、サドがどういう人物でなぜルネが最後にこの決断を下したのか……率直にいってしまえば、理解の困難な作品です。それはルネ役を二度演じている篠井ですら「結局わからない」といっているほど。
おそらく、謎は謎のままでよくて、正解がないことも「サド侯爵夫人」の魅力のひとつ。個人的には、俳優の高い技術を満喫できればそれで満足のはずなのですが、それとともに自分の生きている世界を「創った」といえるほどの伴侶への思いを抱ける幸せとはどのようなものなのか、ということが心をよぎります。