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欧米で広がる社会主義ブーム 過去の破綻は忘れられたのか

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「Getty Images」より

 今から30年前の1989年11月、東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊した。ソ連や東欧の社会主義諸国が終わりを迎えるきっかけとなった歴史的出来事だ。ところが現在、欧米の若者などの間で社会主義ブームが盛り上がりを見せている。

 米調査会社ギャラップが先ごろ公開した最新世論調査では、18〜39歳の世代で資本主義の支持率が大きく低下し、社会主義の支持率がほぼ同程度になった。2020年の米国大統選挙に向けて、民主社会主義を打ち出すバーニー・サンダース上院議員の人気が高まっている。

 英国では、ジェレミー・コービン党首の下で水道、電力、鉄道、郵便の再国有化など社会主義的政策を打ち出す野党・労働党が存在感を増している。12月12日に総選挙を控え、世論調査での支持率は与党・保守党にリードを許しているものの、コービン氏に対する草の根の党員票の支持は根強い。

ソ連や東欧諸国の負の歴史

 若い世代がソ連や東欧諸国の歴史を知らず、反資本主義のムードに乗って社会主義に漠然とした憧れを抱くのは、無理もないことかもしれない。

 けれども、社会主義はかつてソ連や東欧、中国、カンボジアなどで、餓死や強制収容所送り、強制労働、死刑などによって膨大な死者を出した。その数は8500万から1億人に達するとされる。

 サンダース氏らが標榜する民主社会主義とは革命を否定し、議会制民主主義の中で社会主義の理想を実現しようとする考えである。独裁体制だったソ連や東欧の社会主義とは違うと支持者は強調する。

 けれども社会主義が持続不可能なことは、独裁制だろうと議会制だろうと変わりはない。それには経済的な理由がある。

社会主義が持続不可能な経済的理由

 社会主義経済が機能しない理由としてよく指摘されるのは、まじめに働いた人も怠けた人も同じ報酬しか受け取れないのであれば、誰もまじめに働かなくなってしまうというものだ。これを経済学で「誘因問題」と呼ぶ。わかりやすく言えば「やりがい問題」である。

 これに対し社会主義者は、その問題は克服できると反論する。人望厚い指導者が生産高、売上高などの目標を設定し、市民のやる気を鼓舞し、一丸となって努力すればよいと言う。ようは気の持ちようというわけだ。

 そううまく運ぶかどうかは疑問だが、仮に誘因問題をなんとか克服できたとしよう。ところが社会主義にはもう一つ、もっと深刻な問題がある。それは「経済計算問題」と呼ばれる。

猛然と反発されたミーゼスの主張

 社会主義とは、原材料、土地、道具、機械、建物といった「生産手段」を国有化する体制である。国有化されている以上、市場で売買されないから、価格が存在しない。すると、これらの生産手段を使った事業の採算を判断できない。

 資本主義であれば、ある事業が黒字ならさらに多くの資本や労働を投入し、逆に赤字なら事業の規模を縮小するといった判断ができる。社会主義ではそれができない。社会主義政府の指導者がどれほど頭脳明晰であっても、ある事業を続けたほうがよいか、それとも廃止したほうがよいか、合理的に判断できない。判断に必要なデータがないからだ。

 合理的な経済計画を立てることができなくても、社会主義がすぐに破綻するわけではない。しかし経済は非効率になり、少なくとも資本主義と比べて貧困が広がり、経済成長が阻害されるのは避けられない。

 この問題を早くから指摘したのは、オーストリア出身の経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスである。

 ミーゼスが最初にこう主張したのは1920年。ロシア革命の勃発からまだ3年しかたっていない時期だ。当時、世界の知識人や学生の間では社会主義が人類の希望として、今の社会主義ブーム以上に熱狂的に支持されていた。資本主義を上回る繁栄を社会主義によって実現できるという幻想に、ミーゼスは冷水を浴びせた。

 ミーゼスの主張に社会主義側の経済学者たちは猛然と反発した。やりがい問題は気の持ちようで克服できても、経済計算問題は社会主義そのものを論理的に不可能にしてしまうのだから、猛反発するのも無理はない。

 有力な反論とみられたのは、ポーランド人経済学者、オスカー・ランゲらによるものだ。ランゲは、物の生産量と生産方法を決定するには、市場価格を使う代わりに、政府が中立な「せり人」となり、需要と供給が釣り合う均衡価格を発見すればよいと主張した。

 具体的には、まず企業が生産物の需要量を把握し、供給量を決定して政府に報告する。それを受けて政府は「需要量が供給量を上回ったら価格を引き上げる」「下回ったら価格を引き下げる」という試行錯誤を繰り返し、すべての生産物の需要量と供給量が釣り合うまで価格を調節するという。

 しかしこの方法は、ミーゼスの批判に答えていない。企業が生産物の供給量を決めるには、費用を最小化する原材料の組み合わせを選択しなければならないが、原材料の市場価格が存在しなければ、その判断は不可能である。政府も、企業の決定が正しいかどうか判断できない。結局、生産手段に対する私有財産権が否定され、売買できない社会主義の下で、正しい経営判断はできないのである。

社会主義は理想のユートピアでもなければ、無敵の悪魔でもない

 ミーゼスや、その弟子でのちにノーベル経済学賞を受賞したフリードリヒ・ハイエクは、社会主義の経済学者と論争を繰り広げた。しかし、その後ソ連の計画経済が当初はうまくいっているように見えたことから、ミーゼスらの社会主義批判は誤りとの見方が広がる。しかし実際にはソ連は貧困にあえいでおり、ミーゼスの予言から71年後の1991年、ついに崩壊したのである。

 米国の経済思想家、ロバート・ハイルブローナーは「ミーゼスが正しかったことが判明した」と述べている。

 先日死去した中曽根康弘元首相は在任中の1983年、「日本列島を不沈空母のように強力に防衛し、ソ連のバックファイアー爆撃機が侵入できないようにする」と発言したことで知られる。当時は米ソ対立の冷戦時代で、中曽根氏の発言は、日本が自衛を超えて米国のためにソ連と戦う意思表示ではないかと議論を呼んだ。

 けれども、それから10年も経たないうちに、当のソ連が破綻し消えてしまった。破綻したのは米国との軍拡競争で財政的に無理をしたからだとの解説もあるが、それはせいぜい副次的な理由でしかない。前述したように、遅かれ早かれ、ソ連は経済的な理由で自滅する運命にあったのだ。

 同じことは今の北朝鮮にも当てはまる。同国の社会主義は事実上破綻し、闇市経済によってかろうじて命脈を保っている。日本を侵略する経済力などありはしない。いたずらに北朝鮮の脅威をあおり、圧力をかけ続ければ、かえって暴走を誘発するだけだ。

 社会主義は理想のユートピアでもなければ、無敵の悪魔でもない。放っておけば自滅するもろい体制だ。ベルリンの壁崩壊から30年の節目を機に、その事実を冷静に認識しておくべきだろう。

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