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「クレームに謝罪してはいけない」は本当か? カスハラ対策の基本

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「GettyImages」より

 顧客や取引先からの悪質なクレーム“カスタマーハラスメント(カスハラ)”が問題視されている。UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)流通部門が昨年発表した「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査 分析結果」によると、「業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことがあるか?」との問いに、70.1%が「ある」と回答。迷惑行為を受けたことで「強いストレスを感じた」も54.2%、さらに184人がこれに関連して「精神疾患になったことがある」と回答したという。

 厚生労働省の調査でも、カスハラに起因する精神障害で労災認定された人は過去10年間で78人、さらに自殺者は24人もいることがわかっている。強引な「お客様第一主義」から脱却し、従業員を保護することが企業には求められている。

 迷惑客への対応を徹底的に実施することは、想像以上のメリットをもたらすという。前回に引き続き、クレーム対応コンサルタントで株式会社エンゴ代表の援川聡氏に話を聞いた。

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援川聡
(株)エンゴシステム代表取締役。NPO法人地域安全協会副理事長。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたクレーム対応コンサルタント。その適切で確実な“解決術”に各方面から高い評価を受けている。2002年「困難なクレームを解決し、企業・組織の危機管理を援護する」をモットーに、㈱エンゴシステムを設立。

「謝ってはいけない」という指導も

 カスハラ対策に取り組む企業自体は増えているが、援川氏がコンサルティングに行くと的外れな指導に驚くことがあるという。

援川氏「カスハラ対策なのに、従業員に『常に笑顔で接客しなさい』『お辞儀の角度は45度で』などと無意味な指導をしている会社があります。笑顔やお辞儀マナーが良かろうと、ヒートアップしているクレーマーを落ち着かせる効果はありません。『なにニヤニヤしてるんだ!』と難癖をつけられることさえあります」

 「謝罪をしてはいけない」という教えもある。

援川氏「以前、医療関係者が集まる研修会に講師として参加した時のことです。同じく講師として招かれていた弁護士が、『医療過誤が発生すると大変なことになるので、患者さんからのクレームに安易に謝罪してはいけません』と説きました。

参加者から『謝罪をしていけないなら私たちはどう対応すれば良いのですか?』と質問が出たのですが、講師は『私は法律について話をしているだけなので、それは各医療機関で考えてください』とにべもありません。参加者たちは困惑してしまいました」

 かつて、一部ではあるが、『謝ったら問題を認めたことになるので謝ってはいけない』と指示する弁護士もいた。しかし援川氏は謝罪を否定しない。

援川氏「クレーム発生の初期対応時は責任の所在もクレーム内容もわからないので、“相手に不快な思いをさせてしまったことに対するお詫び”として謝罪することは、責任を認めたことにはなりません。そういった際にはキチンと謝罪することを勧めています」

また、従業員が一人だけで対応せず、複数で解決に当たることが基本だ。

援川氏「たとえばスーパーで店員に暴言を吐いている客がいるとします。それを見た隣のレジの従業員が『ただいま休止中です』と書かれたポップを出し、速やかに応援に駆けつけてるお店は、ちゃんとしていると思います。お客も下手なことが言えなくなるので牽制効果があります。『お客様の声の貴重な意見ですので』と言いながらメモを取るなどして状況を把握するとなお良いです。

なにより、たった1人でクレームに対峙することは誰でも非常にしんどい。人手不足や人件費削減のために最小人数の従業員で回している現場も多いですが、カスハラ対策という観点で見てもこれはリスキーです」

 カスハラへの対応は、いかに理不尽な要求をかわすかだが、シンプルに“ギブアップ”することが有効だという。

援川氏「過度な要求を突きつけられても、『私ではどうすることもできません』とギブアップすることです。実際に、どうすることもできない立場であったり、その場で判断しかねる問題であることは多々あるでしょう。『私一人では判断しかねますので、協議した上で改めてご連絡を差し上げます』と、相手の名前・電話番号・住所を聞き、社内でその件を共有する。消費者側はやましい気持ちがないのなら堂々と自分の情報を教えれば良いだけの話です」

 しかし近年は「SNSに晒すぞ!」という脅し文句を使われるケースが多く、店舗側が炎上を恐れて過度な要求を飲んでしまうこともあるという。

援川氏「ネット上に書き込むことをチラつかせるカスハラ加害者は、内容にもよりますが放置すべきだと私は教えています。炎上を恐れて“ネット監視サービス”を導入している企業もありますが、費用と手間がかかるため大きな負担になり、コストパフォーマンス的に合理的な選択とは言えません。仮にネット炎上してもほとんど数日、長くても1カ月程度で鎮火します」

 そもそも店側に落ち度がなくウソを書かれての炎上ならば、反論し法的処置をとることもできるだろう。もちろん誇張や虚偽の書き込みをもとにした炎上に対応するだけでも負担ではあるが……。

従業員を守れば業績も良くなる

 無茶苦茶な「お客様第一主義」を見直し、カスハラ対策を徹底して従業員の労働環境を守ることで、結果的に業績が良くなる……そんな好循環もすでに生まれているという。

援川氏「的はずれな対策を講じたり、対策を何も講じず『現場でなんとかしろ』と押し付けられると、現場で働く従業員は『本社は何もしてくれない』『臭いものに蓋をしている』と感じ、働く意欲が削がれてしまいますよね。

反対に、具体的なカスハラ対策を実施することで、従業員は『現場をちゃんと気にかけてくれている』と感じ、会社に対するロイヤリティが上がり、本当の意味での“顧客満足度”の高いパフォーマンスを発揮してくれます。

 カスハラは従業員のメンタルヘルスを蝕むだけでなく、労働時間を奪います。カスハラ対策が十分に行われていれば悪質クレーマーへの速やかな対応を取ることができますから、優良な顧客に集中的に接客ができ、売上アップも望めます。

『クレームはチャンス』といった考えもあり、カスハラ加害者が優良顧客に転じてくれる可能性もゼロではないものの、そこにリソースを割くことは長期的に見るとあまりメリットはありません」

 従業員のメンタルヘルスを守ることを考えれば、最終的には会社の利益になる。

 

▼取材協力:

援川聡 /(株)エンゴシステム代表取締役。NPO法人地域安全協会副理事長。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたクレーム対応コンサルタント。その適切で確実な“解決術”に各方面から高い評価を受けている。2002年「困難なクレームを解決し、企業・組織の危機管理を援護する」をモットーに、㈱エンゴシステムを設立。現在も、リアルタイムで企業・組織をサポートしながら、ピンチに頼れる“相棒”として活躍中。また、講演や執筆活動などを通して様々な機関で解決方法・リスクマネージメントのノウハウを伝授している。事例を盛り込みながらの講演は迫力に満ち、「説得力が違う」と聴講者からも絶大な信頼を得ている。

【著書】『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』(ダイヤモンド社 2018年9月)『クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社2014年3月)『理不尽な人に克つ方法(小学館 2014年2月)『クレーム処理のプロが教える断る技術』(幻冬舎 2004年12月)『困ったクレーマーを5分で黙らせる技術』(幻冬舎 2007年10月)『知識ゼロからのクレーム処理入門』(幻冬舎 2008年6月 弘兼憲史 共著)『クレーマーの急所はここだ!』(大和出版 2008年7月)『医療機関のクレーム完全対応マニュアル』(すばる舎 2010年3月)

■株式会社 エンゴシステム  http://www.engosystem.co.jp/

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