両親に育児放棄されたと気付き、「ウソ」で自分を守った

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虐待サバイバーは夜を越えて

 「虐待経験を打ち明けたことがきっかけで結婚した夫婦」に取材している。福本浩平さん(仮名・28歳、お笑い芸人の卵)と、麻衣さん(仮名・30歳、ヨガスタジオ勤務)は、2018年に結婚。ともに凄惨な子ども時代を経験していた。

 麻衣さんは自分の家庭が「普通じゃない」ことに気づいてから、ウソで身を固めて心を守ってきた。福本さんと出会うまで、彼女はずっと、張り詰めていた。

母の再婚相手は子どもたちを殴り続けた。芸人の卵が受けた虐待

 おとなの暴力や育児放棄により虐げられて育った子どもも、いずれ「おとな」になる。本連載では、元・被虐待児=虐待サバイバーである筆者が、自身の体験やサバイ…

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両親に育児放棄されたと気付き、「ウソ」で自分を守ったの画像3 ウェジー 2019.12.26

「虐待経験を笑われて安心した」否定でも過度の同情でもなく

 「虐待経験を打ち明けたことがきっかけで結婚した夫婦」の夫側である福本浩平さん(仮名・28歳、お笑い芸人の卵)。4人きょうだいの長男として育ったが、母の…

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両親に育児放棄されたと気付き、「ウソ」で自分を守ったの画像3 ウェジー 2019.12.27

虐待サバイバー同士の安堵感「このひとにはウソをつかなくていい」

 「虐待経験を打ち明けたことがきっかけで結婚した夫婦」がいる。ここまで夫である福本浩平さん(仮名・28歳、お笑い芸人の卵)に話を聞いてきた。今回は妻の麻…

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両親に育児放棄されたと気付き、「ウソ」で自分を守ったの画像3 ウェジー 2019.12.28

 

祖父母の年金で養われていた6人家族

 現実を直視するようになったきっかけは、祖母にお小遣いをねだったときだった。

――それはいくつのときですか。

「中1ですね。おばあちゃんに『お小遣いがほしい』ってねだったときに、『2カ月に1回1万円あげる』って言われたんです」

――1カ月に5000円じゃなく、2カ月でまとめて1万円?

「わたしも不思議に思って聞きました。そしたら、2カ月に1回というのは年金支給日だったんですよ」

――お母さんと麻衣さんたち6人家族は、年金のお世話になっていたということなんですね。

「はい。そういえば、ウチのお金の管理ってどうなってるんだろうと思っていたころだったんです。お父さんもいないし、お母さんも働いてないし。で、年金のことを知ったときに『やばっ! ウチって普通の環境じゃない!』って思いました。そのタイミングでおばあちゃんとお母さんが買い物に行っていたから、それをアテにしている親もいったい何なんだろうって」

 公務員だった祖父の年金は、退職金と合わせたらそれなりのものだっただろう。しかし、「お年寄りの年金」を食い物にしているという事実は、少女に衝撃を与えるのに充分だった。おとなの階段を上りつつあった麻衣は、ドミノ倒しのように現実が見えるようになってしまった。

 ウチにはお父さんがいない。しかも、ギャンブルで借金まである。

 わたしたちは親が働いたお金じゃなく、祖父母の年金を食いつぶしている。

 わたしは、お父さんとお母さんの愛情を知らない。

 わたしは、みんなと違う。

 他人からどう見られるかを気にする、思春期真っ只中である。麻衣がまず考えたのは「これは隠さなければならない」ということだった。

 そのころからだ。麻衣曰く「ウソつき癖」がはじまったのは。

ウソつき癖の発症

 最初はクラスメイトとのおしゃべりで、おかずの数を多めに申告するような、他愛もないウソだった。「プライドも高かった」と自身の性格を語る麻衣は、そのうち「お父さんは家にいてサラリーマンをしている」などと、友だちに吹聴するようになる。

 学生時代のファッションは裏原宿系、それも個性的で目立つファッションが好きだった。当時は、社会人の恋人がアンダーカバーという有名ブランドをまとい、爪を真っ黒に塗ってパンクなファッションをしていたので、影響も受けた。目立つふたりは、街角でファッション誌のスナップを撮られることもあり、それがちょっとした優越感でもあった。

 今で言う「リア充」や「インスタ映え女子」そのものだっただろう。しかし、心の奥底ではつねに自分を偽っている虚しさもあった。

 二十歳をすぎるころには、学歴も偽るようになった。高校は遊びにハマってしまい中退、大検の資格を取ったものの短大も学部の勉強内容があわずにやはり中退。しかし、恋人には短大をストレートで卒業したとまたウソ。学歴にコンプレックスがあったせいか、理想の相手は、高学歴、高身長、高収入のいわゆる「3高」だった。そんな相手に対しては、幻滅されたくないとさらにウソをウソで塗り固めた。

 ありのままの自分では足りない、認められない。とりつくろうことで他人との壁は厚くなるが、それが当たり前になっていた。

「この先結婚しても、ずっと何かのウソをつき続けていくんだろうって、思っていました」

 笑顔の裏で、心はずっと乾いていた。

盛らないブログ

 そんなとき、ネットサーフィンでたまたま見つけたのが、福本のブログだった。

 過去記事をたどって、お笑い芸人ということはわかった。ただ、そういう部分はほとんど打ち出さずに日常のことが淡々と描かれている。

「ちょうどその日は、『秋葉原でチュロスを食べました』というだけの記事だったんですけど、なんてこともなく素朴で。それを見て『あぁ、人間らしいなぁ』と思ったんですよね」

 ふだん麻衣が目にしていたインスタグラムは、さりげなくブランド物や仲間に囲まれている写真を投稿し、自分を「盛る」、または「陽」の部分ばかりをみせる風潮があった。一方、福本のブログには、落ち込みや悲しみという「陰」を感じる投稿もあり、そこがまた麻衣の興味をそそった。

 自分の家庭環境や経歴を偽ってきた麻衣にとって、等身大であろうとする福本のブログはまぶしく見えたのかもしれない。

 横浜ではじめて会った日。福本のほとばしる話から、多数のきょうだいの一番上であること、両親の愛情に飢えてきたことなど、自分の境遇と多くの部分がシンクロすることに麻衣は気づく。この人は自分が理想としていた「3高」とは違う。高学歴でもないし、お金に苦労しそうな芸人だ。

 しかし、この人の前でならウソをつかずに、ありのままの自分でいられるかもしれない。

号泣されて感動した

 付き合い始めたばかりのことを、麻衣は忘れられないと笑う。福本が住んでいた川崎のアパートに遊びに行ったときのことだった。学生の入居者が多いワンルーム。福本はそこを「山を削った場所に建っていて、スラム街のようだった」と表現する。薄い壁越しの生活音や音楽。一戸建てでしか生活をしたことがなかった麻衣にとっては、耐えがたく耳障りだった。

「あまりにもうるさいので、『わたしもうここに来たくないわ』って言ったら、突然ワーッと泣き出しちゃって(笑) 本当に叫びながらです。普段は感情を出さない人だったから、もうビックリしちゃって」

 麻衣は、単純にアパートが気に入らないと言ったつもりだったが、福本は別れ話だと勘違いしたのだ。そんなささいなことで号泣する男を見て、多くの女性は白けてしまうだろうか。しかし麻衣は、男の人にこんな風に泣かれたのは初めてだと感動を覚えた。

「こんなにダメな女のために、泣いてくれるなんて。ああ、この人は手放しちゃいけない。泣かせちゃいけないなって思ったんです」

 福本を悲しませまいと誓った麻衣は、「彼のことは何でも肯定してあげよう」と決める。他人の視線を避けてうつむく福本も、お店で店員さんを呼べない福本もすべて「かわいい」とほめて、自分が代われることは代わりにやった。

 親の愛情に飢えていた二人、だからこそ自分たちは笑いの絶えない温かい家庭をつくりたい――。自然な流れで、1年後には同棲をはじめていた。しかし、結婚が具体的な話となったとき、思わぬ邪魔が入る。

 それは、すでに距離をおいていたはずの福本の両親だった。

<つづく>

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