GSOMIA継続の裏の意味~日韓に圧力をかける米国の深慮遠謀

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「Getty Images」より

 それは効力が切れる6時間前のぎりぎりの決断でした。韓国政府は11月22日午後6時に、「日韓軍事情報包括保護協定」(いわゆるGSOMIA)の破棄決定をいったん停止する、と発表しました。つまり、協定を継続することとしました。これまで韓国政府は一貫して、日本が半導体関連材料などの輸出規制を見直さなければ継続しないと言い張ってきました。それを最後に覆した裏には、米国の圧力がありました。

 実際、期日を迎える直前になって、米国はエスパー国防長官を筆頭に、国防、安全保障担当の幹部を相次いで韓国に派遣。韓国がGSOMIA破棄を取りやめ、これまで通り協定を継続するよう、強い圧力をかけました。韓国では国民世論の半数以上がこの協定を「破棄すべき」となっていたなかで、やむなく苦渋の決断をしたことになります。

 もっとも、韓国にだけ圧力をかけたのでは、これを飲まされた韓国政府の立場が苦しくなるので、日本にも協力を求めました。これまで「ボールは韓国側にある」として交渉の余地なしとしてきた日本も、結果的に日韓局長級の協議復活に応じることになりました。協議が続く間は、韓国側も日本をWTO(世界貿易機関)に輸出規制問題を提訴しない、ということにしました。

 これには伏線もありました。韓国は直前に「米軍の駐留経費の負担を5倍に増やせ」、という米国側の要求を事実上拒否しています。この問題についての協議を、わずか1時間で切り上げ、席を立ってしまったからです。米国はそれなら在韓米軍を引き揚げる、と脅しました。現在、韓国に駐留する米軍2万8000人余りのうち、1旅団(3000人ないし4000人)を早期に引き揚げる模様です。

米国の短期的な狙い

 米国がここまで両国に圧力をかけた裏には、短期的、長期的な思惑があります。後に詳しく触れますが、長期的には北朝鮮の非核化を進め、そのうえで在韓米軍を引き揚げる計画を持っています。しかし、北朝鮮がまだすぐに非核化を進められる状況になく、東アジアには当面、北朝鮮の核の脅威が残ります。

 しかも、その背後にはロシア、中国が控えています。今韓国がGSOMIAを破棄し、北朝鮮の動きに関する軍事情報を共有化できなくなると、日米韓3国にとっては大きなマイナスになります。しかもその裏で北朝鮮、ロシア、中国に大きなチャンスを与えてしまう、との危機感が米国にはあります。

 つまり、北朝鮮の軍事的脅威、とりわけ核の脅威がなくなるまでは、日米韓3国で、この動きを監視すべく、情報の共有化が不可欠との考え方です。北の脅威がなくなる将来的には不要になりますが、当面はGSOMIAは必要で、日韓の喧嘩で勝手に破棄するな、ということです。

米国の深慮遠謀 

 この問題を理解するうえでは、次の2点を押えておく必要があります。1つは、米国の国際的な力が近年低下していて、もはや米国が「世界の警察」機能を果たせなくなっていることです。このため、トランプ政権は膨大なコストのかかる在外米軍を順次引き揚げる方向で考えています。それでも米国内には友好国との関係を維持し、軍事面で協力することが、米国の戦略にも不可欠との考えが根強くあります。

 そこでトランプ政権はこの考えを両立すべく、折衷案を考え出しました。つまり、米軍に駐留を続けてほしい国は、駐留経費の1.5倍の資金負担をせよ、というものです。これは在外米軍の駐留コストを当該国が全額負担した上に、そのサービスを享受する代価として、5割分の費用を出せというものです。

 つまり、日本でも韓国でも、米軍に守ってもらいたければ、駐留経費の1.5倍分を支払えということで、すでに当該国に通告しています。韓国に対しては来年の駐留経費を従来の5倍強に増やせと要求し、日本にも2021年度分から80億ドルに増額を求めています。それがいやなら米軍は引き揚げる、と言っています。同様の増額はドイツにも求めています。

 米国の戦略的利益を棚上げし、国土の安全を米軍に守って欲しければ、そのサービスに応じた費用を負担せよ、というのはいかにもビジネスマンあがりの大統領の考え方です。実際、米国内には韓国や日本に米軍基地を置いているのは、米国にとっても、対中国や対ロシアの軍事戦略に必要なこと、という考えがあります。ところがトランプ政権ではこれが通らないもう1つの点があります。

 つまり2つ目の注目点として、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席と連携していることです。もちろん、米国内には今でも中国やロシアに対する脅威論や敵視する見方はあります。従ってトランプ政権も中国、ロシアが米国を脅かすような存在になることは認めないのですが、「世界の警察」機能を一部、両首脳に任せる意向です。

 たとえば、米国は中東のイラク、アフガニスタン、シリアなどから手を引きつつありますが、中東はロシアに任せようと考えているように見えます。その延長線上には米軍を欧州からも引き揚げることがあり、結果的に欧州にもロシアの影響力が強まります。つまり中東から欧州にかけては、米国に代わってロシアのプーチン大統領に管理させよう、と考えています。

 そしてアジアの管理は日本でなく、中国の習近平国家主席に任せる意向のようです。国家間では米国は中国と冷戦を進めようとしていますが、一方でトランプ大統領は習近平主席を「尊敬すべき、素晴らしい男」と持ち上げています。つまり、米国としては中国が覇権をあまり広げないよう、牽制しつつ、アジア圏の統治をある程度習近平主席に委ねようとしています。

 その分、従来よりも米国の負担は軽減されます。同時に、通常であれば米国の支配領域をロシアや中国に奪われかねない不安はありますが、そこはトランプ政権がプーチン大統領、習近平国家主席を信頼し、かつコントロールできると考えているようです。

 従って、在韓米軍を引き揚げても、朝鮮半島が中国やロシアの統治下におかれるのではなく、あくまで米朝協議のもと、米国の管理下で、そして米国の影響力を残した形で朝鮮半島をまとめようとしています。その場合、トランプ大統領と金正恩委員長との信頼関係が築けるのであれば、北朝鮮主導の半島統一でも構わない、というのがトランプ大統領の考えのようです。

 米国にしてみれば、北朝鮮のウランをはじめとする、豊富な鉱物資源も魅力的です。このため、表向きは米朝関係に大きな溝があるように見えますが、金委員長、トランプ大統領ともに、個人的には「信頼できる男」との認識が共有され、持ち上げています。北朝鮮にとって貴重な「切り札」となる核兵器を簡単に手放すことはないと思いますが、米国との間で金王朝の体制が保障されれば、米朝協議は新しい段階に進む余地はあります。

韓国は消滅の危機?

 米朝協議を巡っては、すでに韓国の影が薄くなっています。このまま米国、中国、ロシア、北朝鮮の協力の下で朝鮮半島の非核化が進み、在韓米軍が引き揚げてしまうと、韓国の立場が不安定になります。結果的に韓国が北朝鮮に飲み込まれる形で半島が統一される可能性もあります。経済力からすれば圧倒的に韓国優位にありますが、政治主導で覆るかもしれないのです。

 米国にとって、中国やロシアとの間の緩衝国は、これまで韓国だったのですが、米朝主導の半島統一となれば、韓国の存在意義がなくなります。将来的には日本も同様の立場に陥るリスクはありますが、まずは韓国が存在意義を問われる大きな危機に直面する可能性があります。

 最近は日韓関係の悪化が注目されますが、米韓関係にもかなり「隙間風」が吹き始めました。韓国がこれ以上米国を刺激し、敵に回すと、韓国自身の存立基盤が揺らぎます。在韓米軍が引き揚げ、朝鮮半島が北主導の統一となれば、最悪の場合、韓国から大量の「難民」が北九州や新大久保に押し寄せる可能性もあります。そうなると日本も他人ごとでは済まなくなります。

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