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英米がノーベル賞受賞者を独占するのはなぜか?

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「Getty Images」より

 今年もノーベル賞受賞者が発表された。アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日にスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロ(平和賞)で授賞式が行われる。

 ノーベル賞受賞者数は、アメリカとイギリスが1位、2位を独占している。同様に、アメリカとイギリスが上位を占める世界大学ランキングと合わせて、なぜこの2カ国が強いのか。

アメリカとイギリスのノーベル賞受賞者数

 今年の受賞者の発表を受け、アメリカとイギリスの現在の受賞者数は累計でいくつになったのだろうか。

 ノーベル賞の公式ホームページには国籍別の受賞者の数は掲載されていないが、文部科学省が集計している一覧表がある(参照:文部科学統計要覧 平成31年版 17.科学技術・学術 「国別・分野別のノーベル賞の受賞者数 (1901~2018年)」)。

 受賞時の国籍(二重国籍者は出生国)、不明な場合は受賞時にメインで活動している国で2018年分まで集計したものに、今年の受賞者の出生国で分類して追加すると以下のようになる。

 1位のアメリカが361人、2位のイギリスが115人である。全受賞者950人のうち、アメリカが38.0%、イギリスが12.1%に該当し、合わせて50.1%を占めている。

 7位である日本の27人(2.8%)と比べると、アメリカとイギリスの圧倒的な実績がリアルに感じられる(ちなみに3位ドイツ、4位フランス、5位スウェーデン、6位スイス、7位日本)。

 「候補者の国籍が一切考慮されてはならない」というノーベルの遺言があるが、その通りであれば、何が影響しているのだろうか。

イギリスは今も自然科学分野に強いのか?

 ノーベル賞はご存知の通り6分野で設定されている。「物理学」「化学」「生理学・医学」「経済学」「文学」「平和」であるが、今回は前者3つの自然科学分野のノーベル賞について見てみよう。

 特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長で科学ジャーナリストの馬場錬成氏は、中国の科学技術に関するサイトである『Science Portal China』において、「自然科学の3分野は、厳格に評価された業績に対して授与するものであり、公正で絶対的な評価である。それだけに価値が高い」としている。

 現在、自然科学分野のノーベル賞受賞者数は、アメリカ267人、イギリス82人、日本24人である。

 アメリカには優秀な研究者が集中するイメージはあっても、今のイギリスにそのイメージはないのではないだろうか。

 ノーベル賞が始まったのは1901年のこと。第二次世界大戦が終わった1945年には、アメリカ18人、イギリス25人となっていた。ちなみにこの時点ではドイツがトップで36人だった(参照:文部科学省 ノーべル賞の各国受賞者数)。

 文化的に遅れをとっていた日本はこの時点ではゼロ。初めてノーベル賞を手にしたのは湯川秀樹氏で、1949年のことである。

 その後アメリカは急激に受賞者数を増やす。2000年までの半世紀の間に、累計でドイツ(63人)を抜き、アメリカ198人、イギリス69人となる。日本は6人だった。

 前述の通り、現在の自然科学分野の受賞者数は、アメリカ267人、イギリス82人、日本24人であるため、2001年から2019年の間だけで見ると、アメリカ69人、イギリス13人、日本18人が受賞したことになる。

 21世紀に入ってから、イギリスよりも日本のほうが多く受賞している。つまり、イギリスの受賞者の多さは、20世紀の遺物であると言える。

 『科学者が消える ノーベル賞が取れなくなる日本』(東洋経済新報社)の著者である岩本宣明氏によると、受賞者が対象となる研究を発表した年と受賞した年はおよそ25年のタイムラグがある(参照:東洋経済ONLINE)。

 山中伸弥教授のIPS細胞の場合は、業績が確定するのが特別早く、成果発表から受賞までたった6年だった。だが、今年のノーベル化学賞受賞が決定した吉野彰氏が、現在のリチウムイオン電池の基本形を完成させたのが34年前の1985年で、実用化を経てソニーから発売となったのが28年前の1991年であるのを考えると納得がいく。

 日本も含めてだが、2019年になっても、受賞は20世紀中の研究成果に対するものがほとんどだということだ。

アメリカ、イギリスが多く受賞した理由

 イギリスには華々しい大英帝国の時代があり、アメリカは現在も誰もが認める世界随一の大国である。

 世界最高峰と呼ばれる大学はこれらの国々にあり、20世紀中に集積された知識や潤沢な研究資金などからノーベル賞受賞者を多く輩出してきたのは誰もが知るところである。

 自然科学分野で受賞した人々の多くは、大学に所属する研究者であるという。確かにアメリカでは、教授が研究に没頭できる環境があるとはよく言われている。

 また、学部生の教育が大学院生や博士研究員によって行われることも珍しくない。

 日本のような上下関係がない、というカルチャーも、よい研究には必要なことなのだろう。

 1973年に物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏は、ノーベル賞を取るための5か条として、「大先生を尊敬するのはいいが、のめりこんではいけない」「自分を大事にし、他人のいいなりになる人間にはならず、ときには闘うことを避けてはならない」といったことを学生たちに話していたという(参照:Science Portal China)。

 2014年物理学賞受賞の中村修二氏(米国籍のため、日本人受賞者の人数外)は、「日本の研究室は上意下達が過ぎる。米国は学生と教授が対等だ」「日本は職位や性別、年齢、健康で差別がある」「研究者や科学技術を尊重する社会ではない」と指摘する(参照:ニュースイッチ)。

 さて、それ以外のテクニック的な理由はあるのだろうか。

 先述の岩本氏によれば、「研究者の論文数や被引用論文数の多寡とノーベル賞受賞には関連性がある」という。たとえば、2018年の本庶佑氏の生理学・医学賞受賞は、論文数や被引用論文数の多さからある程度予想されていたという。(参照:東洋経済ONLINE)。

 研究内容は当然のことながら、世界中からよく読まれ、引用もされる論文を書くとなれば、英語がネイティブのアメリカ、イギリスにはアドバンテージとなることだろう。

 ニュートン別冊『ノーベル賞110年の全記録』(ニュートンプレス)では、自然科学分野の選考方法を簡単に紹介している。ノーベル委員会(物理学賞と化学賞はスウェーデン王立科学アカデミー、医学・生理学賞はスウェーデンのカロリンスカ研究所)は、過去の受賞者や各国の大学教授などに候補者の推薦を依頼し、期日までに集まった推薦と、ノーベル委員会が独自で選んだ候補者を合わせて、そこから絞っていくという。

 受賞者が同じ国籍の研究者を推薦するとは限らないが、近しい人を推薦する可能性は高い。つまりノーベル賞は、すでに受賞者の多い国が有利であり続けるシステムになっているのだ。

日本からノーベル賞が生まれるのはあと何年? 基礎研究の予算増えず

 スマートフォンやパソコンに欠かせないリチウムイオン電池の開発に貢献した業績が認められ、旭化成の名誉フェローである吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞した。…

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英米がノーベル賞受賞者を独占するのはなぜか?の画像3 ウェジー 2019.10.12

「THE 世界大学ランキング」でアメリカ、イギリスが強い理由

 ノーベル賞同様に、上位をアメリカ、イギリスが独占しているのが、「THE 世界大学ランキング」である。イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が毎年発表しているもので、2020年版が9月に発表された。

1位から順番に、

    1. 1. オックスフォード大学(英)
    2. 2. カリフォルニア工科大学(米)
    3. 3. ケンブリッジ大学(英)
    4. 4. スタンフォード大学(米)
    5. 5. マサチューセッツ工科大学(米)
    6. 6. プリンストン大学(米)
    7. 7. ハーバード大学(米)
    8. 8. イェール大学(米)
    9. 9. シカゴ大学(米)
    10. 10. インペリアル・カレッジ・ロンドン(英)

    上位10校のうち、イギリス3校、アメリカ7校となっている。

     日本トップのはずの東京大学は36位とかなり低い。上位200校に入った日本の大学は、東京大学と京都大学(65位)のみだ。このランキングは純粋に学力だけを示しているわけではなく、日本の大学全般に「国際性が低い」という評価がつき、それが順位に影響したという(参照:教育新聞)。

     指摘された国際性の指標のひとつである留学生比率がランキングに添えられているが、上位5校で見てみると、オックスフォード大学(英)41%、カリフォルニア工科大学(米)30%、ケンブリッジ大学(英)37%、スタンフォード大学(米)23%、マサチューセッツ工科大学(米)34%とある。

     一方の日本は、東京大学12%、京都大学9%となっている。アジアのトップは23位の清華大学(中国)だが、ここも11%と低い。この比率は、明らかに世界共通語である英語圏が強い。

     ただ留学生比率を含め、ランキング指標のなかで国際性は7.5%にしかならない。「THE 世界大学ランキング」では、「教育(教育環境)」30%、「研究(量、収入、評判)」30%、「被引用論文(研究影響力)」30%、「国際性(教員、学生、研究)」7.5%、「産業界からの収入(知の移転)」2.5%という割合になっている。

     このように、「研究力」を重視しており、研究に関連する指標が60%も占めている。論文の被引用回数が、外部の研究への影響力として30%という高いウェイトであり、ノーベル賞と同様に重視されている。

     また「教育(教育環境)」30%のうち15%、「研究(量、収入、評判)」30%のうち18%、これらをポイントとして合算し、計33ポイントを占めるのが「評判調査」である。

  1.  WEZZYの執筆者でもある畠山勝太氏が書いた現代ビジネス「日本人がほとんど知らない『世界大学ランキング』の問題点」によれば、「タイムズ紙の説明によると、評判調査は、地理的な偏りが出ないように選ばれた世界各地の著名な研究者に、教育・研究面、それぞれで素晴らしいと思う15の大学を挙げてもらい、何%の研究者に言及されたかで点数を決めている。」という。

     畠山氏は、この奇妙な手法について「極端なことを言えば、評判を上げるために、世界中の著名な研究者に、東大との共同研究に多額の研究資金を付ける、東大での贅沢な研究発表ツアーを組む、といった対策を取れば、東大の世界ランキングの大幅な上昇すら見込める」としている。

     つまり、それぞれの大学について個別に意見を聞くことすら行われていないということで、思いつきの15校に入っていなければおしまいなのだ。これではもともと世界的に知名度の高い大学が有利であり続けるのも致し方ないところだろう。

     『世界中の著名な研究者』の散らばり具合がそもそも不明だが、『世界中の著名な研究者』ほど、権威付けも含み、「THE 世界大学」上位10校に入るような名門校で学んだ経験を持っていて、母校に愛着を感じている可能性がある。

     このように、ノーベル賞受賞者数も、「THE 世界大学ランキング」も、すでに上位である国が上位であり続ける構造がある。しばらくは変わらないだろう。

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