キャリア・仕事

副業を勧める企業側の思惑と危険な「ワナ」 失業しても保障が得られなくなる

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「Getty Images」より

 非正規労働に従事している方だけでなく、正社員として働いている方も給与が頭打ちになっている。30代以上方の中には、将来の昇給やボーナスをアテにして子供の教育費や住宅ローンを組んでいたために、苦境を強いられている人も多いはずだ。そのこともあってか、副業が史上空前のブームになっている。

 中小企業だけではない。大手企業でも副業解禁は加速している。本年6月、みずほファイナンシャルグループの坂井辰史社長は、メガバンクでは初めて副業を容認する方針を明らかにした。このこともあってか、サラリーマンとしての収入不足分を副業で埋められるという機運が盛り上がっている。

 しかしながら、安易に副業に手を出すと「ワナ」にかかるおそれもある。リスク回避をせずに委託や請負の仕事を副業に選んでしまうと、非常に危険である。

「委託・請負」の雇用形態は、すべて自己責任になる

 ハローワークの求人にはなぜブラック企業が多いのかでも説明したが、委託・請負は会社から雇用されて働く労働形態ではない。あくまで個人自営業者として働く形なので、労働基準法の規制が適用されない。そのため、仕事を完了させるまで何時間でも働き続けなければならない。   

 また、そもそも「給与」という概念で報酬を得るわけではない。そのため、もし、自分が仕事でミスをした場合、損害を弁済する羽目になり、報酬を得るどころか借金を背負ってしまう可能性もある。仕事の途中にケガをした場合も同様だ。雇われて働く場合と違って労災が適用されない。事業保険や損害保険などをかけておかなければ、莫大な医療費の支払いに苦しむことになりかねない。

 最近は、週末の時間や空いた時間を利用して気軽にできることをうたい文句に、引越しの手伝いや、飲食店の配達などのマンパワー提供を募集するケースが増えている。たとえ1時間の労働であっても、労災がないことや、仕事を完成できなければ報酬を得るどころか、損倍を賠償しなければならなくなる可能性があることをよく理解しておいたほうがいい。

 これは、最近増えてきた知識やスキルを提供する形態の副業でも同様だ。インターネット上でイラストを描いて提供したり、専門知識を提供したり、頭脳労働を提供するマッチングサイトが増えている。このような副業は労災こそ発生しないだろうが、作業時間がかさんで本業の時間を圧迫したり、納品した成果物をめぐって代金の支払いトラブルや、訴訟に発展するリスクもある。そのことを、よく想定しておいたほうがいい。

副業の最大のワナ 雇用保険が受給できなくなる

 もう一つ意識しておいてほしいのは、副業をはじめると雇用保険が受給できなくなるということである。これは請負・委託などといった、個人自営業者として副業を行う場合だけではない。土日や就業後にアルバイト・パートの形で働く場合でも同様である。

 雇用保険を「失業保険」と呼ぶ人も多い。会社を退職した後にハローワークに申請することで受け取れるお金のことだが、雇用保険が受給できる条件は、「まったくどこからも雇われていないか、自分でもビジネスを起こしていないこと。また、ビジネスを起こす準備をしていないこと」である。

 従って、副業でアルバイト・パートをやっていたり、個人自営業者(委託・請負)としてなんらかの仕事を始める準備をしていたり、すでに始めている場合は、雇用保険の受給対象者から外れてしまう。このことは最大のリスクの一つと意識して、副業を始めていただきたい。本業を失っても副業で十分に生活費を稼げるならいいだろうが、そうでない場合はあっという間に困窮しかねない。

企業のホンネは「解雇」をしやすくすること

 会社と雇用契約を結んで働いている場合、自分から辞めることに同意しない限り、会社側は社員を容易に解雇することができない。また、労働組合を使えば、ストライキなど方法をもって会社の業務を事実上妨害できるという権利すら与えられている。

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ウェジー 2019.11.26

 しかしながら、大多数の社員はそういった知識がなく、また、社内に一人で残って会社と対抗することを選ばない。このことを見越して、会社側は不要だと考えている人材が副業を始めたとたんに、解雇に追い込む可能性もありうる。

 一般的に、大多数の副業は委託・請負などの個人自営業者として働くケースがほとんどであり、労働基準法の規制内から外れる。仮に会社側が副業を認めていたとしても、委託・請負などの個人自営業者の形で副業を行っていれば、労働時間の問題で本業との差し障りが出てくるケースが多くなるはずだ。そこをつついて企業側が退職に追い込むケースは容易に想像できてしまうのだ。

 また、委託・請負といった個人自営業者の形でそれなりに収入が得られる状態になると、大多数の人が、会社員として時間拘束や人間関係で縛られる働き方を苦痛に感じてしまうだろう。そうした中で会社から退職勧奨の圧力を加えられた場合、退職を選んでしまうケースが増えるのはよく知られている。本人が個人自営業者として生活費を稼ぐことができ、いきいきと働けるのであれば個人の自由だが、企業側にとって都合よくクビを切れる人材になっていることは、頭に入れておいたほうがいい。

 大多数の会社が副業を容認しはじめたのは、賃金のベースアップを行わなくてよいことを最大のメリットとして考えているからだ。同時に、不要になった人員を効率よく解雇できるという目論見があると見て、ほぼ間違いないだろう。このことも副業を始める最大のリスクの一つとして胸に置いておいたほうがいい。

 後編で詳しく説明するが、万が一解雇された時に雇用保険以上の収入が得られないのなら、安易に副業には手を出すべきではないともいえる。

(監修/山岸純)
(執筆/松沢直樹)

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