eスポーツは「たかがゲーム」? 成績云々ではない教育効果とは

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「Getty Images」より

 コンピューターゲームやビデオゲームの対戦をスポーツ競技として捉える「eスポーツ」が、急速な発展・普及を見せている。

 ゲーム情報誌『週刊ファミ通』を発行するGzブレイン(現KADOKAWA Game Linkage)が推計・発表したところによれば、2018年の日本国内におけるeスポーツの市場規模は、前年比でほぼ13倍となる約48億円にも上ったという。

 規模の大小はあるものの、eスポーツの大会はほぼ毎日、世界中のどこかで開かれていると言われており、なかには超高額賞金を提供するものも。今年7月にニューヨークで開催された人気シューティングゲーム「フォートナイト」の世界大会では、優勝した16歳のプレイヤーが300万ドル(およそ3億2000万円)もの賞金を獲得した。これは、ゴルフ界のスーパースターであるタイガー・ウッズが2019年のマスターズ・トーナメントで優勝して得た賞金(207万ドル)よりも高額だとして、世界中を大いに賑わせた。

 現在、日本でもeスポーツのプロプレイヤーとして活躍する選手が数多く登場し始めている。eスポーツを部活動として認める高校も出てきており、昨年12月には、福岡県の福岡市立福翔高校が公立高校として初めて部活動へのeスポーツ導入を決定した。

 こうした動きを後押しするように、毎日新聞とIT企業のサードウェーブは今年11月、一般社団法人「全国高校eスポーツ連盟」を設立。eスポーツのさらなる普及を目指して、その教育的な価値を世間に向けてアピールしていくという。
  
 しかし、eスポーツを「たかがゲーム」と侮る向きはまだ根強い。教育現場にゲームを取り入れることへの違和感もあるだろう。

 そこでeスポーツの教育効果について、関東学院大学ほかで情報社会論、メディア論、社会学、若者文化論などの講師を務める加藤裕康氏に話を聞いた。加藤氏はゲームセンターをはじめとしたカルチャーを研究しており、「そもそもeスポーツとは何か──遊びを共有する楽しさ」「ビデオゲームはスポーツなのか」等の論文を発表している。

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加藤 裕康(かとう・ひろやす)/社会学者
東京経済大学大学院 コミュニケーション学研究科 コミュニケーション学専攻博士課程修了、博士(コミュニケーション学)。現在は、関東学院大学や聖学院大学ほかで、社会学やメディア論、情報社会論などの講師を担当している。著書に、第22回橋本峰雄賞を受賞した『ゲームセンター文化論』(新泉社)、共著に『多元化するゲーム文化と社会』(ニューゲームズオーダー)などがある。
Twitter<@hiroyasukatou

「ゲームに教育効果はあるのか」という議論のポイント

 まず、「ゲームの教育効果」と聞いて多くの人が抱きがちな“誤解”があるという。

「シューティングゲームを遊んでいても、ゲームとはまったく関係のない国語ができるようにはなりませんよね。“ゲームが教育の役に立つのか”という問題に対して多くの人は、一般的なゲームをプレイすることで数学を解く能力が向上したり、英語の成績が上がったりするのかと考えてしまいがちですが、それらは基本的に論理の飛躍だと思うのです。

 要するに、どういう教育に、どういうゲームが役に立つのかということを考えなければなりません。一口にビデオゲームと言っても、ロールプレイングゲームや格闘ゲームなどたくさんのジャンルに分かれています。そして教育にも、それぞれの教育に別々の意味や狙いがあります。

 教育を考える際に見落としてはならないのは、その時代で何に価値が置かれているかということで、それによって教育の中身も変わっていきます。ですから、“教育効果があるのか”という問いは簡単には答えられるものではなく、まずはその時代に何が求められているのかということから考えないといけないんです」(加藤氏)

 “教育効果”がすなわち、現在の学校教育における“成績向上”ではないということか。

「ビデオゲームはいわゆる遊びで教育の役には立たないと考えられがちですが、それは印象論に過ぎません。例えば、任天堂の家庭用ゲーム機『ファミリーコンピュータ』(1983)では、遊びながら英単語や算数がが学べる『ポパイの英語遊び』(1983)や『ドンキーコングJR.の算数遊び』(1983)などの教育ゲームがあります。これらはアクションゲームですが、勉学への動機付けとなってもアクションゲームそのものに英語や算数の教育効果があるわけではありません。

 また、米国では陸軍が兵士訓練のためにビデオゲームを制作しています。『Full Spectrum Command』(2003)というシミュレーションゲームなのですが、120人規模の軽歩兵隊を率いる司令官を育成するためにゲームによる訓練が効果的だと考えられていたわけです。優秀な兵士を育成するのに効果があるとしても、それは軍隊などの限られた場面しかありませんよね。

 つまり、そのゲームではどういった能力が必要とされるのか、そこでは何に価値が置かれているのかということを論じないと、教育効果については語れません。例えばシューティングゲームは、キャラクターを操作するときに言葉でものを考えないので言語的な能力を抑制しますが、その一方で地図を読み取る能力や空間認識能力が向上するとも言われています。しかし、言語的な能力が抑制されることにフォーカスすれば、『ゲームをやると人は馬鹿になる』と言うこともできてしまう。

 学校教育的な価値観のなかで、座学の成績向上だけが至上命題と考えるのならば、そういった科目を学べるゲームを開発しないと効果を上げるのは難しいと言えるでしょう」(加藤氏)

eスポーツで育まれるのは「学力」ではなく…

 それでは、eスポーツを通じて得られる能力にはどのようなものがあると考えられるか。

「身体面では、反射神経や瞬発力、集中力は高められるのではないでしょうか。また、eスポーツとして取り組まれているゲームのなかには、仲間と協力して相手と戦うというゲームも少なくありません。そういったチーム戦では、チーム内で戦略を立ててコミュニケーションを取りながらプレイしなければ勝てないでしょう。そういう意味では、母国語や外国語のコミュニケーション能力を高めるためにゲームを利用することは可能だと思います」(加藤氏)

 一口にeスポーツといっても、様々なジャンルのゲームがある。単純な成績向上ではなく、身体能力やチームワーク、コミュニケーションスキルに良い影響を与える可能性について、検討していくことになるのだろう。

「全国高校eスポーツ連盟が提携した北米教育eスポーツ連盟(NASEF)は、五教科についての単純な教育効果を狙っているということではなく、むしろ人生や社会に出た後の仕事において必要とされるコミュニケーション能力や問題解決能力、他者と連携して物事を進めていく能力などの教育効果を想定しているようです。

 要するに、eスポーツによってテストの点数が上がるとか、大学入試を突破できるといったことではなく、ゲームを通じてeスポーツ・シーンや現代社会で生きていくうえで必要とされる総合的な能力を伸ばすことが可能なのではないかと考えているのでしょう。そういう意味で言えば、私もeスポーツには教育効果があると考えています」(加藤氏)

 テレビゲームにはじまり、パソコンやスマホを利用したネットワークゲームは老若男女に普及している。「ゲーム依存」もひとつの社会問題として扱われてはいるが、ゲームとの付き合い方を誤らなければ、そこには問題解決能力やコミュニケーション能力の向上といったさまざまな効果を受け取れるポジティブな側面もあるということだ。

(文・取材=後藤拓也[A4studio])

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