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ヘイトスピーチに刑罰を課す条例が川崎市議会で可決。その歴史的な意義とは

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山田貴夫氏

 川崎市議会でヘイトスピーチの禁止を含んだ、「差別のない人権尊重のまちづくり条例」が可決された。この条例が画期的なのは、ヘイトスピーチへの刑事罰を盛り込んだところである。

 この条例により、ヘイトスピーチに関する違反を3回繰り返した場合、警察などに告発することが可能になり、裁判で有罪となれば最高50万円の罰金が科せられる。ヘイトスピーチに対して刑事罰が盛り込まれた法律・条例は初である。

 ヘイトスピーチに関する法律はすでに存在する。2016年には一般的に「ヘイトスピーチ解消法」と呼ばれる、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が施行された。

 しかし、これは「理念法」であり、具体的な規制や罰則は設けられていない。結果的に、街頭でもインターネット上でも、ヘイトスピーチは垂れ流されているのが現状だ。

 では川崎市の条例は現状の打開策となり得るのか。市民団体・ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワークで、ヘイトスピーチへのカウンター活動などを行ってきた山田貴夫氏に話を聞いた。

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山田貴夫
ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク事務局。フェリス女学院大学・法政大学非常勤講師。主な著書に『新 在日韓国・朝鮮人読本』(梁泰昊氏との共著/緑風出版)、『外国人は住民です』(江橋崇・編/学陽書房)など。

──今回の条例可決の意義について教えてください。

山田貴夫(以下、山田) 川崎市ではこれまで何度もヘイトスピーチが行われてきました。公的な施設を利用して集会が行われたこともありますし、駅前での街頭宣伝も繰り返し行われています。
 そうした流れのなかで、在日コリアンなど多くの外国人が暮らす、桜本にヘイトスピーチを叫ぶデモ隊が向かってきたことまであります。
 こういった動きを止めるには「警告」だけでは力を発揮できない。実際、彼らが公的な施設を利用するときはヘイトスピーチをしないよう警告したうえで許可することもあるんですけど、「はい。分かりました」と言いながら、後でYouTubeなどに公開された当日の模様を見てみると、ひどいヘイトスピーチをしていることが頻繁にある。
 そういう意味では、今回の条例で刑事罰の対象となることは、実効性をもたせるという意味では適切な措置だろうと思っています。

──これでヘイトスピーチはなくなるでしょうか。

山田 ヘイトスピーチをする人たちは確信犯でやっている人たちですから、今回のような条例ができても恐らくやめることはないと思うんですね。
 でも、この条例によって「ヘイトスピーチは犯罪なのだ」と社会に向けて発信することができるので、市民に対する啓発・教育効果という意味では、今回の条例でヘイトスピーチをすれば「罰則がつく」ということには大きな意味があるだろうと考えています。

──ヘイトスピーチに対する規制に反対する人々は、しばしば「表現の自由」を論点にあげます。

山田 日本も加入している人種差別撤廃条約という国際条約があって、これをもとにヘイトスピーチ規制に関する法律や条例はつくられています。
 人種差別撤廃条約に基づいてつくられた人種差別撤廃委員会でも「表現の自由」との兼ね合いに関する議論はありました。
 それが記されている一般的勧告35のなかでは、<人種主義的ヘイトスピーチから人びとを保護するということは、一方に表現の自由の権利を置き、他方に集団保護のための権利制限を置くといった単純な対立ではない。すなわち、本条約による保護を受ける権利を持つ個人および集団にも、表現の自由の権利と、その権利の行使において人種差別をうけない権利がある。ところが、人種主義的ヘイトスピーチは、犠牲者から自由なスピーチを奪いかねないのである>とあります。
 つまり、ヘイトスピーチには、マイノリティーの人々の「表現の自由」を萎縮させる効果がある。だから、他者の表現活動を制限するような差別的な表現に関しては制約が設けられてしかるべきだと述べているわけです。
 実際、日本の司法も似た立ち位置を示しています。たとえば大阪高裁は、京都朝鮮学校を相手にヘイトスピーチを行った在特会(在日特権を許さない市民の会)に対して「憲法13条の公共の福祉に反し、表現の自由の濫用であって、法的保護に値しない」としています。

──ヘイトスピーチ規制の文脈で「表現の自由」をもちだすのは、つまるところ「“差別する自由”を認めろ」と言っているようにしか聞こえません。

山田 そもそも、ヘイトスピーチ以外でも「表現の自由」というのは100%保障されているわけではありませんよね。
 名誉毀損にあたるような発言をすれば罰せられますし、公務員の政治活動など制約を受けるものもある。

──今回の条例には日本社会にとって歴史的な意義があると思うのですが、とはいえ、「50万円以下の罰金」という罰則はずいぶん甘めだなと思う部分があります。
 たとえばドイツでは、「ナチスドイツを讃美する」「ホロコーストを否認する」といった言動・行動を禁止するために、刑法第130条に「民衆扇動罪」という罰則があり、最長で5年の刑が科せられますよね。

山田 そうはいってもやはり「表現の自由」の議論に対する配慮はありましたし、あと、将来的に極右的な市長に変わった際、変な拡大解釈をされて逆に危険な条例となる可能性もありうるので、慎重な手続きを経ることになったという面はあると思います。

──マイノリティーを守るためにつくられた条例が、権力者に利用される可能性を勘案したわけですね。

山田 そうですね。
 それよりも課題だと思うのは、ヘイトスピーチに関しては基本的に「事後処理」であることです。
 公共施設の利用を許可しないといった対応はできますが、事前に中止命令などは出すことができません。
 ヘイトスピーチが行われた後に市民からの指摘に基づいて審議会が審議をし、ひどいものについては個人の氏名や団体の名前を公表、そして裁判へというかたちになっている。
 事前規制ができないというのは残念だと思いますが、一方で、表現の自由への配慮としては、やむを得ないのかなとも思います。

──マイノリティー側の人々、特に子どもは、「この社会には、自分たちの属性や出自だけを理由に、強い憎悪を抱く人がいる」という事実を目の当たりにするだけで、後々に大きな影響をおよぼすような傷が残りますよね。
 今回の条例ではインターネット上における差別的な表現は対象外ですし、まだまだ議論を続けることが求められています。

山田 インターネットを利用した不当な差別その他の人権侵害の救済に、市は必要な支援を行うとしていますが、市が削除要請などをしても運営会社がどういう対応をするのか、まだ未知数ですね。

(取材、構成、撮影:編集部)

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