ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。今、働き方改革の流れの中で、「副業」に注目が集まっています。
働き方改革に先立ち、厚生労働省は「モデル就業規則」を改定しました。改定された「モデル就業規則」では、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、新たに副業・兼業について規定が新設されています。政府として副業・兼業の普及促進を図っていきたい意思表示と受け取ることができます。
特に注目されているのは、労災保険法の改正で兼業・副業も労災対象になるという話題です。改定案は早ければ2020年度中の施行となる可能性があるとのことです。
現状では副業の労働時間はどう判断される?
これまでの労災認定の重要なポイントは「業務起因性」かつ「業務遂行性」の2点でした。つまり、仕事が原因となっている病気やケガ等で、なおかつ、業務時間中であることが、長きに渡っての労災認定の大きな判断基準だったのです。
労災の対象となり得る長時間労働に起因した「過労死」を想像してみてください。現状では、月80時間~100時間を「過労死ライン」としていますが、労働時間は会社ごとに計算しています。
例えば、A社とB社で兼業している人がいるとしましょう。A社での労働実態が1日8時間労働、週5日の勤務、残業なしとします。これは長時間労働にはなりません。その人は、A社退勤後にB社で1日5時間労働、週6日勤務していますが、やはり残業なしの場合、これも長時間労働にはなりません。
ただし、この方は、A社+B社で法定労働時間を月100時間ほど超えていることになります。これは「過労死ライン」を超えた労働時間です。ではもしこの方が長時間労働によって過労死してしまった場合、どちらの会社の労災として請求手続きをすればよいのでしょうか。現状では、こうしたケースで労災認定を受けるのは非常に難しいのです。
A社とB社の労働時間が通算される?
今月開かれた厚生労働省の部会で、まさにこの点に関する見直し案が話し合われ、判断基準が決まりつつあります。
見直し案は、A社+B社など複数の会社での労働時間が通算されるというものです。通算して法定労働時間を超える残業時間を出すことになれば、先述の労働者は100時間の残業となるので、過労死ラインに達していることになります。これで、現行法よりも労災認定が受けやすくなることは明らかです。
また、現行法では、労災保険の補償額は労災請求をした一方の会社の賃金に基づいて計算されますが、改定案ではA社とB社など就業している複数の会社の賃金で補償額を計算することを掲げています。当然ながら、補償額も増えることになります。
厚生労働省は、来年の通常国会にこの改正案を提出する予定としており、2020年度中の施行もあり得ると言われています。
「副業労災」の注意点や課題は?
注意していただきたいのはあくまで労災保険の対象者は「労働者」であるという点です。つまり、「雇用」されていることが必要なのです。
例えば、副業に関して、1社に雇用されているような働き方だったとしても、契約内容が業務委託契約や請負となっている場合は、「雇用」されている労働者ではなく、個人事業主・フリーランスとなります。
また、A社とB社など複数社の労働時間や勤務の状況を、誰がどう管理し把握していくのかなどの課題は正直全く見えてきません。
国として副業・兼業の普及促進を勧める以上、こういった課題への対策を素早く、わかりやすく整えてほしいものです。
こうした制度も重要ですが、副業をすべきか否か、仕事によって心身に支障をきたすことがないのかなどを、自分で的確に判断し、自分の身は自分で守っていく必要性をこれまで以上に感じます。