訪日観光客は増加しているのに、地方の旅館は衰退していく

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「GettyImages」より

 2003年に国土交通省が中心となって行っている訪日外国人旅行の促進活動「ビジット・ジャパンキャンペーン」が発足して以来、順調に訪日観光客が増えてきた。

 2003年時点では訪日観光客は約500万人であったが2018年には3,000万人を超え、過去最高を記録。15年で6倍である。

 増え続ける訪日観光客に合わせるかのように、外資系ホテルの開業ラッシュが止まらない。

 外資系ホテルだけではない。ビジネスホテルや簡易宿泊所の開業ラッシュも続いている。

 2020年以降も、ホテルの開業が日本各地で計画されている。ホテルだけでなく、様々な形態の宿泊施設が今後も開業していくだろう。

 しかし一方でこのままでは、近い将来、味のある小さな旅館は姿を消してしまうかもしれない。

インバウンドの恩恵を受けていない旅館

 近年、訪日観光客の影響で日本の宿泊者数は増加している。しかし観光庁の資料によると、宿泊施設の倒産件数は、増加傾向にあるのだ。

 平成26年から平成30年までの過去5年間の宿泊施設の増減を見てみる(※観光庁観光産業課「観光や宿泊業を取り巻く現状及び課題等について」より)。

・ホテル:+6%
・簡易宿泊所+27%
・旅館:−11% 
・下宿:−14.2% 
・全体宿泊施設(ホテル、旅館、簡易宿泊施設、下宿施設):+3.3%

 全体宿泊施設は微増。ホテルは増加、簡易宿泊所は大幅増加しているものの、旅館と下宿が大きく減少している。

 全体の宿泊施設数は微増しているのにもかかわらず、倒産件数が増加傾向にあるということは、旅館の倒産件数が多くを占めていると考えていいだろう。インバウンドの恩恵を受けていないのだ。

訪日観光客の6割がリピーター

 観光庁の平成29年の訪日観光客のうち約6割が訪日回数2回以上のリピーターである。

 リピーターが増えたことにより、観光の仕方も変わってきた。リピーターの多くは、訪れる場所を地方に移して観光する傾向がある。

 地方を訪れる多くのリピーターが、滞在中に日本らしい経験をすることを期待している。例えば「日本のお酒を飲むこと」や「温泉入浴」などだ。しかもリピーターかどうかに関係なく、訪日観光客の6割ほどが旅館に宿泊したいと考えている。

 これらのデータだけを見れば、日本の宿泊施設で有利なのは地方の旅館であるはずだ。しかし現状、旅館の件数減少に歯止めがかかっていない。一体なぜなのか?

地方を活性化させる訪日観光客

 地方全体に訪日観光客が訪れている一方で、日本人観光客(宿泊者)が減少している都道府県は約20カ所ある。

 その中で訪日観光客によって、延べ宿泊者数が増加している都道府県は約半分。また、延べ宿泊者数はマイナスであるものの、日本人減少分を訪日観光客で大きく補填している地域は2カ所ある。

 このことから訪日観光客は、多くの都道府県で延べ宿泊者数の増加に貢献しているといえるだろう。人口減少にあえぐ地方だが、訪日観光客の増加が地方活性化に一役買っているのだ。

 では、なぜ需要がありながら、旅館の件数は減少しているのだろうか。

 実は、これまでの旅館を支えてきた日本人の旅館離れが顕著なのだ。

 多くの都道府県で、日本人の旅館宿泊が減っている。団体旅行が減り、個人旅行が多くなったことから、ホテルやビジネスホテルに流れてしまっているようだ。

 また、頼みの綱の外国人にとって、旅館の敷居が高いことは想像に難くない。

 旅館独自のルールがわからない外国人もいるだろうし、多言語案内に対応していない旅館も多い。クレジットカードやWiFiに対応していない旅館もホテルに比べると多いのだ。

 確実に訪日観光客の宿泊は増えている。しかし、日本人の旅館離れを補えるほど訪日観光客を取り込めていない。

 もうひとつ、ホテル従事者の高齢化も大きな問題である。宿泊業界全体の問題でもあるが、地方の旅館は特に人手不足が顕著だ。若い働き手が入ってこないため、従事者の高齢化が進んでしまっている。

 後継者問題も深刻である。「名宿」といわれる旅館ですら、後継者がいないために存続の危機に直面することもあるのだ。

地方に進出する外資系ホテル

 地方旅館が訪日観光客の取り込みに苦労するなか、外資系ホテルの攻勢が始まった。

 訪日観光客の旅行スタイルが地方への観光へと移り変わっていくにつれて、外資系ホテルが地方への参入を始めた。

 これまで外資系ホテルといえば高級路線のシティホテルが多かったが、近年はカジュアルブランドでの進出を試みている外資系ホテルが多い。

 リッツ・カールトンなどを手掛ける世界最大のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルは、宿泊特化型・素泊まり型のシンプルなホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット」を開業予定だ。

 特徴は、全国各地の道の駅に隣接した場所に開業させることである。道の駅の近くに建てることによって、食事やお土産は道の駅、宿泊はフェアフィールド・バイ・マリオット……と棲み分ける。このホテルブランドは、2020年秋から5府県15カ所で開業予定だ。

 また、大手ホテルグループであるハイアットホテルアンドリゾーツは長らく日本で新規展開をしていなかったが、ここ数年で金沢やニセコに滞在型のホテルやカジュアルブランドのホテルを開業している。

 外資系ホテルは、訪日観光客にとって安定したサービスを受けられるので、安心して利用しやすい。しかも、多くの外資系ホテルが独自のホテルプログラムを持っている。

 ホテルプログラムとは、顧客を囲い込むためのポイントシステムである。運営しているホテルに宿泊するとポイントやステイタスが上がるため、他社運営の宿泊施設に浮気しにくくなるのだ。

 訪日観光客の層が富裕層から中間層まで広がったとはいえ、いまだに富裕層率は高い。富裕層は、すでに外資系ホテルの会員である可能性がある。せっかく彼らが日本の地方に旅行にきても、宿泊先を外資系ホテルに巻き取られてしまうことが考えられる。

 日本人が旅館に泊まらなくなってきている昨今、旅館にとって外資系ホテルの攻勢は脅威である。しかも、旅館を脅かしているのは外資系ホテルだけではない。

 訪日観光客の客層が多様化したことにより、中間層向けやバックパッカー向けのような安価な施設のニーズも大きい。

 その結果、ビジネスホテルが増え、簡易宿泊所が急増した。

 「簡易宿泊所」と聞くと「ドヤ街」の薄汚れた建物を連想する人も多いかもしれない。しかし近年は、オシャレな内装に清潔な空間を提供する施設が増えている。

 金銭的余裕がある人は外資系ホテルに宿泊、宿にお金をかけたくない人はビジネスホテルか簡易宿泊所という流れができつつあるのだ。

体力のある旅館・ない旅館

 もちろん、国も旅館側も今の状況をただ眺めているわけではない。観光庁では、訪日観光客へ向けた旅館の利用を促す事業が立ち上がっている。

 旅館側も、大型旅館では多言語化やWiFi設備などの対応を着々と進めている。しかし、中小規模の旅館は金銭的にも人的にも余裕がない。小規模旅館のホームページの多言語化対応率は50%未満だ。

 国の金銭的支援があるものの、すべての旅館はカバーしきれない。体力のない旅館は厳しい状況にあるのが現状だ。

旅館の改革と今後

 中小規模の旅館単体で問題を解決するのには限界がある。

 一部の地域は近隣の旅館・町と手を組んで、従来の経営から生産性向上の改革を始めたところである。生産性の向上によって、多少の問題は改善できるだろう。

 しかし、淘汰されてしまう旅館も今後出てくることが予想される。

 伝統的な旅館の姿を維持することは、必要条件である。そのうえで上手く訪日観光客を取り込むこと、従来の経営を変革させることが生き残りの分かれ目なのかもしれない。

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